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第16章 魔王様の育児論
279.マグマの調査でひと泳ぎ
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夫であるルシファーが視察に向かったと聞いて、保育園からイヴを引き取ったリリスは中庭へ向かう。魔法陣の構築は苦手だし、ルシファーの魔力を終点に飛ぶのも不安定だ。ならば近くまで、転移魔法陣を利用すればいい。簡単に考えを纏め、中庭の魔法陣を眺めた。
どれかしら。行き先を読み解いていると、騒がしい一角に気づいた。魔王軍の数人が、ひとつの魔法陣に飛び込む。リリスは我が子を抱いたまま近づき、文字を読んで頷いた。これだわ。
「リリス様、何を……」
気付いたベールの声を無視して、ぽんと魔法陣に飛び乗る。転移された先は、噴火した草原に近い魔獣の住処だった。ヤンの親族である灰色狼が多く暮らす地区だ。
「わんわ!」
「あら、子どもがいっぱいね」
子狼が生まれる時期と重なったため、太く短い脚の子狼が、転がるように近づいてきた。思わずしゃがんで撫でたところ、あっという間に囲まれてしまう。可愛いので、寄り道していきましょう。気軽にリリスはそう考え、イヴも笑顔で賛成した。
その頃……ルシファーは焦っていた。リリスとイヴがこちらに向かったと報告を受け、そわそわしながら噴火口近くで待つこと15分。おかしい。そろそろ到着する頃なのだが?
魔力を探れば、転移魔法陣出口から動いていなかった。もしかして、具合が悪くなったのか? 動けないのかも知れない。悪い方へ進む考えに青ざめる上司の肩を、ぽんとルキフェルが叩いた。
「ここは僕がいるから、行ってきて」
「あ、ああ。悪いが頼む」
ここで強がって妻子を後回しにする男ではない。ルシファーは大急ぎで翼を広げて飛んでいった。その後ろ姿を見送りながら、ルキフェルが首を傾げる。
「なんで転移しなかったんだろ」
単に思いつかなかっただけだが、それは魔王軍の精鋭達により、良い方へ解釈された。
「現場の磁場が狂ってるから、危険だと判断されたのでは?」
「ふーん、まあいいや」
ルキフェルは気乗りのしない返事をした後、ベルゼビュートが再び飛び込んだ穴の周囲で観測を続ける。刻一刻と変化する現場は、忙しかった。魔王の移動方法は、調査対象に含まれないのである。
「ベルゼビュート、早く帰ってきて報告すればいいのに」
ぼそっと呟き、ルキフェルは溜め息を吐く。マグマの中に飛び込んでも、体の心配をされない辺りが……彼女への評価の一端だろう。殺しても死なない、ある意味彼は正しかった。
マグマの中で、ベルゼビュートはのんびりと泳いでいた。というか、漂っているの方が近い。
「凄いわ、新しい種族が出来ちゃいそう」
種の起源となりそうな塊をいくつか発見し、彼女は目を輝かせた。奥から湧き出るマグマは、心地よい温度でベルゼビュートを温める。結界越しにマグマを回収し、外へ頭を出した。見回す範囲にルシファーがいない。
「ねえ、陛下はどちら?」
「リリス達を連れに行ったよ」
「あらそう。頼まれてたマグマはこれね」
結界で包んだマグマを、ぽんと投げて寄越す。ベルゼビュートの軽い態度もおかしいが、受け取ったルキフェルも十分おかしかった。
「ありがと!」
大喜びで受け止め、結界を張り直して中身を揺らす。まるでワイングラスを回すように、色や温度を確認しては記録した。中に小さな生き物らしき塊が入っていたのも、評価が高い。
「自然現象じゃないっての、この塊のこと?」
「それとは別よ。だってここ、マグマの通り道からズレてるわ」
過去に噴火した地点の隣の草原だと指摘し、ベルゼビュートはふわりと浮き上がった。彼女がマグマに開けた穴から、ぶわっと噴煙と噴石が追いかける。それを面倒くさそうに結界で塞ぎ、女大公は眉を寄せた。
