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第18章 お祭りに事件は付きもの

336.大公の次は、大公女による勝負

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 あまりに呆気なく勝敗がついた。というのも、ベルゼビュートの剣とルシファーの短剣が重なった瞬間、甲高い音を立てて剣が折れたのだ。

 からん、乾いた音を立てて転がる剣に、ベルゼビュートは青ざめた。

「きゃぁあああ! これは入手したばかりなのに!!」

 粗悪品だったんだな、ルシファーは気の毒そうに溜め息を吐いた。くじ運の悪さはここにも出たようだ。短剣の先を突きつけられ、ベルゼビュートは「もう負けでいいですわ」と呟いた。当然ながら、この時点で賭けも負けが確定する。

「しょうがない。この短剣をやるから」

 武器を折ってしまったのは事実なので、詫びとして奇妙な刃の短剣を差し出した。手の中でくるりと向きを変えて渡せば、彼女は鼻を啜りながら受け取る。じっくり確認して、すぐに笑顔になった。

 過去に勇者の一人から奪った短剣だが、使い勝手が悪い。なにしろ形状が特殊なので、扱いが難しかった。それに加え、やや呪われるステータス有りで、処分に困っていたのも事実だ。

 ベルゼビュートが受け取ってくれるなら、問題ないだろう。コレクターなので、滅多に誰かにくれる心配もない。呪いを撒き散らさず処分するには、魔王や大公の収納が一番安全だった。

 賭けの元締めバアルのいる一角が、わっと盛り上がる。特に勝敗に関するトラブルもないので、賭けは放置となった。祭りの華ではないが、多少の彩りになっているのも現実だ。民の娯楽に口出ししすぎる執政者は嫌われる。

「大公様達の模擬戦が終わったなら、次は私達ですわ」

「絶対に勝ちます!」

「せめて褒美はもらいたい」

 なぜか腕まくりした大公女達が、次々と現れた。魔法陣を大量に装備したルーシア、右手に風の竜巻を握るシトリー。レライエは穂先が燃える槍を手にし、ルーサルカが締め括るように地面に魔力を流した。

 全員がお揃いのワンピース姿だった。ドレスと呼ぶにはシンプルなシルバーグレーのワンピースは、以前に大公女の公式用として仕立てたもの。魔法障壁が自動展開する魔法陣を裏地に刺繍した、見た目以上に高価な服だった。

 物理的な攻撃に対しても、十分な防御力がある。大地に親和性の高いルーサルカの魔力は、防御壁を複数作り出した。盾のような形で、二人ほど隠れることができる幅だ。位置を前後左右にずらしながら、全部で5枚設置された。

「……予定外だが、受けて立とう」

 ルシファーは驚いた顔をしたが、すぐに承諾した。彼女らは戦闘能力に秀でたタイプではない。護衛のイポスやヤンとは違った。それでも4人が全員属性違いであり、合わせ技を作り出す能力は高い。

「行きますっ!」

 ルーサルカが声を張り上げて宣言した直後、ルシファーの足元がぐにゃりと歪んだ。ルーシアが送り込んだ水を使い、泥濘を作ったのだ。ふわりと浮いて対応したルシファーを読んでいたルーサルカは、泥を縄のようにして拘束を試みた。

 汚れることを懸念して意識が逸れたところへ、シトリーの竜巻を利用して上空へ飛んだレライエが、槍を手に落下する。槍に身を沿わせ、一体となった彼女の背に、ぶわっと竜人族の羽が広がった。

 ブレーキがかかり、防ごうとしたタイミングを崩される。

「っ! おっと、危ない」

 咄嗟に数歩下がり、掠めることなく避ける。だが、その場所を狙って、ルーサルカが練った泥を纏う蔦が、足首を掴んだ。捉えた魔王に、ルーシアの魔法陣が炸裂する。

 水や氷を使った水の精霊の攻撃に、ルシファーは防戦一方となった。シトリーは風の刃をいくつも重ね、さらに追い討ちをかける。

「防ぐのはいいが、これは手数が多い」

 普段通りなら結界がすべて防ぐ。だが魔王チャレンジや大公による模擬戦と同じく、結界は解除していた。黒衣の裾が千切れ、髪が数本落ちる。

「受け止めろよ」

 ここでようやく、ルシファーが反撃に転じた。
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