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第20章 子どもが増える理由
373.あのね、たくさん生まれちゃうの
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陸と海の問題を片付け、ルシファーは浮かれながら魔王城へ転移した。中庭でサタナキア達と別れる。彼らはこのあと休暇に入るのだ。
「お疲れ」
「陛下もゆっくりお休みください」
サタナキア将軍の丁寧な挨拶に手を振り、イポスが住む一角へ向かう彼の背を見送った。そうか、イポスは育児休暇を延長したっけ。マーリーンも大きくなったし、徐々に復帰する意思を見せている。今は数日に一度、半日の勤務をこなしていた。
二人目は予定していないのだろうか。ふとそんな考えが過った。各家庭の自由だし、干渉する気はない。だが、最初の子の妊娠で苦労したリリスが、あっさり二人目を宿したので、なんとなく思っただけ。
身重のリリスは外出が制限される。アスタロトがいない分だけ、ベールの監視が厳しく行われるはず。先日のキャンプ中の行方不明事件が尾を引いていた。さすがにオレも焦ったし。
階段を登り、途中でベリアルにリリスの居場所を確認する。もしかしたらお茶会か? そう思ったが、部屋でイヴと遊んでいるらしい。ホッとしながら自室に入れば、二人はヤンの毛皮に埋もれて眠っていた。
部屋の中央で丸まったヤンは、顔を上げ「おかえりなさいませ、我が君」と挨拶を寄越す。小声なので、同じように声を潜めて「今戻った」と答えた。
もぞもぞと寝返りを打つイヴが、突然目を開ける。きょろきょろと見回し、ルシファーを見て両手を伸ばした。
「ぱっぱ!」
全力で叫んだので、リリスも起きてしまった。目元を擦り「おかえり、ルシファー」と声にした後、大きな欠伸をひとつ。イヴは元気にヤンの毛皮を叩いた。
「おっして、にゃん!」
下ろしてとヤンに頼むイヴを、魔法で引き寄せる。ふわふわと移動するイヴは、無効化を使わなかった。不安なので、二重三重に魔法陣を待機させていたが、使わずに消す。
「ルシファー、今の危ないわ」
「近くだし、下にヤンがいたからな」
「そうね、ヤンがいれば平気ね」
一応注意したものの、クッション役のヤンがいれば、大ケガはあり得ない。その上、イヴ自身が望んだ腕なので、到着まで大人しくしていた。腕に抱いたイヴは、嬉しそうに髪を握る。これはリリスと一緒だった。
「懐かしいぞ、ほら」
「リリス様と同じですな」
ヤンも同意する。リリスはそんなに髪を弄ったかしら、と首を傾げた。本人は無自覚でも、よく純白の髪を握って腕を振り回した。その話を聞きながら、リリスが重要な報告をする。
「明日からアスタロトが戻るわよ」
「……アデーレはまだ休暇中だったが、なぜだ?」
妻の妊娠に合わせた休暇なのだし、もう少し休めばいいのに。長期の眠りに入る時以外、滅多に休まない側近が申し出た休暇だ。しっかり休ませてやりたいと考えた。だから書類も溜めていないし、視察や各種族への手助けも自ら動いた。
もう少し休めばいい。吸血種であるアデーレの妊娠期間はおよそ1年、そろそろ安定期に入ったのか?
