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第19章 出産ラッシュ再び?

346.イヴが選べるのは3つだ

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「お前はまだ休暇中だろ。口を突っ込むな」

「影を通して筒抜けなんです。サボリは許しません」

「イヴの一大事なんだぞ」

 もっともらしい理由をつけて胸を張る魔王だが、実際はアスタロトがいなくて増えた書類が面倒なのだ。出来るなら今日はこのままサボりたかった。アスタロトに休暇を与えたのは自分だし、アデーレの妊娠期間は休ませてやりたい。だが書類が増えるのは別だ。

 我が侭を平然と口にする魔王へ、吸血鬼王は溜め息を吐いた。

「分かりました。書類は私の方へ転送してください」

 自分の分は漆黒城で処理する。そう言われると、途端に悪いことをした気がして、オロオロするルシファーが眉尻を下げた。

「怒ったのか?」

「いいえ。今さらでしょう。あなたが私を怒らせたと思うのなら、理由を突き詰めて己の胸にしっかり刻んでください」

 釘をしっかり打ち込むと、アスタロトは足元の影に消える。直接怒られた方がマシだった。しょんぼりしながら、愛娘を膝に乗せる。ほぼ無意識の行動らしい。膝の上のイヴにぎゅっと抱きつかれ、自分でもびっくりした。

「それで何があったんだ?」

 ガミジンに尋ね、おおまかな事情を把握する。ゴルティーが同じ証言を繰り返し、目の前のサライという女の子は半泣きだった。欠けた歯は、ガミジンの治癒魔法で治っている。

 イヴが座っていた場所には、投げつけられた人形。膝で唇を尖らせて泣くのを我慢する娘は、握り締めて変形した熊のぬいぐるみを離した。転がるように落ちたぬいぐるみに、サライの視線が向く。

「イヴはお姉ちゃんになるなら、謝らないといけないと思ったのか?」

「うん」

「でも嫌なんだな?」

「うん」

 サライはまたイヴを睨む。以前から仲が悪いのかと聞けば、まったく接点がなかったと言われた。ならば、ムキになってイヴを攻撃した理由はなんだろう。首を傾げるルシファーへ答えを運んできたのは、近くで遊んでいたアイカだった。

「魔王様、イヴはね。私の妹なの」

「ああ、そう聞いている。仲良くしてくれてありがとうな」

 アイカの青緑の髪をくしゃりと撫でる。風の精霊族である彼女は、父親譲りの能力で部屋の会話を拾っていた。この辺は風の精霊ならでは、の特性だ。周囲の風が伝える音を、自然と耳に集めてしまう。

「サライがイヴに意地悪したのは、一番仲良しのリアラがイヴと遊んだからなの。それでイヴからぬいぐるみを奪おうとしたのよ」

 事実だけを淡々と伝えられた。報告としては上出来だろう。サライはリアラと仲良しだ。そんなリアラがイヴと仲良く遊んでいる姿に嫉妬し、意地悪をしようと考えた。お気に入りで抱っこする熊のぬいぐるみを狙ったのは、腹いせもあったのだろう。

 よくある子どものケンカだ。親が出るのはおかしい。そう考えたルシファーは、イヴにいくつか提案した。

「イヴが選べるのは3つだ。まずサライと仲直りせず、ケンカしたままにする」

 こくんと頷いたイヴは、続きを待つ。

「次はお互いに謝って、リアラも一緒に遊ぶ」

 これも理解できたようで、大きく首を縦に振る。

「最後に、もう帰る。その場合はゴルティーやアイカとも遊べない」

 首を横に振った。どうやら最初の二択から選ぶらしい。誘導したルシファーは、我が子の決断を見守った。どちらを選んでも肯定して、否定しない。そう決めたルシファーの純白の髪を握り、イヴは考えこむ。

「ケンカ、のまま」

 仲直りはしない。お姉ちゃんになるから我慢しようと思ったけど、我慢できない。保育所に入るイヴがリリスに教わったのは、おもちゃなんて譲りなさい、だった。リリスはそうして友人を増やした。

 イヴはたくさんのお友達は要らないと思っている。自分のことを嫌いな子と、仲良くしたくなかった。だからサライは要らない。それが子どもなりの答えだ。

「わかった。悪いが、ガミジン先生も無理に仲裁しないでくれ」

「はぁ……まあ、子どもの自我が強くなるお年頃ですからね」

 親の教育方針なら、それもいいだろう。全員と仲良くする義務はないのだから。納得して終わった子どものケンカは、翌日思わぬ形で再燃することになった。
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