上 下
367 / 530
第20章 子どもが増える理由

365.久しぶりの巨大竜モラクス出現

しおりを挟む
 目玉焼きはしっかり火を通して、念のために浄化魔法も掛ける。万が一にも毒を食べないためだ。ルシファー自身は解毒するだろうが、周囲の者が危険だった。

 目玉焼きは半熟の黄身を割って、大きく切り分けた白身にかけて頂く。パンに挟んだり、単独で食べたり。おいしく最後まで食べ切った。意外にもプータナーよりイポスの方が食事量が多い。巨人族の巨体は、魔法陣で小型化すると少食になるそうだ。エネルギー効率の問題らしい。疑問を持ったベールやルキフェルが調査済みだった。

 キャンプも最終日ともなれば、各テントの子は越境して遊び始める。同じテントの子と遊ぶより、他のテントの子と交流を深めた。湧水池は水の精霊やドライアドが監視し、危険があれば救い出す算段も整っている。親は子ども達を自由に交流させ、親同士でお茶を飲み始めた。

 ルシファーもあっという間に囲まれ、膝にリリスを座らせて芝の上に腰を下ろす。巨木を中心に集まった親達と雑談し、交流して時間を過ごした。

 穏やかな日差しが降り注ぐ巨木の下は、いつの間にか子ども達が集まってくる。遊び疲れて眠る子も現れたところで、轟音が響いた。

「ぐぁあああああ!」

 悲しそうな叫び声に、魔獣の子が飛び起きる。他の子も釣られて起き上がり、誰かが泣くと釣られて広がった。幼い方が感受性が豊かなのだろう。叫んだ誰かの感情に引き摺られて、涙が止まらない。

 結界で音や刺激を遮断し、ルシファーは外へ出た。付いてきたがったが、リリスにはイヴの守りを頼む。上空で舞うルキフェルが、ルシファーに気付いて近づいた。

「ねえ、この子の親かも」

「ああ、ドラゴンの声だったな」

 我が子を見失った親の叫びか。それならば悲しそうな響きの理由も理解できる。羽音が聞こえ、巨大なドラゴンが現れた。ややオレンジがかったドラゴンを見て、ルキフェルが目を見開く。

「彼女の子だったんだ」

 ずっと穴倉に閉じこもり、外へ出てこなかったドラゴンだ。水竜同士の両親から生まれた、隔世遺伝の火竜だった。父竜が妻の浮気を疑い、大喧嘩して山をひとつ崩壊させたのは数千年前である。懐かしい記憶を呼び起こした二人は顔を見合わせた。

 生まれた子竜は娘で、確かに数千年経てば大人になる。どころか結婚適齢期を過ぎていた。そんな彼女が人知れず妊娠し、子を産んでいたのだ。

「すぐに返そう」

 ルシファーが子竜を抱えて、翼を広げる。以前は漆黒だった翼も今は純白だ。光を弾く力の象徴を4枚広げ、腕に抱いた子竜を火竜の前に掲げた。

「久しぶりだ、モラクス。そなたの子か?」

 赤い瞳を瞬かせ、大きく頷く。巻き起こした風で、子竜が落ちそうになった。慌てて抱え直し、小さな前足を差し出すモラクスへ渡す。子竜はくんくんと匂って、甘える声を出した。間違いなく親子だ。

「いつの間に親になったんだ? 知らせてくれたら祝ったのにな」

 恥ずかしそうな彼女へ、収納から取り出した宝石箱をひとつ渡した。目を瞬かせて摘んだ宝石箱を眺めるモラクスへ「お祝いだ」と伝える。自分が火竜として生まれたことで、両親が仲違いをした。そう責任を感じて引きこもった彼女が、外へ出たのだ。いい思い出を持ち帰って欲しい。

 我が子を見失って混乱したモラクスの気持ちを、穏やかにしてやりたかった。ドラゴンは誰でも光る宝石や金貨が好きだ。金細工の箱に詰めた宝石は、ドラゴン好みのはず。少し待つルシファーの前で、金の箱を覗いたモラクスは目をとろんと和ませた。

「持ち帰ってくれ。それとまた顔を出してくれないか? ベールも心配してたからな」

 承諾したモラクスは頭を下げて礼を伝え、洞窟へ戻って行った。大切な我が子を舐めて咥え、腕にお祝いの品を抱えて。後ろ姿を見送り、お昼の狩りを始める。巨大なドラゴン出現の影響で、獲物が逃げてしまった。急遽予定を変更し、魚獲りに興じた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

『ラズーン』第二部

segakiyui
ファンタジー
謎を秘めた美貌の付き人アシャとともに、統合府ラズーンへのユーノの旅は続く。様々な国、様々な生き物に出逢ううち、少しずつ気持ちが開いていくのだが、アシャへの揺れる恋心は行き場をなくしたまま。一方アシャも見る見るユーノに引き寄せられていく自分に戸惑う。

【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。 食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。 「あなた……毛皮をどうしたの?」 「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」 思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!? もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/09/21……完結 2023/07/17……タイトル変更 2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位 2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位 2023/07/15……エブリスタ トレンド1位 2023/07/14……連載開始

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

群青雨色紫伝 ー東雲理音の異世界日記ー

MIRICO
ファンタジー
東雲理音は天文部の活動で、とある山奥へと旅行に行った。 見たことのない星空の中、予定のない流星を目にしていると、理音はめまいに倒れてしまう。 気付いた時、目の前にいたのは、織姫と彦星のようなコスプレをした男女二人。 おかしいと思いつつも外に出た理音が見たのは、空に浮かぶ二つの月だった。 言葉の通じない人々や、美麗な男フォーエンを前にして、理音はそこが別の世界だと気付く。 帰り道もわからないまま、広々とした庭が面した建物に閉じ込められながらも、悪くもない待遇に理音は安心するが、それが何のために行われているのかわからなかった。 言葉は理解できないけれど、意思の疎通を図れるフォーエンに教えられながらも、理音は少しずつ自分の状況を受け入れていく。 皇帝であるフォーエンの隣に座して、理音はいつしかフォーエンの役に立てればと思い始めていた。 どこにいても、フォーエンのために何をすべきか考えながら、理音は動き出す。 小説家になろう様に掲載済みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...