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第17章 4歳の特別なお祝い

294.全員お揃いがいいわ

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 白と薄桃の中間の色をした絹は、不思議な色合いだった。なんでも、今回のイヴの生地を作る試作品として生まれたらしい。光の当たり方や、重なりによって色が変化する。ドレープやフリルを付ければ印象がさらに変わるだろう。

「ルシファー、お揃いの生地にしましょう!」

「え、いや……その」

 薄桃はちょっと。そう思うのに、妻のきらきらした目に断りづらい。だがここで断らなければ、ピンクのリュック事件再びとなりかねなかった。

「オレにこの色は似合わないと思うぞ」

 ルシファーは勇気を振り絞った。リリスが泣きそうになったり怒ったら、すぐに謝る準備も出来ている。ぐっと拳を握って力説した夫に、リリスは首を傾げた。

「そんなの分かってるわ。この生地で色違いにしたらいいじゃない? イヴもお揃いになりそうだし」

「あ、うん。そうだな」

 全然見当違いの心配をしていたルシファーは、かなり肩の力が抜けた。普段から黒、またはそれに準じた暗色ばかり身に着ける彼にしたら「お揃い」は「同じ薄桃」だった。それが違うと言われ、安心したのと恥ずかしいので目を逸らす。

「紺色系はどうでしょう」

「銀でも似合うけれど」

「私は黒に青の差し色が見たいです」

 大公女達の案をひとまず紙に書きだし、アラクネに要望書を出すことになった。実際に制作するのは彼女たちなので、無理なら変更を口にするだろう。イヴのドレスは緑と紫に決まったらしく、生地作りに苦戦しているようだ。間に合わないなら、オレは黒一色でいいか。

 ここでようやく、自分の衣装に意識が向かった魔王ルシファーだが、もちろん注文し忘れるのは確定した未来だった。思い出した時点で注文すればいいのだが、大抵は後回しにされてアスタロトやベールに叱られる。間違いなく、今回も同じルートを辿る筈だった。

「では大公と大公女も合わせて、同じタイプの生地を宣伝するのはどうですか?」

 ルーサルカがこう提案し、あっという間に賛成多数で決議された。誰が何色がいいか、変色はどの色が似合うか。驚く変化が欲しいと盛り上がる大公女とリリスを置いて、ルシファーはそっとその場を離れた。

 うっかり巻き込まれたら、抜け出せなくなる。ここで逃げの一手を打っても、恥ではない……たぶん。

「リリス、アスタロト達に話を通してくる」

「お願いね」

 にっこり微笑む妻に手を振り、最強の魔王は純白の髪を靡かせて退室する。速足の競歩かと思うスピードで廊下を抜け、階段を上がって執務室に入った。後ろ手に扉を閉めれば、何をしてるんですかと不審がるアスタロトが首を傾げる。

「大変だ」

「ルシファー様、ご自分でも仰っているでしょう。報告に「大変だ」は使えません。きちんとご説明ください」

 頷いたルシファーの話をすべて聞くなり、アスタロトはがたんと椅子の音をさせて立つ。

「それは大変です」

 結局、お前だって使うんじゃないか。便利な「大変」の使い方に眉を顰めるルシファーを無視し、ベールやルキフェルが招集された。この時点でベルゼビュートは任務に就いているので後回しだ。無事に話が落ち着けば、事後報告となる。騒動が大きくなったら、その時点で呼び戻す気だった。

「なんなのさ」

 ルキフェルは研究の合間の昼寝を邪魔され、赤くなった目元で睨みつける。どうやら擦ってしまったようだ。気にするベールが冷やした布で丁寧に押さえた。アスタロトはルシファーから聞いたばかりの「新種の生地を使ったお揃い衣裳」について説明を始め、徐々に全員が真顔になっていく。

「ベルゼビュートを呼ぼう」

「もう遅いかも知れません」

 悲壮感漂わせて呟くアスタロトだが、一番最初に皆を裏切るのも彼であった。可愛い義娘に「これがお義父様に似合うと思って」とサンプルを差し出され、ころっと寝返るのだ。かくして、全員お揃い生地での衣装作成が決定するのは1時間後のことであった。
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