349 / 530
第19章 出産ラッシュ再び?
347.だってあの子が悪い!
しおりを挟む
まだ体調が回復しないリリスを先に眠らせ、イヴとお風呂に入る。昼間のケンカは本人の中で消化できたのだろうか。お湯に浮かんだタオルを叩き、イヴは時折ルシファーを見上げた。
何か質問があるのか。そう思ったルシファーは、膝の上へ引き寄せた。イヴの背中を胸につけて、顔を合わせない姿勢を作る。
「イヴ、内緒の話をしようか」
「ないちょ?」
「そうだ。リリスに黙ってるんだ。オレの秘密をひとつ教えるから、イヴも何か教えてくれ」
「……うん」
考えて飲み込んでから頷いた。愛娘の頭のてっぺんに顎を当てて、体を左右に揺らす。一緒に揺らすイヴは楽しそうに声を立てて笑った。合わせるようにお湯が大きく揺れる。いつもは自重を求められる遊びが、子どもには魅力的なのだ。
「まだアスタロトやベールにバレていないが、視察の時にミスって山に穴を開けた……上からそっと土を被せて誤魔化したんだ」
「パッパ、悪いことしたの?」
「ああ、それを言わないで隠したんだ。すごく悪いことだぞ」
実際、まだバレていない。幸いにして誰の領地でもない空白地帯だった。今も山の形は同じに見えるが、内側に空洞がある。ちょっと褒められてその気になり、勢いよく吹き飛ばしたのだが、バレなかった。山崩れもなく安定している。
パパの悪い話を聞いて、イヴは真剣に悩んだ。嫌われる心配はしない。パパもママもイヴを好きだから。疑わないけど、怒られるかも知れないと思った。だから言わないで隠しておきたいけど。ちらりと見たルシファーは、内緒だと言った。
「うんとね、私……お姉ちゃんになれない? ごめんねしなかった」
やっぱり気に病んでいたのか。聞き出せたことにホッとしながら、ルシファーは先を促した。
「ごめんねは誰に?」
「サライちゃん」
「オレは嫌な子に謝れなんて言わないぞ。謝る時は、反省した時だけ……えっと、悪いと思ったときだけでいい」
反省が理解できずに首を傾げる娘に、ルシファーは言葉を選び直した。
「もちろん謝れたら褒める。でも謝れなくても、イヴは可愛いオレの娘だし、立派なお姉ちゃんになれる」
お姉ちゃんになれる。その言葉を噛み締めるように口の中で繰り返したイヴは、照れ隠しでお湯を大きく揺らした。跳ねたお湯が顔にかかり、イヴとルシファーは顔を見合わせて笑う。
「リリスやアスタロトには内緒だぞ」
「うん、私もママに内緒」
にこにこと指切りの歌で約束を交わした。リリスが幼い頃、同じように約束をいくつも結んだことを懐かしく思う。
大きすぎるベッドで眠るリリスから少し間を開けて横になれば、隙間にイヴが潜り込む。もそもそと位置を直し、イヴはご機嫌で「おやすみ、パッパ」と声を上げた。妻にそっくりの黒髪を何度も撫で「おやすみ」と返す。眠りはすぐに訪れた。
解決したはずの事件が蒸し返されたのは、翌朝の保育所の玄関だった。子ども用の靴入れがあるため、大きな玄関が用意されている。魔獣の子は足を洗い、拭いてから保育所に駆け込んだ。イヴも靴を脱いで、決められた場所に入れる。
離れた位置で微笑ましく見守るルシファーの目の前で、事件は起きた。後ろから近づいた子が、イヴの背中を押したのだ。幸いにして頭を打つことはなかったが、驚いたイヴは後ろの子を蹴飛ばした。
「イヴ、無事か?」
慌てて抱き上げると、イヴは唇を尖らせる。不満があったり、泣きそうになると見せる仕草だった。今は泣きたいのだろう。胸にイヴの頭を押し付ける形で抱き、叱られた子どもを見下ろした。
「なぜ押したんですか? 危険でしょう」
ガミジンが注意する先で、女の子はルシファーに抱かれたイヴを指差した。
「だって、あの子が悪い! サライを泣かせたもん、大嫌い!」
「リアラちゃん!」
叱りつけるために名を呼んだ後、ガミジンは口を押さえた。だが時すでに遅し。リアラと呼ばれた女児は、大粒の涙を溢して泣き始めた。
何か質問があるのか。そう思ったルシファーは、膝の上へ引き寄せた。イヴの背中を胸につけて、顔を合わせない姿勢を作る。
