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第17章 4歳の特別なお祝い

317.陛下の剣は高温で炙られた

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 魔王ルシファーが練り上げた巨大な炎は、明るい黄色だった。高温過ぎて陽炎が現れる。それを叩きつけた瞬間、前に飛び出したのはベルゼビュートだった。

「陛下の剣が参りましたわ……あっつ!」

 じゅわっと嫌な音がして、彼女のドレスの裾が焦げた。逆に言えば、直撃したのにその程度の被害しかなかった、と言い換えることが出来る。深い紺色でスリットが入ったご自慢のドレスは、ぴたりと肌に張り付いていた。だが、精霊女王の肌を焼く炎は存在しない。

「あ、悪い」

「髪が焦げてたら、陛下でも許しませんわよ」

 突然前に飛び出したのは彼女の方なのだが、ぷりぷりと怒りも露わに敵に背を向けた。後ろから伸びた触手が絡みつく。と思いきや、直前で切り刻まれた。それも粉々と呼ぶに相応しい細かさで。ばらばらになった肉片からは、血も出ない。

 ぬめりのある透明の液体がどろりと周囲に落ちた。そこから何かが生えてくる。

「……ベルゼ、切らない方が良かったんじゃないか?」

「え、だって……襲われたら、反撃しますわよね?」

「反撃の手段を考えろ」

 何のためにオレが炎を投げたと思ってるんだ。溜め息を吐いて、生えてくる緑の何かを焼き払った。

 細かく切ると分裂するタイプらしい。高温の炎で炙られて減っていく新芽に気を取られたルシファーは、近づく触手を一本見落とした。ぐいっと右足首に絡みつかれ、引っ張られる。

「うわっ」

 声を上げたものの、結界越しなので感触はない。ただ引っ張られた勢いで転びかけ、咄嗟に浮いた。ふわふわと地に足のつかない魔王が、触手によって茂みへドナドナされていく。冗談みたいな光景に、奮起したのは大公女達だった。

「くらえ! 風の太刀!!」

「え、何それカッコいい。えっと、切り裂け、水刃!」

 シトリーが厨二な名前を付けた風魔法を放つと、真似たルーシアが水の刃を飛ばす。ルシファーの髪を掠めながら、それぞれに茂みへ突き刺さった。なお、純白の髪は結界で保護されているので被害はない。ただ至近距離を掠めたので、ルシファーがびっくりした程度だ。

 魔法に厨二名称を付けるのは、アベル発祥だった。さすがに特許は取れないが、ゲーム知識を活かして「疾風の刃」とか叫びながら、魔物狩りを行った。それを見て、同行した大公女達が真似をしているのだ。

「この腕は切るか燃やすか」

 うーんと考えながら、ひとまず燃やす。炎に耐性がないので、燃やす一択だろう。ただ茂みに隠れた本体は、火を放つと延焼の可能性があった。森の茂みは生木なので簡単に燃えないのだが、ルシファーの火力は馬鹿に出来ない。

 燃えて灰になった触手から解放されたルシファーは、地に足を付けて眉を寄せた。

「引っ張り出すのが早いな」

 作戦を決めれば迷わない。茂みを大地の魔法で掻き分け、風で保護しながら敵を包み込んだ。魔力で特定した獲物を引きずり出せば、あまりの大きさに目を見開く。正確には大きいと表現するより、長いの方が近かった。

 ずるずると丸めながら引っ張り出した触手は徐々に太くなり、最後にナメクジのような本体が現れた。触手自体はほんのり緑だが、本体は茶色い。

「大きなナメクジね」

 感心した様子のリリスは、ぶんぶん振り回すイブの手を掴んで一緒に回しながら呟く。彼女は虫も爬虫類も気にしない。だが、この中にナメクジが大嫌いな者がいた。

「ち、近づくなっ!!」

 全力で炎を作り出し、投げつけたのはレライエだ。その悲鳴に慌てて駆け付けた夫、翡翠竜のアムドゥスキアスがブレスを放つ。妻を脅かす敵を倒し、そのまま彼女の腹部にしがみついた。

「アミー、無事か!」

 燃えるナメクジもどきは、なんとも言えない悪臭を発した。その臭いに気絶した息子を助けに、人狼である父ゲーデが決死の思いで飛び込む。鼻を両手で摘んでいるのはご愛嬌だろう。彼らごと結界で包んで匂いを遮断し、ルシファーは溜め息を吐いた。

「何事もなく終わった頃の即位記念祭が懐かしい」
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