上 下
299 / 530
第17章 4歳の特別なお祝い

297.溜め続けた宝飾品セール

しおりを挟む
 以前、管理が出来ないなら預けなさいと取り上げられた宝石箱は、原石がごろごろ入っていた。いわゆる宝飾品になる前の石だ。そのため専用の保管箱に入っておらず、互いに石がぶつかって傷だらけになった。それらはすべて、スプリガンの管理下に置かれている。

 ルシファーが収納空間に残したのは、すでに加工済みの宝飾品ばかり。まだ数十の箱があるが、彼は必死で抵抗した。というのも、誰かに渡すのが惜しいわけではない。これ以上ベールやアスタロトに叱られる原因を、自ら作りたくなかった。

 あまり意識していなかったが、宝石箱から出てきたブローチやネックレスの中に、ベールが確保したはずの宝石が数点発見される。それに合わせ、預かった宝石が指輪になった事例も発覚し……正座した魔王が執務室で痺れた足を堪える状況が続いていた。

 隣で宝石を選ぶリリスは、10本の指に違う宝石の指輪を付けて目を細める。宝石自体に興味があるというより、色とりどりの輝きにうっとりしたようだ。レライエは竜人族なので、光物が大好きだった。夫アムドゥスキアスの全財産が詰まった洞窟を貰った彼女だが、いそいそと宝石箱を開けていく。

 ルーシアは見終わった箱を畳んでしまう係に終始した。彼女を手伝うルーサルカだが、足下に宝石箱をいくつか取り分ける余裕がある。自分の欲しい宝飾品を確保したようだ。真剣に選ぶシトリーは、箱を開けるレライエの隣に陣取り、気に入った箱を後ろに積み上げ始めた。最終的にあの中から選び直すつもりらしい。

「皆、気に入ったものは取り置きしておけ。箱に戻したらわからなくなる」

 もっともな注意を口にするルシファーだが、ようやく正座から解放されたらしい。足を揉みながら、胡座をかいた。とてとて歩くイヴがそこへ飛び込んだ。

「うっ!」

 不幸な事故があり、涙ぐむ魔王。気の毒そうにしながらも助けない男性陣、理解できずに首を傾ける女性陣に反応が分かれた。イヴはもそもそ向きを変え、満足そうにルシファーの髪を握る。

「……イヴ、次からは突進を控えようか」

「あい!」

 勢いよく返事をするが、きっとまた同じことをする。母親として経験を積んだ彼女達はそう思った。大抵、その予想は外れない。経験に裏打ちされた予測は、ルシファーも同じだった。だが言い聞かせて、自制させるのが目的だ。

 イヴは結界を無効化し、リリスは親和性で通り抜ける。どちらもルシファーの身を守る上で、危険な二人だった。最強の純白魔王に、素手で勝てるのは彼女達くらいだろう。

「ルシファー様、宝石箱のこちらは回収してください」

 すでにチェックを終えた大きな宝石箱を二つ収納し、大公女達を振り返る。だがすぐに眉を顰めた。まだ完全に絞り込めていないので、箱の数が十数個積まれている。

「その箱……」

「あ、すみません。この中から選びますので」

「すぐにお返ししますね」

 取り置きしすぎたかと焦る彼女達に、ルシファーは低い声で言い放った。

「なんでそんなに少ないんだ? 子どももいるのに、足りないだろ。もっと持っていけ」

 孫に土産を持たせる祖父のような発言に、全員が動きを止めた。だが大公達は少し考え「それもそうだ」と納得する。

「毎回並べるのも面倒なので、気に入った宝飾品は多めに手元に残してください」

「そうだ。毎回こうして出すのは大変だから。もっと選んでおけ。次と次とのその次の分くらいまで」

 アスタロトとルシファーの許可を得て、彼女らは慌てて宝石箱の中身を再チェックする。借りるにしても貰うにしても、あまり図々しいのはどうかと遠慮した。厳選した逸品だけを手元に残したのだ。本当はあれも欲しかった、と見覚えのある箱を開けて確認して後ろに積む。

 ここでリリスが大きな声を上げた。

「あっ! アンナも呼んでいい?」

 日本人は元からこの世界の住人ではないし、親族もいない。先祖から譲り受ける宝石類はなく、自分達で購入しなければならなかった。

「忘れてた! すぐに呼ぼう」

 魔王の非常召集は、暇を持て余したルキフェルの転移によって実現し、アンナやイザヤは非常識な大きさの宝飾品に目を白黒させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

クソガキ、暴れます。

サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。 ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...