283 / 530
第16章 魔王様の育児論
281.マグマで魔王消滅の危機
しおりを挟む
ここで慌てないのが、大公である。まず魔王ルシファーは結界なしで放り込んでも生きてるだろうと楽観的に分類。彼が生きているなら愛娘に危険が及ぶわけがない、とこれまた簡単に判断された。目を見開いて手を伸ばしたリリスも、叫んだのを忘れたように頷く。
「そうよね、ルシファーが一緒だもの」
イヴに何かあれば、私に衝撃が届くのよ。そんな発言をしながら、からりと明るく笑った。ということは、現時点でイヴの無事は確約されたらしい。沸き立つマグマを凍らせようとした魔法を、娘にキャンセルされた魔王はまだ顔を見せなかった。
「イヴっ、魔法の解除はダメだろ。めっ!」
マグマの中で結界に包んで確保した愛娘を叱りながら、彼女が解除していく結界を張り直す。こうなったら持久戦である。繰り返される解除を叱れば、不満そうに唇を尖らせた。ルシファー自身は魔力さえ確保されていたら、砂やアメーバからでも再生する自信がある。だがイヴはまだ分からなかった。
リリスの時もそうだが、成長するまで能力のすべては把握できない。魔族によっては、己の能力を知らぬまま死んでいく者もいるくらいだ。イヴがマグマの熱に対して耐性があるか不明な現状、うっかり触れて指先が溶けたり燃えたら大事件だった。
「イヴ、リリスのところへ帰ろう」
「やぁ、まだやぁ」
可愛く首を振ってごねる彼女は、まったく危険を察知していなかった。外の温度なんて気にしたこともない。こうなると、過保護に育てる危険性に嫌でも気づかされた。多少ケガをしてでも、熱さや冷たさを覚えさせるべきか。
悩みながらふわりと浮かび上がるルシファーは、マグマの表面にぷかりと頭を出した。上空のリリスはルキフェルに安全を確保されている。追って飛び込まなかった彼女にほっとした。イヴを上に掲げて転移させようとした瞬間……結界がすべて消滅する。
手が届く距離に魔法陣を置いてイヴを残し、ルシファーはそのまま沈んでしまった。綺麗に消えた父親の残した泡を、きょとんとした顔で見つめるイヴ。自分が結界を消したことが原因だと思っていない。悲鳴を上げたリリスが気絶したので、彼女を助けて動けないルキフェルが叫んだ。
「ベルゼ! 手伝って!!」
「え? なに、コレ……」
呼ばれて慌てたベルゼビュートに、無理やりリリスを押し付ける。ルキフェルは結界を張って、まっすぐマグマへ飛び込もうとした。途中でイヴを抱きかかえ、転送しようとする。しかしイヴの動きの方が早かった。
「だぁ! めっ!!」
叫んだ声と同時に小さな指をマグマに突っ込む。上空でベルゼビュートが悲鳴を上げ、駆け付けた魔王軍のドラゴンが女大公を支える。そんな騒動の中、イヴが触れたマグマが透き通った水に変わった。イヴを抱き込んでマグマに突入する気だったルキフェルは、ひんやりした水へざぶんと飲み込まれる。
「ぷはっ、何……え? 何の魔法?」
魔力が動いたのは分かるが、大きく使われたと言うより消滅した感じだった。水面に顔を出してイヴも確保したルキフェルが、慌てて周囲を見回す。草原に噴き出したマグマの海は、ただの池に変化していた。いや、サイズ的には湖が近い。
「……ルシファー! ルシファーは?」
変化も大事件だが、結界なしでマグマに溶けた魔王を回収しなくては。ベールに顔向けが出来ない。焦るルキフェルが周囲を見回すと、純白の髪や翼がぷっかり浮いていた。
「俯せだね、息してる?」
無事な姿にほっとして、思わず状況を端的に口にする。短距離転移で近づき、ごろんとひっくり返した。胸も動いているし、呼吸はしてるね。医師のように冷静に判断する彼の元へ、ピンクの巻き毛の美女が飛び込んだ。ざばんと水が大きく波打つ。
「ルシファー様っ! いまお助けしますわ」
「ベルゼビュート、リリスが沈んでるよ」
手を放してしまった魔王妃が、げほげほ咳き込みながら水面から睨みつける。
「どうなってるのよ」
「僕にも分かんないや」
濡れて張り付いた水色の前髪をかき上げ、ルキフェルは大笑いした。その腕の中で、イヴはご機嫌で水面を叩く。ある意味、大物なのは間違いなかった。
「そうよね、ルシファーが一緒だもの」
イヴに何かあれば、私に衝撃が届くのよ。そんな発言をしながら、からりと明るく笑った。ということは、現時点でイヴの無事は確約されたらしい。沸き立つマグマを凍らせようとした魔法を、娘にキャンセルされた魔王はまだ顔を見せなかった。
「イヴっ、魔法の解除はダメだろ。めっ!」
マグマの中で結界に包んで確保した愛娘を叱りながら、彼女が解除していく結界を張り直す。こうなったら持久戦である。繰り返される解除を叱れば、不満そうに唇を尖らせた。ルシファー自身は魔力さえ確保されていたら、砂やアメーバからでも再生する自信がある。だがイヴはまだ分からなかった。
リリスの時もそうだが、成長するまで能力のすべては把握できない。魔族によっては、己の能力を知らぬまま死んでいく者もいるくらいだ。イヴがマグマの熱に対して耐性があるか不明な現状、うっかり触れて指先が溶けたり燃えたら大事件だった。
「イヴ、リリスのところへ帰ろう」
「やぁ、まだやぁ」
可愛く首を振ってごねる彼女は、まったく危険を察知していなかった。外の温度なんて気にしたこともない。こうなると、過保護に育てる危険性に嫌でも気づかされた。多少ケガをしてでも、熱さや冷たさを覚えさせるべきか。
悩みながらふわりと浮かび上がるルシファーは、マグマの表面にぷかりと頭を出した。上空のリリスはルキフェルに安全を確保されている。追って飛び込まなかった彼女にほっとした。イヴを上に掲げて転移させようとした瞬間……結界がすべて消滅する。