リリスの時の知識でそう判断したが、リリスは予想外の発言をした。
「あのね、吸血種もたくさん生まれちゃうの」
「ど、どのくらい?」
「数十人くらい」
けろりと言い放ったが、ルシファーは青ざめた。吸血鬼は人に似た生態だが、名前の通り他者の血を吸う。出産間近の妊婦が増えれば、吸血の量が大幅に増える可能性があった。各種族の頼み事を叶え、代わりに血を貰う吸血鬼にとって、大量出産は餓死の危機でもあった。
喜ばしい祝い事であるが、食料の血が確保出来なければ、大惨事に変わる。慌てたルシファーは、リリスの話を最後まで聞かず、転移で城を飛び出した。残されたリリスは、呆れたと溜め息をつく。
「まだ続きがあったのに」
「お疲れ」
「陛下もゆっくりお休みください」
サタナキア将軍の丁寧な挨拶に手を振り、イポスが住む一角へ向かう彼の背を見送った。そうか、イポスは育児休暇を延長したっけ。マーリーンも大きくなったし、徐々に復帰する意思を見せている。今は数日に一度、半日の勤務をこなしていた。
二人目は予定していないのだろうか。ふとそんな考えが過った。各家庭の自由だし、干渉する気はない。だが、最初の子の妊娠で苦労したリリスが、あっさり二人目を宿したので、なんとなく思っただけ。
身重のリリスは外出が制限される。アスタロトがいない分だけ、ベールの監視が厳しく行われるはず。先日のキャンプ中の行方不明事件が尾を引いていた。さすがにオレも焦ったし。
階段を登り、途中でベリアルにリリスの居場所を確認する。もしかしたらお茶会か? そう思ったが、部屋でイヴと遊んでいるらしい。ホッとしながら自室に入れば、二人はヤンの毛皮に埋もれて眠っていた。
部屋の中央で丸まったヤンは、顔を上げ「おかえりなさいませ、我が君」と挨拶を寄越す。小声なので、同じように声を潜めて「今戻った」と答えた。
もぞもぞと寝返りを打つイヴが、突然目を開ける。きょろきょろと見回し、ルシファーを見て両手を伸ばした。
「ぱっぱ!」
全力で叫んだので、リリスも起きてしまった。目元を擦り「おかえり、ルシファー」と声にした後、大きな欠伸をひとつ。イヴは元気にヤンの毛皮を叩いた。
「おっして、にゃん!」
下ろしてとヤンに頼むイヴを、魔法で引き寄せる。ふわふわと移動するイヴは、無効化を使わなかった。不安なので、二重三重に魔法陣を待機させていたが、使わずに消す。
「ルシファー、今の危ないわ」
「近くだし、下にヤンがいたからな」
「そうね、ヤンがいれば平気ね」
一応注意したものの、クッション役のヤンがいれば、大ケガはあり得ない。その上、イヴ自身が望んだ腕なので、到着まで大人しくしていた。腕に抱いたイヴは、嬉しそうに髪を握る。これはリリスと一緒だった。
「懐かしいぞ、ほら」
「リリス様と同じですな」
ヤンも同意する。リリスはそんなに髪を弄ったかしら、と首を傾げた。本人は無自覚でも、よく純白の髪を握って腕を振り回した。その話を聞きながら、リリスが重要な報告をする。
「明日からアスタロトが戻るわよ」
「……アデーレはまだ休暇中だったが、なぜだ?」
妻の妊娠に合わせた休暇なのだし、もう少し休めばいいのに。長期の眠りに入る時以外、滅多に休まない側近が申し出た休暇だ。しっかり休ませてやりたいと考えた。だから書類も溜めていないし、視察や各種族への手助けも自ら動いた。
もう少し休めばいい。吸血種であるアデーレの妊娠期間はおよそ1年、そろそろ安定期に入ったのか?
リリスの時の知識でそう判断したが、リリスは予想外の発言をした。
「あのね、吸血種もたくさん生まれちゃうの」
「ど、どのくらい?」
「数十人くらい」
けろりと言い放ったが、ルシファーは青ざめた。吸血鬼は人に似た生態だが、名前の通り他者の血を吸う。出産間近の妊婦が増えれば、吸血の量が大幅に増える可能性があった。各種族の頼み事を叶え、代わりに血を貰う吸血鬼にとって、大量出産は餓死の危機でもあった。
喜ばしい祝い事であるが、食料の血が確保出来なければ、大惨事に変わる。慌てたルシファーは、リリスの話を最後まで聞かず、転移で城を飛び出した。残されたリリスは、呆れたと溜め息をつく。
「まだ続きがあったのに」
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