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第18章 お祭りに事件は付きもの

333.仇を討ってよ、ベール

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 距離を詰めたドラゴンの牙が迫る。だがルキフェルに噛み付く気はなく、近距離でブレスを放った。

「っと!」

 じりっと毛先が焦げる。咄嗟に氷の障壁を作り出し、滑らせるようにブレスを逸らした。遥か遠くの山が、激しい音で燃え始める。

「悪い、アスタロト。消火しておいてくれ」

「承知しました」

 苦笑いしたアスタロトが魔法陣を飛ばす。一瞬で消火したのは、あの山も誰かの領地だからだ。現時点で、元人族の領地を含め、空いている土地はなかった。強いて言うなら、管理が徹底されない海が該当するかどうか。

 留守の間に家が燃えるところだった魔獣が、ほっとした顔で座り込んだ。ルキフェルが竜のまま「ごめん」と謝る。大きな角を持つ鹿の一族は、揃って首を横に振った。見事にシンクロしているのは、誰かが左右逆になると角が絡まるためだ。

「ルキフェル、ブレスは危険だから禁止にしよう」

「うん、わかった」

 素直に受け入れたブルードラゴンは、爪がついた翼を羽ばたかせる。そこから一転して急速落下を試みた。鋭い爪がきらりと光を弾く。巨体を避けるように数歩移動すると、そちらへ落下地点を変更された。

「質量できたか。なら、これでどうだ?」

 ルシファーは手前に大きな網を作り出した。にやりと笑ったルキフェルは炎の魔法陣を飛ばし、焼き払おうとする。しかし魔力で編まれた網は、性質を変化させる。

 水を編んで作った網は炎に抵抗し、ルキフェルが止まりきれずに突っ込む。絡み付く網は土属性に変化し、蔦となってドラゴンを拘束した。縛り上げる力を、瑠璃色の竜は振り払う。

 圧倒的な魔力を体に纏い、ルシファーの魔力を中和した。魔力の質を近づけて、すり抜ける。魔力操作や魔法陣の扱いに長けたルキフェルならではの技だった。ハイエルフなど、魔法に長けた一族から応援の声が上がる。

「頑張れ!」

「魔力の中和だぞ!? すげぇ」

 あまり魔法に縁がない魔獣は、圧倒的な質量と爪を生かした攻撃に釘付けだった。

「あの爪、痛そうだな」

「魔王様の服を引き裂いたぞ」

 届いた爪で切り裂かれた袖に、ルシファーが肩を竦める。結界を二割まで緩めた影響もあるが、あっさり貫いてくる大公達の実力も見事だ。そこに注目する者も少なくなかった。

「見せ場が足りないな」

 呟いたルシファーへ、ルキフェルが同意の咆哮を上げる。喉を震わせたドラゴンは、舞い上がると羽を広げた。大量の魔法陣を生み出し、それぞれに魔力を注ぐ。受けて立つルシファーも、周囲に対抗する魔法陣を作り出した。

「いけぇ!」

 ルキフェルの声に呼応する形で、大量の魔法陣が発動した。炎や氷、水、風と種類を問わない攻撃が降り注ぐ。相殺するルシファーの魔法陣は、それぞれを打ち消した。魔法陣に込める属性や魔力量を調整し、派手な爆発でひとつずつ花火のように弾ける。

 最後の一つが消えたところで、炎に隠れたルキフェルの一撃が振り下ろされた。爪を弾いたルシファーへ、後ろから尻尾が襲う。それを逆の手で受け止められ、ルキフェルが着地した。

「負けた、もう終わり」

「お疲れさん。前より魔法陣の制御スピードが上がったな」

 褒める言葉とともに、ルシファーは両腕で竜の鼻先を撫でる。擦り寄り甘える瑠璃竜王は、するりと青年姿に戻った。それを抱きしめて、水色の髪をくしゃりと乱す。水色の瞳を細めて笑うルキフェルは、思い出したように観衆へ一礼した。

「どうだった?」

 声を張り上げれば、わっと拍手や歓声が飛んでくる。それに応えて手を振り、ルキフェルは育て親に場を譲った。

「仇を討ってよ、ベール」

「任せてください。陛下、お覚悟を」

 銀髪を下げて会釈するベールの冷たい青瞳に、ルシファーは引き攣った笑みを浮かべた。

「お手柔らかに、な?」
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