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第20章 子どもが増える理由

368.外の広い世界は怖くなかった

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 琥珀竜のゴルティーは、小さな翼に風を受ける。魔力で浮いて動力にしながら、方向転換を行なった。旋回して着地する。とてとてと短い脚で近づき、くわぁと鳴いた。

 やってみてよ。そう告げられたモリーは、恐る恐る魔力を纏う。使用する魔力量の調整が難しく、ぼんと空中に弾き出されて落下した。

「おっと、危ない」

 通りかかったデュラハンが受け止める。首はないが気のいい種族だ。馬の脚を折りたたんで座り、人の腕で抱いたモリーを下ろした。

「気をつけるんだよ」

 こくんと頷くモリーの頭を撫でて、彼は仕事に戻って行った。その後ろ姿を見つめ、モリーは考える。今までは母と自分しかいなかった。たまに祖父母を名乗る年老いたドラゴンが現れたが、ここ最近は顔を見せない。

 ずっとドラゴンしか知らなかった。他の種族は絵本で見るだけ。いつもの湧水池に向かう途中で、聞き慣れない声や知らない気配に驚いて、木から落ちた。洞窟から辿って来た魔の森の木の枝を滑った先が、卵焼きの鉄板だったのだ。

 あの日から、世界が広くなった。母は嬉しそうに知らない人達に甘える。びっくりするくらい綺麗な色と顔の人達だった。しばらくここで暮らすと聞いている。

 ぐるりと見回せば、応援するイヴや手本を示すゴルティーがいた。知らなかったけど、お友達というらしい。マーリーンは優しいし、大きなお姉さんのスイは温かくて好きだ。イヴが駆け寄り、考え込むモリーを抱きしめた。

「あとちょっとだよ」

「きゅぅ」

 声に出して答える。母モラクスも、人と話すのは苦手だと言った。いろんな人がいる世界で生きていくなら、言葉で伝える方がいい。言葉もまだ上手じゃないけど、いつかゴルティーみたいに話したい。モリーは素直に気持ちを伝えた。

 鳴き声にしか聞こえないモリーの話を、イヴは真剣に聞いた。話し終わるとゴルティーが翻訳する。イヴは小さな手を伸ばし、子竜の頭を撫でた。

「仲良くしようね、モリー」

 広い世界で名前ができた。モリーが名前で、呼ばれると嬉しくて擽ったくなる。きゅぅ!! 大きな声で答え、もう一度チャレンジした。

 もっと量を絞って、少しずつ下へ向けて発射する。琥珀竜を見て学んだことを活かし、ふわりと浮き上がる。わずかに浮くところまでは出来た。ここから高さを出していく。集中して真剣な顔で頑張るモリーの脇腹を、イヴが突いた。

 びっくりして逃げる。何するの、抗議の声を上げたらイヴが手を叩いた。

「浮いてる!」

 指摘されて、かなり上空まで逃げたことに気づく。調整出来ているようで、落ちそうな不安はなかった。背中の小さな翼を広げて傾けると、下にした左の翼を起点にくるくると回る。そのまま降りた。

「出来たじゃん」

 褒めるゴルティーが、乱暴に背中を叩く。イヴは抱きつき、一緒に芝の上を転げ回った。楽しくなって、さらに転がる。声を上げてはしゃぐ娘モリーの姿に、モラクスは表情を和らげた。

「モラクス、こっちに寄って」

 リリスは巨大なフェンリルのヤンを椅子がわりに寛ぎ、手招きする。おずおずと近づいた。身を起こしたリリスが、小型化したモラクスの首に手を回して一緒に倒れ込む。

「触るわよ、ほら。ヤンは気持ちいいんだから」

 子どもを放って昼寝に誘うリリスは、モラクスに抱き付いた状態で目を閉じた。振り解くのも気が引けて、大人しく目を閉じる。森の王者フェンリルの毛皮を敷くなど、畏れ多い。そう思うが、ふわふわした感触はたまらなかった。

 黄金や宝石は光るのが好きで集めるが、今後は毛皮も欲しい。部屋に敷いたら、きっと気持ちいいだろう。倒して奪う気はないので、代わりになる絨毯でもいい。金貨を何枚出したら買えるか。後で魔王様か、大公様達に尋ねてみよう。うっとりしながら、モラクスも目を閉じた。
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