手が届く距離に魔法陣を置いてイヴを残し、ルシファーはそのまま沈んでしまった。綺麗に消えた父親の残した泡を、きょとんとした顔で見つめるイヴ。自分が結界を消したことが原因だと思っていない。悲鳴を上げたリリスが気絶したので、彼女を助けて動けないルキフェルが叫んだ。
「ベルゼ! 手伝って!!」
「え? なに、コレ……」
呼ばれて慌てたベルゼビュートに、無理やりリリスを押し付ける。ルキフェルは結界を張って、まっすぐマグマへ飛び込もうとした。途中でイヴを抱きかかえ、転送しようとする。しかしイヴの動きの方が早かった。
「だぁ! めっ!!」
叫んだ声と同時に小さな指をマグマに突っ込む。上空でベルゼビュートが悲鳴を上げ、駆け付けた魔王軍のドラゴンが女大公を支える。そんな騒動の中、イヴが触れたマグマが透き通った水に変わった。イヴを抱き込んでマグマに突入する気だったルキフェルは、ひんやりした水へざぶんと飲み込まれる。
「ぷはっ、何……え? 何の魔法?」
魔力が動いたのは分かるが、大きく使われたと言うより消滅した感じだった。水面に顔を出してイヴも確保したルキフェルが、慌てて周囲を見回す。草原に噴き出したマグマの海は、ただの池に変化していた。いや、サイズ的には湖が近い。
「……ルシファー! ルシファーは?」
変化も大事件だが、結界なしでマグマに溶けた魔王を回収しなくては。ベールに顔向けが出来ない。焦るルキフェルが周囲を見回すと、純白の髪や翼がぷっかり浮いていた。
「俯せだね、息してる?」
無事な姿にほっとして、思わず状況を端的に口にする。短距離転移で近づき、ごろんとひっくり返した。胸も動いているし、呼吸はしてるね。医師のように冷静に判断する彼の元へ、ピンクの巻き毛の美女が飛び込んだ。ざばんと水が大きく波打つ。
「ルシファー様っ! いまお助けしますわ」
「ベルゼビュート、リリスが沈んでるよ」
手を放してしまった魔王妃が、げほげほ咳き込みながら水面から睨みつける。
「どうなってるのよ」
「僕にも分かんないや」
濡れて張り付いた水色の前髪をかき上げ、ルキフェルは大笑いした。その腕の中で、イヴはご機嫌で水面を叩く。ある意味、大物なのは間違いなかった。
10
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
人並み外れた力をさらに外れた力を持つ道化師の異世界旅
十本スイ
ファンタジー
人並み外れた力をさらに外れた力――《外道魔術》。親友二人の異世界召喚に巻き込まれた白桐望太に備わった異質な能力。しかも潜在的な職業が道化師というわけの分からないステータスまでついている。臆病だがズル賢い望太が、異世界を呑気に旅をして気ままに人助け(ほぼ女性限定)なんかをするスローライフならぬスロートラベラー。になればと思い旅をする主人公が、結局いろいろ巻き込まれる物語。
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
ミニゴブリンから始まる神の箱庭~トンデモ進化で最弱からの成り上がり~
リーズン
ファンタジー
〈はい、ミニゴブリンに転生した貴女の寿命は一ヶ月約三十日です〉
……えーと? マジっすか?
トラックに引かれチートスキル【喰吸】を貰い異世界へ。そんなありふれた転生を果たしたハクアだが、なんと転生先はミニゴブリンだった。
ステータスは子供にも劣り、寿命も一ヶ月しかなく、生き残る為には進化するしか道は無い。
しかし群れのゴブリンにも奴隷扱いされ、せっかく手に入れた相手の能力を奪うスキルも、最弱のミニゴブリンでは能力を発揮できない。
「ちくしょうそれでも絶対生き延びてやる!」
同じ日に産まれたゴブゑと、捕まったエルフのアリシアを仲間に進化を目指す。
次々に仲間になる吸血鬼、ドワーフ、元魔王、ロボ娘、勇者etc。
そして敵として現れる強力なモンスター、魔族、勇者を相手に生き延びろ!
「いや、私はそんな冒険ファンタジーよりもキャッキャウフフなラブコメスローライフの方が……」
予想外な行動とトラブルに巻き込まれ、巻き起こすハクアのドタバタ成り上がりファンタジーここに開幕。
「ダメだこの作者私の言葉聞く気ねぇ!?」
お楽しみください。
色々な所で投稿してます。
バトル多め、題名がゴブリンだけどゴブリン感は少ないです。
異世界トリップだって楽じゃない!
yyyNo.1
ファンタジー
「いたぞ!異世界人だ!捕まえろ!」
誰よ?異世界行ったらチート貰えたって言った奴。誰よ?異世界でスキル使って楽にスローライフするって言った奴。ハーレムとか論外だから。私と変われ!そんな事私の前で言う奴がいたら百回殴らせろ。
言葉が通じない、文化も価値観すら違う世界に予告も無しに連れてこられて、いきなり追いかけられてみなさいよ。ただの女子高生にスマホ無しで生きていける訳ないじゃん!
警戒心MAX女子のひねくれ異世界生活が始まる。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ
さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!
コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定!
ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。
魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。
そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。
一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった!
これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる