292 / 530
第17章 4歳の特別なお祝い
290.それは地産地消じゃない?
しおりを挟む
日本人達とのお茶会は、とても有意義だ。そのため定期的に奥様会と合同で開かれてきた。今回も予定通り参加したルシファーは、耳より情報に目を輝かせる。
「聞いてくれ! 地産地消という考えがあるそうだ」
耳慣れない単語を仕入れたルシファーは大喜びで、ベール達に披露する。その解釈は激しく間違っていたが……。訂正する人がいなかったのは、幸か不幸か。現時点で判断がつかなかった。
「どうぞ」
書類を捌く手を止めて、聞く姿勢を見せたベールがお茶の用意に立ち上がった。隣で研究資料を纏めていたルキフェルも作業を中断し、執務机からお茶菓子を取り出す。収納場所がおかしい気もするが、まあいつものことなので誰も指摘しなかった。
並んだお茶とお茶菓子を前に、ルシファーが説明を始める。
「魔王城に集まる書類が多過ぎるだろう? 地産地消なら、解決できる。その地で起きたことは、その地で解決する……つまり、魔王城に書類を持ち込まないで済む」
強引な結論に、ベールは溜め息を吐いた。ルキフェルも眉を寄せて、内容を消化してから首を傾げる。意味が繋がらない。
「書類が減ることと、事件を解決することの因果関係は?」
「だから、温泉街で騒動が起きたら現地の貴族が解決する。ここまではいいか?」
二人が頷くのを待って、ルシファーはお茶のカップを手に取った。
「その後、現地から報告書が上がる。これが書類を増やす原因だ。普段は向こうで書類の作成や管理をしてもらい、後で纏めて報告してもらう。これなら書類の量が半減するぞ」
「陛下、問題点があります。報告の間隔が開き過ぎれば、騒動が再燃した場合に対応が遅れます」
軍の司令官として管理する彼らしい指摘だ。騒動が起きても現地で解決するのはいいが、その解決方法が適切ではない場合も考えられる。無理やり収めた後、反乱や復讐の形で噴き出しても困る。もっともな意見だった。
「報告期間を短くしたらいい」
「それでしたら、結局書類は減りません」
短期間で報告書が上がってくれば、3枚分が1枚になる程度だ。それでも十分減るが、内容を簡略化したことで重要な部分を見落とす可能性があった。
「うーん、減ると思ったんだが」
唸るルシファーへ、ルキフェルが意見を出した。
「たとえばさ、ルーシアは調整官だよね? そういった役職の者を増やして、彼らに書類を管理させたらどうだろう。調整官が不正をしないよう管理するのを、大公や魔王の仕事にしたら一気に書類は減るよ」
正確には書類が減るのではなく、分散する。対応する者が増えれば、それだけ一人当たりの負担が軽くなる原理だった。少なくとも魔王城へ持ち込まれる報告書は激減するはずだ。
「それだ! それでいこう」
署名押印の必要な書類が減る。それだけで、ルシファーは嬉しかった。可愛いイヴの成長期を3年も見逃した後悔は重く、これからは出来る限り一緒に過ごしたい。そのために書類処理の時間は少ない方が望ましいのだ。
「日本の知識は興味深いよね、地産地消……ちゃんとメモしておこう」
間違った意味で使われ、気づいたイザヤ達が訂正しようとした時には遅く。魔王城の文官すべてに広まった後だった。今さら直せば混乱するため、この世界での「地産地消」は「現地で騒動を解決して、魔王城へ持ち込まない」ことと明記される。こうして新しい言語は、魔族に浸透していった。
多少意味が違っていても、聞くたびに「違う」と反論したくなっても、日本人の知識が魔族の生活を豊かにしている事実は揺るがない。このアイディア料は「間違ってるので受け取れない」と辞退されたため、最終的に孤児の生活支援に回された。
「聞いてくれ! 地産地消という考えがあるそうだ」
耳慣れない単語を仕入れたルシファーは大喜びで、ベール達に披露する。その解釈は激しく間違っていたが……。訂正する人がいなかったのは、幸か不幸か。現時点で判断がつかなかった。
「どうぞ」
書類を捌く手を止めて、聞く姿勢を見せたベールがお茶の用意に立ち上がった。隣で研究資料を纏めていたルキフェルも作業を中断し、執務机からお茶菓子を取り出す。収納場所がおかしい気もするが、まあいつものことなので誰も指摘しなかった。
並んだお茶とお茶菓子を前に、ルシファーが説明を始める。
