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第20章 子どもが増える理由

375.少子化も生まれ過ぎも幹部会議です

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 様々な種族から寄せられた陳情書や報告書を、アスタロトは淡々と仕分けた。慣れた作業はすぐ終わり、顔を見せた他の大公を交えて対応を決める。

 いわゆる幹部会議だ。他に貴族が参加しないので、謁見の間ではなく執務室を使った。ベルゼビュートは陳情書の多さに眉を寄せる。

「子どもが足りなくても困るけど、多過ぎても大変なのね」

「簡単な話ですよ、ベルゼビュート。子育てに慣れていない大人が多いのです」

 子育ての回数が多い種族から、助っ人を頼む。いつもならこの対策で問題なかった。子育て経験の豊富なラミアや魔獣も、大量の赤子を抱えていた。手を貸してくれと頼んだら、自分達のことを後回しにしても頑張ってしまう。特にルシファーが頼むなら、なおさらだった。対応策が完璧でなければ、頼まれた側が陳情する羽目に陥る。

「うーん、嬉しい悲鳴ってこういうのを言うんだよね」

「賢いですね、ルキフェル」

 この擬似親子はいつもこの調子だ。書類を数枚確認したルシファーは、思いがけない方法を提案した。

「すぐに生まれない卵はまとめて一箇所で温めよう。温泉街の屋敷がいいな。それから冬眠が可能な種族はどのくらいいる?」

 すぐにアスタロトが集計し始めた。数字に強いベルゼビュートが補佐に入る。計算を行った結果、生まれるタイミングを調整できる卵の孵化を変更することになった。これで二割近く、赤子の数を先送りできる。加えて冬眠可能な種族を選別した。

 生まれた後、人為的に冬眠状態にすれば、さらに三割近い種族の育児をずらせる。あれこれと調整した結果、最終的に半数近い赤子は育児の時期を変更可能だった。

「これなら、ぎりぎり回せそうですね」

 育児経験豊富な種族を、専門職として派遣する。神龍族のように子育てに慣れない種族は、手助けを受けることが決まった。もちろん対価も必要だ。だがどの種族も、己の子孫として命を繋ぐ赤子のための出費を惜しまないだろう。

「アルラウネはどうだ?」

「寒くすることで、繁殖を防げるわ」

 心地よい気候を、わざと厳しくする。魔族だが植物系なので、ドライアドと一緒で休眠状態にすることが可能だった。人族に「マンドラゴラ」と呼ばれて、勝手に収穫され激減した種族なので、増えるのは歓迎だ。ただ時期が悪かった。

 調整を終えて、何とかなりそうな目処が立つ。ほっとした顔で大公達が肩の力を抜いた。ルキフェルは魔法陣で、卵を温めたりアルラウネの生息域調整を担当する。精霊達は身籠ってから外へ生み出す日を、魔力によって調整できるらしい。その辺はベルゼビュートに任せた。

 アスタロトも同族の子をすべて深い眠りに導く。魔力供給だけきっちり管理すれば、数十人の赤子は冬眠状態として後回しに出来た。神獣の子は卵が多く、孵すまで時間が長い。大量に生まれた卵を種族に合わせ、ゆっくり調整するとベールが請け負った。

「大丈夫だと思うが、どの種族の子も障害が起きたり、生存率が下がるようなら報告して改善しろ。子育ての手が足りなくとも、生まれて育たなければ意味がない」

 多少手隙だったとしても、生まれるチャンスを奪われる子がいてはならない。これは魔王の命令として、すべての種族に通達された。篩い分けされた計画に基づき、大公達が動き出す。もちろん、ルシファーも例外ではなかった。

「ふーん、お母様に相談してみようかしら」

 話を聞いたリリスはイヴを膝に乗せて、少し首を傾げる。窓の外へ目をやり、ひとつ大きく頷いた。

「平気そうだから、お母様に話してくるわ」

「そうか、ならオレも行く」

 ついて行って一緒に頼むぞ。そう口にして笑う夫をじっくり見つめ、リリスはきょとんとした顔で目を見開いた。

「あなたが一緒なのは当然よ、ルシファー」

 当たり前なのに、どうしてわざわざ宣言したのかしら。そんなリリスの視線に、居心地悪くルシファーは目を逸らした。
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