上 下
373 / 530
第20章 子どもが増える理由

371.実は海でも生まれていました

しおりを挟む
 レラジェは元々、消滅させるために生み出された命だ。魔の森は最愛の魔王ルシファーの補佐に、三人の側近を用意した。実力者で、それぞれ得意分野が違う。性格も考え方も異なる大公は、ルシファーの試作であり、手足でもあった。

 四人目の大公となったルキフェルは、本来魔の森にとって「消滅させる」魔力の塊だ。そのため魔力量の多い瑠璃竜として生まれた。ルシファーやベールが可愛がるので、魔の森リリンが譲った経緯がある。それが判明したのは、レラジェの存在だった。

 今度は失敗しないよう、魔力を集めて凝らせ森へ戻すため。レラジェは己の運命を最初から知っていた。刻まれた運命を辿ろうとした彼は、紆余曲折あったものの……今も生存している。

 同族がいないが、唯一近いのはリリスだろう。同じ魔の森から役割を与えられ、生み出された存在だ。気の合うアンナの子ども達と一緒に暮らすレラジェは、幼かった外見はそのままに魔王城に勤めていた。

「アンナ母さん、これ無理だよ。手助けしないと崩壊しちゃう」

 育児の手助けや物資の補充を求める申請書類の山から、緊急性の高い事案を選んで引っ張り出す。レラジェはアンナと同じ部署で、今回の出産ラッシュの対応に追われていた。

 魔の森も、計画的に動けばいいのに。そう思うが、嬉しいと暴走するのは理解できる。レラジェ自身も、興奮すると前後の事情をすっ飛ばしてしまう。計画性がないのは、生みの母譲りだろうか。

 アンナが家に来ればいいと言ってくれたことが、本当に嬉しかった。役に立とうとお手伝いを始めたが、そんなのはもっと大きくなってからでいいと断られる。役立たずなのに、いいのかな? そんな不安を、双子のスイとルイが振り払った。

 可愛いと連れ回し、遊びを教えた。何もしない時間という贅沢を共に楽しみ、レラジェは自我を確立する。誰かのためではなく、自分のために行動することを知った。その上で、育ての母であるアンナの手伝いをしたいと申し出たのは、数ヶ月前だった。

 共に同じ部署で書類の整理や、分類に勤しむ。意外なことに、レラジェは緊急の書類を見つけるのがうまかった。何らかの才能かも知れない。緊急性が高いと感じた書類を引き抜き、中身に目を通すことなくアンナへ渡す。確認した彼女が、上層部へ書類を回した。

「偉いわ、レラジェ。ここの書類が終わったら、一緒に昼食にしましょうね」

「うん」

 元気よく返事をして、また書類の分類作業に戻った。そんなレラジェが、不思議そうに一枚の紙を引っ張り出す。じっと見つめるだけで、誰かに渡そうとしなかった。

「面倒な内容なの?」

 アンナが首を傾げた。ようやく我に返った様子で、レラジェはメモ用紙に似た紙をアンナへ回す。書類として決められた形式が整っていない。いつもなら却下だが、レラジェが反応したなら緊急事態の可能性があった。

 さっと目を通したアンナは目を見開き、レラジェを連れて書類部屋を出る。階段を登り、魔王の執務室の扉をノックした。最強の魔王が常駐する部屋だけあって、扉に護衛はいない。

「どうぞ」

 声と同時に扉を開き、アンナは遠慮なく踏み込んだ。持ってきた紙を机の上に置く。ルシファーは署名が終わった書類を隣に置き、メモのような紙を手に取った。縁がボロボロに朽ちて、古紙に見える。

「古代文字……? これは海からか」

 呟いたルシファーは、大急ぎでベルゼビュートを呼んだ。海を含めた辺境地域を一番知るのは、普段から見回りをする彼女だった。

「ベルゼ!」

「わたくしも暇ではありませんのよ」

 文句を言いながらも、ピンクの巻き髪にカーラーが残っている。どう見ても風呂上がりだった。肌も艶々して、硫黄の香りを纏う女大公は、渡された紙を解読して眉を寄せる。

「海で出産ラッシュ……地上と同じですわね」

 そう、海でも大量の出産が続き、手が足りなくなった。誰でもいいから手を貸してくれ、という嘆願書だ。悪いが貸せる手は余っていない。そう返答するべきだが、ルシファーは大きく溜め息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

クソガキ、暴れます。

サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。 ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~

ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆ ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様にて先行公開しております。

処理中です...