「まあ、悪意がある感じじゃないけどね」
ベルゼビュートの勘はよく当たる。大公や魔王の間で「野生の勘」と呼ばれる本能は、今日も立派にその役目を果たしていた。
どれかしら。行き先を読み解いていると、騒がしい一角に気づいた。魔王軍の数人が、ひとつの魔法陣に飛び込む。リリスは我が子を抱いたまま近づき、文字を読んで頷いた。これだわ。
「リリス様、何を……」
気付いたベールの声を無視して、ぽんと魔法陣に飛び乗る。転移された先は、噴火した草原に近い魔獣の住処だった。ヤンの親族である灰色狼が多く暮らす地区だ。
「わんわ!」
「あら、子どもがいっぱいね」
子狼が生まれる時期と重なったため、太く短い脚の子狼が、転がるように近づいてきた。思わずしゃがんで撫でたところ、あっという間に囲まれてしまう。可愛いので、寄り道していきましょう。気軽にリリスはそう考え、イヴも笑顔で賛成した。
その頃……ルシファーは焦っていた。リリスとイヴがこちらに向かったと報告を受け、そわそわしながら噴火口近くで待つこと15分。おかしい。そろそろ到着する頃なのだが?
魔力を探れば、転移魔法陣出口から動いていなかった。もしかして、具合が悪くなったのか? 動けないのかも知れない。悪い方へ進む考えに青ざめる上司の肩を、ぽんとルキフェルが叩いた。
「ここは僕がいるから、行ってきて」
「あ、ああ。悪いが頼む」
ここで強がって妻子を後回しにする男ではない。ルシファーは大急ぎで翼を広げて飛んでいった。その後ろ姿を見送りながら、ルキフェルが首を傾げる。
「なんで転移しなかったんだろ」
単に思いつかなかっただけだが、それは魔王軍の精鋭達により、良い方へ解釈された。
「現場の磁場が狂ってるから、危険だと判断されたのでは?」
「ふーん、まあいいや」
ルキフェルは気乗りのしない返事をした後、ベルゼビュートが再び飛び込んだ穴の周囲で観測を続ける。刻一刻と変化する現場は、忙しかった。魔王の移動方法は、調査対象に含まれないのである。
「ベルゼビュート、早く帰ってきて報告すればいいのに」
ぼそっと呟き、ルキフェルは溜め息を吐く。マグマの中に飛び込んでも、体の心配をされない辺りが……彼女への評価の一端だろう。殺しても死なない、ある意味彼は正しかった。
マグマの中で、ベルゼビュートはのんびりと泳いでいた。というか、漂っているの方が近い。
「凄いわ、新しい種族が出来ちゃいそう」
種の起源となりそうな塊をいくつか発見し、彼女は目を輝かせた。奥から湧き出るマグマは、心地よい温度でベルゼビュートを温める。結界越しにマグマを回収し、外へ頭を出した。見回す範囲にルシファーがいない。
「ねえ、陛下はどちら?」
「リリス達を連れに行ったよ」
「あらそう。頼まれてたマグマはこれね」
結界で包んだマグマを、ぽんと投げて寄越す。ベルゼビュートの軽い態度もおかしいが、受け取ったルキフェルも十分おかしかった。
「ありがと!」
大喜びで受け止め、結界を張り直して中身を揺らす。まるでワイングラスを回すように、色や温度を確認しては記録した。中に小さな生き物らしき塊が入っていたのも、評価が高い。
「自然現象じゃないっての、この塊のこと?」
「それとは別よ。だってここ、マグマの通り道からズレてるわ」
過去に噴火した地点の隣の草原だと指摘し、ベルゼビュートはふわりと浮き上がった。彼女がマグマに開けた穴から、ぶわっと噴煙と噴石が追いかける。それを面倒くさそうに結界で塞ぎ、女大公は眉を寄せた。
「まあ、悪意がある感じじゃないけどね」
ベルゼビュートの勘はよく当たる。大公や魔王の間で「野生の勘」と呼ばれる本能は、今日も立派にその役目を果たしていた。
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