287 / 530
第16章 魔王様の育児論
285.思わぬ副産物でキラキラ
しおりを挟む
湖はまだ沸き立っていた。その脇で水着に着替えたリリスとイヴは、ちょっと浮いている。明らかに場違いな格好だった。
「イヴ、この赤い水にめっ! と出来るか?」
「うん」
大きく頷くイヴは「めっ」と指を差した。当然、魔力を伴わない言葉に威力はない。イヴは自分が何をすればいいのか、いまひとつ理解していない様子だ。どう伝えたものか、悩むルシファーの隣で、リリスは娘を抱き上げた。
「こうしたらどう?」
水着のイヴは、下からの熱い蒸気に足の指をきゅっと丸める。素足なので、熱さがダイレクトに伝わった。
「う゛ぅ」
不満そうに唸るイヴは再び「めっ!」を連発した。今度は魔力が入っていたらしく、イヴの足元だけ無効化される。しかし、すぐにマグマに飲まれてしまった。湧き出るマグマの原因である魔力溜まりに届いていないのだ。
「マグマ溜まりに転移したら、どうだろう」
「結界越しでしょ? それに、イヴが結界を消したらどうするの」
「さすがに熱いな」
ルシファーは眉を寄せるが、普通は「熱い」程度の感想では済まない。一瞬で蒸発するように溶けてしまう。しばらくすれば復活出来るとしても、一時的に仮死状態になるのは間違いなかった。そのままマグマの中を漂うことになれば、数年単位の可能性もあるが……その前に側近達に回収される。
問題は、イヴだった。無効化の力を使えるのも、うっかり結界を消すのも、マグマに耐えられるか不明なのも……全部一人娘に懸かっている。リリスから受け取った愛娘に頬を擦り寄せ、ひとつの作戦を決行した。
「イヴ、この熱い原因をやっつけようか。オレとどっちが早いかな?」
こうなったら勝負を持ちかけよう。母親譲りの負けず嫌いなイヴなら、乗ってくるはず。ルシファーなりに考えた作戦は、思わぬ成果をもたらした。
「だぁ!!」
叫んだイヴが魔力を振り絞る。可視化できるほど強大な魔力を放ち、ミヒャール湖を覆った。沸いていたマグマの熱が冷めれば、金属や土は元に戻る。前回と同じ原理で土が沈み、その上に金属片が降り注ぐ。地中から噴き出した金属は、希少性の高いプラチナが含まれていた。
湖底に降り積もった白金は、美しい輝きを放つ。きらきらと光を弾いて、ミヒャール湖面はプラチナ色に染まった。あまりの眩さに、ルシファーとリリスは目を細める。
「これは凄い……ん? イヴ?」
ぐたっとイヴがのけぞっている。背骨が折れたかと思うほど、立派な曲線を描いていた。驚いて抱き起こし、頬を指先で軽く叩く。
「やぁっ!」
嫌がって首を横に振るので、意識はあった。どうやら魔力の使い過ぎで、倦怠感に襲われたらしい。頑張った愛娘に頬擦りする。
「凄いな、イヴ。オレに勝つなんて、リリス以来だぞ! さすがは魔王の一人娘だ」
褒められてイヴは満面の笑みを浮かべる。得意そうな顔は、やり遂げた証だった。触れ合う肌から、魔力を少しずつ供給していく。強大な魔力をいきなり流せば、調整する間の負担はイヴに掛かってしまう。そのため、イヴの波長に合わせた魔力をゆっくり流した。
この辺は、リリスとのやり取りで学んだ経験が生かされている。
「頑張ったわね、イヴ。具合が良くなったら、水で遊べるわよ」
綺麗になった湖は、以前と違い生き物がいない。透き通った水は湖底まで陽光を通し、幻想的だった。これはこれで、新しい観光資源になりそうだ。ルシファーが感じた通り、ミヒャール湖の新しい姿は魔族に歓迎される。湖の再生はすぐに伝わり、先日の戦艦を模した観光船が浮かび、湖畔はまた賑わいを取り戻した。
「イヴ、この赤い水にめっ! と出来るか?」
「うん」
大きく頷くイヴは「めっ」と指を差した。当然、魔力を伴わない言葉に威力はない。イヴは自分が何をすればいいのか、いまひとつ理解していない様子だ。どう伝えたものか、悩むルシファーの隣で、リリスは娘を抱き上げた。
「こうしたらどう?」
水着のイヴは、下からの熱い蒸気に足の指をきゅっと丸める。素足なので、熱さがダイレクトに伝わった。
「う゛ぅ」
不満そうに唸るイヴは再び「めっ!」を連発した。今度は魔力が入っていたらしく、イヴの足元だけ無効化される。しかし、すぐにマグマに飲まれてしまった。湧き出るマグマの原因である魔力溜まりに届いていないのだ。
「マグマ溜まりに転移したら、どうだろう」
「結界越しでしょ? それに、イヴが結界を消したらどうするの」
「さすがに熱いな」
ルシファーは眉を寄せるが、普通は「熱い」程度の感想では済まない。一瞬で蒸発するように溶けてしまう。しばらくすれば復活出来るとしても、一時的に仮死状態になるのは間違いなかった。そのままマグマの中を漂うことになれば、数年単位の可能性もあるが……その前に側近達に回収される。
問題は、イヴだった。無効化の力を使えるのも、うっかり結界を消すのも、マグマに耐えられるか不明なのも……全部一人娘に懸かっている。リリスから受け取った愛娘に頬を擦り寄せ、ひとつの作戦を決行した。
「イヴ、この熱い原因をやっつけようか。オレとどっちが早いかな?」
こうなったら勝負を持ちかけよう。母親譲りの負けず嫌いなイヴなら、乗ってくるはず。ルシファーなりに考えた作戦は、思わぬ成果をもたらした。
「だぁ!!」
叫んだイヴが魔力を振り絞る。可視化できるほど強大な魔力を放ち、ミヒャール湖を覆った。沸いていたマグマの熱が冷めれば、金属や土は元に戻る。前回と同じ原理で土が沈み、その上に金属片が降り注ぐ。地中から噴き出した金属は、希少性の高いプラチナが含まれていた。
湖底に降り積もった白金は、美しい輝きを放つ。きらきらと光を弾いて、ミヒャール湖面はプラチナ色に染まった。あまりの眩さに、ルシファーとリリスは目を細める。
「これは凄い……ん? イヴ?」
ぐたっとイヴがのけぞっている。背骨が折れたかと思うほど、立派な曲線を描いていた。驚いて抱き起こし、頬を指先で軽く叩く。
「やぁっ!」
嫌がって首を横に振るので、意識はあった。どうやら魔力の使い過ぎで、倦怠感に襲われたらしい。頑張った愛娘に頬擦りする。
「凄いな、イヴ。オレに勝つなんて、リリス以来だぞ! さすがは魔王の一人娘だ」
褒められてイヴは満面の笑みを浮かべる。得意そうな顔は、やり遂げた証だった。触れ合う肌から、魔力を少しずつ供給していく。強大な魔力をいきなり流せば、調整する間の負担はイヴに掛かってしまう。そのため、イヴの波長に合わせた魔力をゆっくり流した。
この辺は、リリスとのやり取りで学んだ経験が生かされている。
「頑張ったわね、イヴ。具合が良くなったら、水で遊べるわよ」
綺麗になった湖は、以前と違い生き物がいない。透き通った水は湖底まで陽光を通し、幻想的だった。これはこれで、新しい観光資源になりそうだ。ルシファーが感じた通り、ミヒャール湖の新しい姿は魔族に歓迎される。湖の再生はすぐに伝わり、先日の戦艦を模した観光船が浮かび、湖畔はまた賑わいを取り戻した。
10
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説
【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。
食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。
「あなた……毛皮をどうしたの?」
「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」
思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!?
もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/09/21……完結
2023/07/17……タイトル変更
2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位
2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位
2023/07/15……エブリスタ トレンド1位
2023/07/14……連載開始
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
群青雨色紫伝 ー東雲理音の異世界日記ー
MIRICO
ファンタジー
東雲理音は天文部の活動で、とある山奥へと旅行に行った。
見たことのない星空の中、予定のない流星を目にしていると、理音はめまいに倒れてしまう。
気付いた時、目の前にいたのは、織姫と彦星のようなコスプレをした男女二人。
おかしいと思いつつも外に出た理音が見たのは、空に浮かぶ二つの月だった。
言葉の通じない人々や、美麗な男フォーエンを前にして、理音はそこが別の世界だと気付く。
帰り道もわからないまま、広々とした庭が面した建物に閉じ込められながらも、悪くもない待遇に理音は安心するが、それが何のために行われているのかわからなかった。
言葉は理解できないけれど、意思の疎通を図れるフォーエンに教えられながらも、理音は少しずつ自分の状況を受け入れていく。
皇帝であるフォーエンの隣に座して、理音はいつしかフォーエンの役に立てればと思い始めていた。
どこにいても、フォーエンのために何をすべきか考えながら、理音は動き出す。
小説家になろう様に掲載済みです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる