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第16章 魔王様の育児論

275.観光地が台無しだ

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 水面は湯が沸くように揺れ、ぼこぼこと空気が外へ逃げてくる。その臭いに、ルシファーはくん……と鼻をひくつかせた。

「温泉? まさか」

 眉を寄せ、ひとまず逃げ遅れた者がいないか探査する。魔力を探って見つけた数人を、次から次へと結界で包んで逃した。空中へ避難した中には、数人の子どもも混じっている。

 岸で両親らしき二人が崩れ落ちるのが見えた。我が子の無事救出された姿に、ほっとしたのだろう。気持ちは分かる。ルシファーとて人の親だ。彼らが我が子を大切にしていることに、自然と気分が上向いた。助けた者を岸まで運び、結界を解いていく。

 岸で家族と再会する邪魔にならぬよう、順番に幼い者から返した。その間も、湧き立つ水面は悪臭を放っていた。

「やっぱり温泉の硫黄だよな」

 ふわりと水面まで降りて、中に飛び込む。湖の温度はまだ冷たいまま、特に沸いた様子はなかった。硫黄の臭いがする空気が上がってきただけか。

 首を傾げたルシファーは、しばらく立ち入り禁止にすればいいと簡単に考えた。危険があるなら、近寄らず過ごせばいいのだ。幸いにして魔の森に覆われたこの湖畔は、誰かの住処ではないのだから。

 立ち入り禁止にしたら、監視の魔王軍を派遣して……その前に命令書の発行が先か。順番を考えながら浮き上がったルシファーは、次の瞬間、巨大な炎に包まれた。

「は? え……っと?」

 周囲を見回すが、すごい高温のようで、白い蒸気に阻まれ何も見えない。魔力が集まる岸の方角は分かるが、混乱して逃げ惑う様子が感じ取れた。結界を徐々に広げ、高度を上げて距離を取る。そこまでしても蒸気は追ってきた。

 ふと気づいて、横移動する。蒸気が縦に吹き出すなら、横はさほど影響がないはず。経験から判断したルシファーが現れると、わっと岸が騒がしくなった。魔王の無事を喜ぶ民は、逃げる足を止めて声を上げる。

「魔王様はご無事だ」

「そりゃそうよ、私達と違うわ」

「さすがだな」

「これで安心ね」

 何があっても、魔王が無事ならば魔族は安泰。そう口にされれば、誰しも悪い気はしない。振り返ったルシファーが確認したのは、湖の中央より後ろ側に出現した、巨大な蒸気の柱だった。

「噴火? でも湖底だぞ」

 騒ぎを聞きつけたのか、誰かが通報したか。魔王軍のドラゴンが数匹現れ、監視するように周囲を飛んだ。柱のすぐ脇で手を振れば、驚いた様子で近づいてくる。

「魔王陛下、巻き込まれたのですか」

「騒動を聞いたので、民を救出した。その直後にこれだ」

 ひょいっと指差した高温のスチームは、まだかなりの高さまで噴き上がっていた。衰えない勢いに肩を竦める。

「ご無事で何よりです。ベール大公閣下より、緊急事態によるミヒャール湖周辺の封鎖命令が出ました」

「いい判断だ。多分噴火だろう。硫黄臭がするからな。それと湖底は……」

 以前に海と繋がっていたか? そんな確認をする前に、轟音を上げて茶色や黒に濁った湯が降り注いだ。結界を広げて、目の前のドラゴンも包む。確認すれば、他のドラゴンは距離を置いていた。

「被害が出る前に、民の避難だ。ひとまず魔王城へ集めてくれ」

 指示に従う軍人竜を見送り、濁って行く湖を見下ろした。やっと透明になったのに、またしばらくこの色か。魚が増え、立派な観光地になったのに……オレが来てる時に爆発しなくても。いや、いる時だから被害がなくて済んだ。逆に良かったかも知れん。

 湖底に火山なんていつ出来たんだ? かつて人族の都があったんだから、安定した地層だったはず。うーんと唸りながら、噴石や煮えたぎる湯を結界で防ぐ。民の避難を見届け、待っていたリリスやイヴと共に城へ引き上げた。
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