「魔王城に集まる書類が多過ぎるだろう? 地産地消なら、解決できる。その地で起きたことは、その地で解決する……つまり、魔王城に書類を持ち込まないで済む」
強引な結論に、ベールは溜め息を吐いた。ルキフェルも眉を寄せて、内容を消化してから首を傾げる。意味が繋がらない。
「書類が減ることと、事件を解決することの因果関係は?」
「だから、温泉街で騒動が起きたら現地の貴族が解決する。ここまではいいか?」
二人が頷くのを待って、ルシファーはお茶のカップを手に取った。
「その後、現地から報告書が上がる。これが書類を増やす原因だ。普段は向こうで書類の作成や管理をしてもらい、後で纏めて報告してもらう。これなら書類の量が半減するぞ」
「陛下、問題点があります。報告の間隔が開き過ぎれば、騒動が再燃した場合に対応が遅れます」
軍の司令官として管理する彼らしい指摘だ。騒動が起きても現地で解決するのはいいが、その解決方法が適切ではない場合も考えられる。無理やり収めた後、反乱や復讐の形で噴き出しても困る。もっともな意見だった。
「報告期間を短くしたらいい」
「それでしたら、結局書類は減りません」
短期間で報告書が上がってくれば、3枚分が1枚になる程度だ。それでも十分減るが、内容を簡略化したことで重要な部分を見落とす可能性があった。
「うーん、減ると思ったんだが」
唸るルシファーへ、ルキフェルが意見を出した。
「たとえばさ、ルーシアは調整官だよね? そういった役職の者を増やして、彼らに書類を管理させたらどうだろう。調整官が不正をしないよう管理するのを、大公や魔王の仕事にしたら一気に書類は減るよ」
正確には書類が減るのではなく、分散する。対応する者が増えれば、それだけ一人当たりの負担が軽くなる原理だった。少なくとも魔王城へ持ち込まれる報告書は激減するはずだ。
「それだ! それでいこう」
署名押印の必要な書類が減る。それだけで、ルシファーは嬉しかった。可愛いイヴの成長期を3年も見逃した後悔は重く、これからは出来る限り一緒に過ごしたい。そのために書類処理の時間は少ない方が望ましいのだ。
「日本の知識は興味深いよね、地産地消……ちゃんとメモしておこう」
間違った意味で使われ、気づいたイザヤ達が訂正しようとした時には遅く。魔王城の文官すべてに広まった後だった。今さら直せば混乱するため、この世界での「地産地消」は「現地で騒動を解決して、魔王城へ持ち込まない」ことと明記される。こうして新しい言語は、魔族に浸透していった。
多少意味が違っていても、聞くたびに「違う」と反論したくなっても、日本人の知識が魔族の生活を豊かにしている事実は揺るがない。このアイディア料は「間違ってるので受け取れない」と辞退されたため、最終的に孤児の生活支援に回された。
0
お気に入りに追加
735
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
嫌われ者の【白豚令嬢】の巻き戻り。二度目の人生は失敗しませんわ!
大福金
ファンタジー
コミカライズスタートしました♡♡作画は甲羅まる先生です。
目が覚めると私は牢屋で寝ていた。意味が分からない……。
どうやら私は何故か、悪事を働き処刑される寸前の白豚令嬢【ソフィア・グレイドル】に生まれ変わっていた。
何で?そんな事が?
処刑台の上で首を切り落とされる寸前で神様がいきなり現れ、『魂を入れる体を間違えた』と言われた。
ちょっと待って?!
続いて神様は、追い打ちをかける様に絶望的な言葉を言った。
魂が体に定着し、私はソフィア・グレイドルとして生きるしかない
と……
え?
この先は首を切り落とされ死ぬだけですけど?
神様は五歳から人生をやり直して見ないかと提案してくれた。
お詫びとして色々なチート能力も付けてくれたし?
このやり直し!絶対に成功させて幸せな老後を送るんだから!
ソフィアに待ち受ける数々のフラグをへし折り時にはザマァしてみたり……幸せな未来の為に頑張ります。
そんな新たなソフィアが皆から知らない内に愛されて行くお話。
実はこの世界、主人公ソフィアは全く知らないが、乙女ゲームの世界なのである。
ヒロインも登場しイベントフラグが立ちますが、ソフィアは知らずにゲームのフラグをも力ずくでへし折ります。
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる