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第20章 子どもが増える理由
381. 誰の邪魔も入らなかった温泉
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「大丈夫か? ヤン」
「ご心配には及びませぬ」
きりっと答えるヤンは、我は猫ではないので、と付け加えた。温泉地の屋敷に来たのだから、当然露天風呂を楽しむ。イヴがヤンも一緒にと強請ったのだが、ここでルシファーが眉を寄せる。
家族で入れば、リリスとイヴの裸をヤンに晒すことになる。ヤンを信頼しているし、彼が何かすると思わない。だが見られるのは複雑だった。フェンリルとしては老人に入るヤンだが、オスはオスだ。どこまで行ってもメスではない。
悩むルシファーに、リリスが提案した。
「簡単よ、私達から見える位置で護衛してもらうの。ヤンはお風呂を覗かない角度を向けばいいわ」
「さすがだ! リリス」
大喜びのルシファーにより、作戦は決行された。ヤンは露天風呂の洗い場の一角で座っている。護衛なので外を向いて、風呂の中は見ない。リリスに抱っこされたイヴは、己の要求を通して満足げだった。
一緒に湯船に入れたら最高だが、そこは我慢する。あまりにルシファーが悩んだので、イヴも考えたようだ。要求は二つ出したら一つしか通らない。そう学んだ。
事前に通達して結界を張ったので、今夜はベルゼビュートや大公女達の乱入はなかった。ベルゼビュートが来れば、巨乳を見てリリスの機嫌が悪くなる。大公女達は既婚なので、周囲に余計な噂を立てられてしまう。だったら結界を張ればいい、こんな簡単な解決法をなぜ実行しなかったのか。
ルシファーはのんびりと湯に浸かりながら、夜空を見上げた。久しぶりにゆっくりできた。今は人族もいないので、定期的に訪れる勇者の襲撃もなくなった。どの種族も子どもが増え、賑やかになり、街は活気付いている。
すべてが好循環だった。この後リリンが目覚めれば、魔の森の恩恵が再び豊かになるだろう。うっとり目を閉じて温泉を堪能し、浮き輪がわりにしがみ付くイヴを引き寄せる。リリスがくすくす笑い出した。
「ん? どうした?」
「だって、いつもこの温泉に来ると誰かが邪魔したでしょう?」
「ああ、まあな」
同じことを考えたルシファーも、おかしくなる。不思議なほど邪魔が入った。それが今夜は結界のお陰もあり静かだった。外は逆に、子育て準備で右往左往しているのに。リリスではないが、妙に笑える状況だった。
温めのお湯を楽しみ、洗い場でタオルに包んだイブを抱いて、パチンと指を鳴らした。一瞬で着替えを終える。リリスも一緒に部屋着を羽織らせ、ヤンを振り返った。微動だにしないフェンリルに首を傾げ、声をかける。
「ヤン? 部屋に戻るぞ」
しーんと返事のないヤンを回り込んで正面に立てば、彼は目を開いたまま気絶していた。どうやら硫黄の匂いが強烈だったらしい。
「イヴを連れて先に戻るから、ヤンを助けてあげて」
「悪いが頼む」
「やぁ!」
まだ絶賛イヤイヤ期のイヴがのけ反って抗議するが、あっさり無視される。遠ざかる気配を見送り、ヤンの周囲に結界を張った。匂いと温度を遮断し、しばらく様子を見る。
「はっ! 我は、いったい!」
「もういいぞ。付き合わせてすまなかった、部屋で寝よう」
優しく諭され、なんとなくヤンも状況を理解する。同情される状況だったのだろう。しょんぼり肩を落とし、役に立たなかったと反省するフェンリルに、魔王は問い詰めも慰めもしなかった。
こういう時は下手な言葉が彼を傷つける。長年の付き合いで理解しているルシファーは、ただ優しくヤンの毛皮を撫で、浄化で整えてやった。
「ご心配には及びませぬ」
きりっと答えるヤンは、我は猫ではないので、と付け加えた。温泉地の屋敷に来たのだから、当然露天風呂を楽しむ。イヴがヤンも一緒にと強請ったのだが、ここでルシファーが眉を寄せる。
家族で入れば、リリスとイヴの裸をヤンに晒すことになる。ヤンを信頼しているし、彼が何かすると思わない。だが見られるのは複雑だった。フェンリルとしては老人に入るヤンだが、オスはオスだ。どこまで行ってもメスではない。
悩むルシファーに、リリスが提案した。
「簡単よ、私達から見える位置で護衛してもらうの。ヤンはお風呂を覗かない角度を向けばいいわ」
「さすがだ! リリス」
大喜びのルシファーにより、作戦は決行された。ヤンは露天風呂の洗い場の一角で座っている。護衛なので外を向いて、風呂の中は見ない。リリスに抱っこされたイヴは、己の要求を通して満足げだった。
一緒に湯船に入れたら最高だが、そこは我慢する。あまりにルシファーが悩んだので、イヴも考えたようだ。要求は二つ出したら一つしか通らない。そう学んだ。
事前に通達して結界を張ったので、今夜はベルゼビュートや大公女達の乱入はなかった。ベルゼビュートが来れば、巨乳を見てリリスの機嫌が悪くなる。大公女達は既婚なので、周囲に余計な噂を立てられてしまう。だったら結界を張ればいい、こんな簡単な解決法をなぜ実行しなかったのか。
ルシファーはのんびりと湯に浸かりながら、夜空を見上げた。久しぶりにゆっくりできた。今は人族もいないので、定期的に訪れる勇者の襲撃もなくなった。どの種族も子どもが増え、賑やかになり、街は活気付いている。
すべてが好循環だった。この後リリンが目覚めれば、魔の森の恩恵が再び豊かになるだろう。うっとり目を閉じて温泉を堪能し、浮き輪がわりにしがみ付くイヴを引き寄せる。リリスがくすくす笑い出した。
「ん? どうした?」
「だって、いつもこの温泉に来ると誰かが邪魔したでしょう?」
「ああ、まあな」
同じことを考えたルシファーも、おかしくなる。不思議なほど邪魔が入った。それが今夜は結界のお陰もあり静かだった。外は逆に、子育て準備で右往左往しているのに。リリスではないが、妙に笑える状況だった。
温めのお湯を楽しみ、洗い場でタオルに包んだイブを抱いて、パチンと指を鳴らした。一瞬で着替えを終える。リリスも一緒に部屋着を羽織らせ、ヤンを振り返った。微動だにしないフェンリルに首を傾げ、声をかける。
「ヤン? 部屋に戻るぞ」
しーんと返事のないヤンを回り込んで正面に立てば、彼は目を開いたまま気絶していた。どうやら硫黄の匂いが強烈だったらしい。
「イヴを連れて先に戻るから、ヤンを助けてあげて」
「悪いが頼む」
「やぁ!」
まだ絶賛イヤイヤ期のイヴがのけ反って抗議するが、あっさり無視される。遠ざかる気配を見送り、ヤンの周囲に結界を張った。匂いと温度を遮断し、しばらく様子を見る。
「はっ! 我は、いったい!」
「もういいぞ。付き合わせてすまなかった、部屋で寝よう」
優しく諭され、なんとなくヤンも状況を理解する。同情される状況だったのだろう。しょんぼり肩を落とし、役に立たなかったと反省するフェンリルに、魔王は問い詰めも慰めもしなかった。
こういう時は下手な言葉が彼を傷つける。長年の付き合いで理解しているルシファーは、ただ優しくヤンの毛皮を撫で、浄化で整えてやった。
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