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第17章 4歳の特別なお祝い

309.母娘の血は争えない

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 思う存分抱き締めていると、急にイヴがぐったりした。慌てて確認するが、ただ眠っただけらしい。そういえば、このくらいの年齢の時は、よくリリスも寝落ちした。懐かしく思いながら、イヴを長椅子に横たえた。

 大量のクッションに埋もれた愛娘は可愛いが、そろそろ二度目の顔出しの時間である。現在は大公が終わり、大公女達が手を振っていた。

「今日は二回だけ?」

「ああ、終わったら屋台を見に行こう」

 保育園で行われる4歳のお祝いは、明後日の予定だ。それまでは一日2回の顔出しの挨拶が中心だった。お祭りがあれば、身分関係なく気軽に街へ降りる。ルシファーの場合は、普段から視察で街に顔を出す。城下町へ買い物に現れることもあるため、人々は魔王を身近な存在と感じていた。

 ここに関しては、あれこれ試行錯誤した結果だ。統治を始めた頃は威厳が大事と考えた。民と馴れ合うのは問題と捉えられ、距離を置く。しかし彼らもまだ魔族を完全に把握していなかった。

 顔の見えない統治者への恐怖心は薄れ、間近でない存在を無視し始める。まだ魔族の特徴を完全に把握していなかったことも手伝い、様々な失敗をした。罰した相手がただの口下手だったなど、種族による特性が絡んだ判断の失敗が目立つ。魔王ルシファーも含め、大公達は苦い失敗を繰り返した。

 状況を改善するため、各種族を理解して纏めることから始める。徐々に距離を詰め、今の形に落ち着いた。苦労した甲斐があり、魔族はひとつに纏まっている。平和を乱す人族がいなくなって、即位記念祭は落ち着いて開催できた。

 いきなり「死ねぇ」と剣先を突きつけられる無礼を心配しなくていい。幼いイヴを連れ、妻と手を繋いで屋台を冷やかすつもりだった。

 イヴが眠っている間に王冠代わりの髪飾りを固定し、リリスの額と頬にキスをする。目を閉じる妻に頬を緩め、唇を寄せた。触れるキスを数回繰り返す。

「ぱっぱ、まま……イヴも!」

 私にもキスをしろ、訴える愛娘が下から見上げている。固まったルシファーをよそに、リリスは恥じらう様子がなかった。夫婦ならキスは当たり前で、誰かに見られて恥ずかしがる意味が理解できない。この点、リリスの感性はオープンだった。

「もちろんよ、おいで」

 愛娘を抱き上げ、ちゅっちゅと音をさせてキスする。機嫌が上昇したイヴは、父であるルシファーへ期待の眼差しを向けた。すぐに顔を取り繕い、イヴの頬と額にキスを贈る。それでは足りない気がして、黒髪にも唇を押し当てた。

「さあ、イヴ。もう一回みんなに可愛いところを見せようか」

「あい!」

 上機嫌で杖を握るイヴを抱き上げ、リリスと腕を組む。顔出しを無事に終えると、すぐに髪飾りを片付けた。イヴが興味を示し、きらきらした目で見つめていたのだ。今後のために、即死の呪いだけは外してもらおうと決めた。まあ、イヴの場合は無効化する可能性もあるが。

 後の対応をアスタロトに任せ、三人で城門前へ降りた。護衛にヤンが付いたので、イヴがヤンの背に乗りたがる。お祭りの混雑に合わせ、大型犬サイズに縮んでいたので迷う。ヤンが平気だと言うので任せてみた。イヴはヤンの耳を掴まず、きちんと首の後ろに座っている。

「イヴも大人になったな」

「もう4歳だもの」

 見守る夫婦の会話は、その後「こら」「ダメよ!」に変わる。上機嫌のイヴが杖を振り回し、周囲に無効化をばら撒いてしまったのだ。まさに血は争えない。魔法で着付けた衣装が解けて焦る音楽隊や、運んでいた酒瓶が落ちてパニックになる巨人など。混乱を引き起こしたイヴは、杖を取り上げられてベソをかき大泣きした。これも数年後には、いい思い出になるはず……たぶん。
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