「イヴ、内緒の話をしようか」
「ないちょ?」
「そうだ。リリスに黙ってるんだ。オレの秘密をひとつ教えるから、イヴも何か教えてくれ」
「……うん」
考えて飲み込んでから頷いた。愛娘の頭のてっぺんに顎を当てて、体を左右に揺らす。一緒に揺らすイヴは楽しそうに声を立てて笑った。合わせるようにお湯が大きく揺れる。いつもは自重を求められる遊びが、子どもには魅力的なのだ。
「まだアスタロトやベールにバレていないが、視察の時にミスって山に穴を開けた……上からそっと土を被せて誤魔化したんだ」
「パッパ、悪いことしたの?」
「ああ、それを言わないで隠したんだ。すごく悪いことだぞ」
実際、まだバレていない。幸いにして誰の領地でもない空白地帯だった。今も山の形は同じに見えるが、内側に空洞がある。ちょっと褒められてその気になり、勢いよく吹き飛ばしたのだが、バレなかった。山崩れもなく安定している。
パパの悪い話を聞いて、イヴは真剣に悩んだ。嫌われる心配はしない。パパもママもイヴを好きだから。疑わないけど、怒られるかも知れないと思った。だから言わないで隠しておきたいけど。ちらりと見たルシファーは、内緒だと言った。
「うんとね、私……お姉ちゃんになれない? ごめんねしなかった」
やっぱり気に病んでいたのか。聞き出せたことにホッとしながら、ルシファーは先を促した。
「ごめんねは誰に?」
「サライちゃん」
「オレは嫌な子に謝れなんて言わないぞ。謝る時は、反省した時だけ……えっと、悪いと思ったときだけでいい」
反省が理解できずに首を傾げる娘に、ルシファーは言葉を選び直した。
「もちろん謝れたら褒める。でも謝れなくても、イヴは可愛いオレの娘だし、立派なお姉ちゃんになれる」
お姉ちゃんになれる。その言葉を噛み締めるように口の中で繰り返したイヴは、照れ隠しでお湯を大きく揺らした。跳ねたお湯が顔にかかり、イヴとルシファーは顔を見合わせて笑う。
「リリスやアスタロトには内緒だぞ」
「うん、私もママに内緒」
にこにこと指切りの歌で約束を交わした。リリスが幼い頃、同じように約束をいくつも結んだことを懐かしく思う。
大きすぎるベッドで眠るリリスから少し間を開けて横になれば、隙間にイヴが潜り込む。もそもそと位置を直し、イヴはご機嫌で「おやすみ、パッパ」と声を上げた。妻にそっくりの黒髪を何度も撫で「おやすみ」と返す。眠りはすぐに訪れた。
解決したはずの事件が蒸し返されたのは、翌朝の保育所の玄関だった。子ども用の靴入れがあるため、大きな玄関が用意されている。魔獣の子は足を洗い、拭いてから保育所に駆け込んだ。イヴも靴を脱いで、決められた場所に入れる。
離れた位置で微笑ましく見守るルシファーの目の前で、事件は起きた。後ろから近づいた子が、イヴの背中を押したのだ。幸いにして頭を打つことはなかったが、驚いたイヴは後ろの子を蹴飛ばした。
「イヴ、無事か?」
慌てて抱き上げると、イヴは唇を尖らせる。不満があったり、泣きそうになると見せる仕草だった。今は泣きたいのだろう。胸にイヴの頭を押し付ける形で抱き、叱られた子どもを見下ろした。
「なぜ押したんですか? 危険でしょう」
ガミジンが注意する先で、女の子はルシファーに抱かれたイヴを指差した。
「だって、あの子が悪い! サライを泣かせたもん、大嫌い!」
「リアラちゃん!」
叱りつけるために名を呼んだ後、ガミジンは口を押さえた。だが時すでに遅し。リアラと呼ばれた女児は、大粒の涙を溢して泣き始めた。
10
お気に入りに追加
746
あなたにおすすめの小説
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
クソガキ、暴れます。
サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。
ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる