上 下
285 / 530
第16章 魔王様の育児論

283.解説は一昼夜に及んだ

しおりを挟む
 ルキフェルの解説によれば、イヴの能力はあくまで「魔力」によって生じた現象に作用する。自然現象として噴火した場合は、対象外だった。自然災害すべてを無効化する能力ではないのだ。魔力溜まりによって熱せられた土や金属は、その熱の根源が魔力である。

 膨大な魔力に炙られる形で噴き出した。作用した熱の原因を消し去れば、勝手に元の砂や金属に戻る。マグマが消えた原因がそこにあった。ところが元々マグマが流れていた穴は、地下水の通り道であったらしい。そのため空いた穴が放置されたことで、水が吹き出して湖が形成されてしまった。

 地下水が湧き出る湖と表現して間違いない。ここまで一気に説明したルキフェルは満足げだった。久しぶりに蘊蓄や詳細を求められたことで、たっぷり語り切ったのだ。細かな原理や応用技術、専門的な解説に話が飛び火したため、一昼夜掛かった説明は、ようやく締め括られた。

 聞き疲れてぐったりするベルゼビュートの前で、ルキフェルの肌や髪は艶々している。満足した彼の気力は充実したらしい。少し離れた湖畔で、魔王一家はキャンプを楽しんだ。緊急視察の名目があるので、遠慮なく湖畔でのリゾートを満喫する。前回が中途半端に終わったので、ちょうどいい機会だった。

 まだ出来たばかりの湖に魚はいないので、ルシファーが海から転送した魚介類を焼き、コカトリスの唐揚げも大量に揚げた。匂いに釣られた魔獣達にも振る舞い、ご機嫌で夜のご飯を終える。余るよう大量に作った唐揚げをパンに挟んだ朝食を終え、昼食は何にしようかと相談する余裕もあった。

「ルキフェル、話し終わったならお茶を飲むか?」

「うん、ありがと」

 魔法で冷やした氷入りのお茶を一気飲みし、ルキフェルは慌てて声を上げた。

「あっ! ベールに報告しなくちゃ」

「任せる。オレ達は夕方までに帰るから、夕食は城で食べると伝えてくれ」

「わかった」

 元気よく手を振り、瑠璃竜王の名を持つ大公は転移で消えた。彼の姿がなくなって、ようやくベルゼビュートは這うように近づく。

「陛下、恨みますわ」

「お前の自業自得だろ。ほら、飯を食え」

 美女の口に容赦なく唐揚げパンを詰め込み、お茶を持たせた。水辺で遊ぶイヴとリリスは、少し冷えた手足を温めながら戻ってくる。

「今日の予定はどうするの?」

「お昼を食べて、日が暮れたら転移すればいいさ」

 後ろにテントも張ってある。一見すると地味なテントだが、中は豪華な仕様になっていた。巨大なヤンが入りきらない小型テントなのに、数十倍の広さがある。空間を魔力で拡張したのだ。広い室内はルシファーの収納から取り出したベッド、テーブルセットや風呂まで完備されていた。

 キャンプと呼ぶには豪華すぎる設備である。妻子に快適な環境を用意するのは夫の仕事、と張り切った結果だった。実際、リリスもイヴも喜んでくれたので大成功だろう。

「お風呂を貸してくださらない?」

 あると疑わないベルゼビュートに許可を出した。疲れ切った様子でテントに入っていく。

「ベルゼ姉さん、浄化したらいいのに」

「あれは精神的な疲れを取りたいんだろうな」

 手っ取り早く浄化すれば体の汚れは落ちるが、心の疲れはそのままだ。さっぱり流してしまいたい気持ちは理解できる。あの専門的な解説を一昼夜ノンストップで聞き続けたのだから。うっかり藪を突いた過去を思い出し、ルシファーは遠い目をした。

 うん、今日も空は綺麗だ。昼食は煮込みシチューを作ることにしたため、食材を現地調達した。捕まえた魔物の肉をミンチにしてお団子を作る。イヴは大興奮でお団子を破壊しまくり、そのたびに直しながら根気強く鍋で煮込んだ。

 2時間ほど入浴してさっぱりしたベルゼビュートは、ご褒美のように用意されたシチューを堪能して先に戻る。子狼達と合流したイヴは、思う存分遊び倒した。疲れて眠った我が子を抱いた妻を連れ、ルシファーはご機嫌で城に帰り……執務机の書類を無視して休む。当然、次の日は朝から書類に追われた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

クソガキ、暴れます。

サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。 ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...