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第16章 魔王様の育児論
274.観光地のルールは厳格
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湖底に沈んだ人族の都も見物し、魔王一家は地上に戻った。帰りはふわふわと浮き上がる方法を用いる。興奮したイヴが2枚ほど結界を破いたが、溺れることなく水上までたどり着いた。
「イブはこれ、食べる!」
観光地に出店や商人がいないわけもなく、いつもの宴会時のような出店が並ぶ。これらは申請式になっており、承認の書類によく署名した記憶のあるルシファーは、懐かしいと呟いた。場所は抽選で決まり、定期的に入れ替えも行われる。
魔族にとって公平はとても大事な要素であり、力のある商人がよい場所を独占したり、買い占めることは不可能だった。串に刺さった果物を買ってもらったイヴだが、喉に刺さる危険がある。浮きながら食べることを禁止され、近くのテーブルに大人しく落ち着いた。
「喉に刺さらないよう、最初のひとつをルシファーが食べてくれたのよ」
昔話に目を輝かせたイヴは、ぐいっと果物の串をルシファーに突きつける。どうやら、一番上を食べろと言うのだろう。だがここで問題が一つ。一番上はイヴの大好物の苺だった。下に苺はないため、食べてしまえば泣くだろう。
幼子ゆえに状況の理解が甘い娘に微笑んで、ひとつ目を串から外した。それを自分の口に入れず、イヴの口に押し当てる。大好物が唇に触れれば、当然食べるのが子どもである。ぱくりと半分ほど齧り、残りも食べて濡れた父の手をぺろりと舐めた。
「ぷふっ」
満足げに息をつくイヴは、残る果物に挑戦する。串の両端を掴み、真ん中から噛みついた。二つ目の梨ではなく、三つ目の葡萄だ。その下にも緑の葡萄粒があり、最後にマンゴーが刺さっていた。なんとも豪華だ。
「イヴは自分でバナナの皮を剥けるのよ」
得意げに話しながら、リリスはバナナにチョコレートが掛かった串を食べる。チョコバナナは、以前にアンナが提案して人気になった、出店の定番商品だ。日本人の知識には相応の対価が支払われるため、彼らは個人資産を着々と増やしていた。
今夜宿泊予定の温泉街は、地熱を使ったカカオやバナナの栽培が盛んだ。温泉卵はイザヤの小説で紹介され、それも人気だと聞いた。もちろん、アイディア料は50年保証される。その後は共有財産となり、使用料がゼロになるルールだった。
「あら、本屋さんも出店したのね」
観光地なのに何故かしら。リリスが指差す方角に、本を並べた店がある。絵本から小説まで。幅広く並んだ本は、かなり売れていた。
「何が売れるか、わからないもんだな」
タオルなどの日用品はもちろん、衣服を販売する店もあった。魔獣用の羽織りマントが人気らしく、ヤンが孫達に強請られている。ちなみに、ヤンは護衛の仕事でかなりの貯蓄があった。迷いながら数枚を購入し、孫に与える。どうやら押し負けたらしい。
こういった観光地で顔を合わせても、互いに指摘しない。魔王だからと特別扱いしたり、ヤンが仕事モードでへり下るのは禁止だった。温泉街もこのルールを適用する地域だ。そうしないと人だかりで観光もできない。視察で街を巡る時も、魔族は必要以上に魔王や大公を取り囲むことはなかった。
のんびり食べ終えたイヴの手と口を拭いて、ひょいっと抱き上げる。空いた左腕にリリスが手を絡め、にっこり笑った。お天気がよく、観光地も問題なく、民も平和に遊んでいる。何もかも順調だ。ご機嫌で休憩所の方へ足を向けた彼らに、思わぬ悲鳴が届いた。
「うわっ! 湖の底に何かいるぞ!!」
「早く子どもを!」
「うちの子がまだ泳いでるのよっ」
はぁ……溜め息を吐いて、リリスにイヴを預ける。くすくす笑う妻は、夫の頬にキスをした。
「行って助けて来て。私の夫は最高にかっこいい魔王様なんだから」
「……頑張る」
ぱちんと指を鳴らし、湖の上空へ飛んだ。振り返ると、気づいたヤンがリリスに寄り添っている。安心して、泡立つ水面と対峙した。
「イブはこれ、食べる!」
観光地に出店や商人がいないわけもなく、いつもの宴会時のような出店が並ぶ。これらは申請式になっており、承認の書類によく署名した記憶のあるルシファーは、懐かしいと呟いた。場所は抽選で決まり、定期的に入れ替えも行われる。
魔族にとって公平はとても大事な要素であり、力のある商人がよい場所を独占したり、買い占めることは不可能だった。串に刺さった果物を買ってもらったイヴだが、喉に刺さる危険がある。浮きながら食べることを禁止され、近くのテーブルに大人しく落ち着いた。
「喉に刺さらないよう、最初のひとつをルシファーが食べてくれたのよ」
昔話に目を輝かせたイヴは、ぐいっと果物の串をルシファーに突きつける。どうやら、一番上を食べろと言うのだろう。だがここで問題が一つ。一番上はイヴの大好物の苺だった。下に苺はないため、食べてしまえば泣くだろう。
幼子ゆえに状況の理解が甘い娘に微笑んで、ひとつ目を串から外した。それを自分の口に入れず、イヴの口に押し当てる。大好物が唇に触れれば、当然食べるのが子どもである。ぱくりと半分ほど齧り、残りも食べて濡れた父の手をぺろりと舐めた。
「ぷふっ」
満足げに息をつくイヴは、残る果物に挑戦する。串の両端を掴み、真ん中から噛みついた。二つ目の梨ではなく、三つ目の葡萄だ。その下にも緑の葡萄粒があり、最後にマンゴーが刺さっていた。なんとも豪華だ。
「イヴは自分でバナナの皮を剥けるのよ」
得意げに話しながら、リリスはバナナにチョコレートが掛かった串を食べる。チョコバナナは、以前にアンナが提案して人気になった、出店の定番商品だ。日本人の知識には相応の対価が支払われるため、彼らは個人資産を着々と増やしていた。
今夜宿泊予定の温泉街は、地熱を使ったカカオやバナナの栽培が盛んだ。温泉卵はイザヤの小説で紹介され、それも人気だと聞いた。もちろん、アイディア料は50年保証される。その後は共有財産となり、使用料がゼロになるルールだった。
「あら、本屋さんも出店したのね」
観光地なのに何故かしら。リリスが指差す方角に、本を並べた店がある。絵本から小説まで。幅広く並んだ本は、かなり売れていた。
「何が売れるか、わからないもんだな」
タオルなどの日用品はもちろん、衣服を販売する店もあった。魔獣用の羽織りマントが人気らしく、ヤンが孫達に強請られている。ちなみに、ヤンは護衛の仕事でかなりの貯蓄があった。迷いながら数枚を購入し、孫に与える。どうやら押し負けたらしい。
こういった観光地で顔を合わせても、互いに指摘しない。魔王だからと特別扱いしたり、ヤンが仕事モードでへり下るのは禁止だった。温泉街もこのルールを適用する地域だ。そうしないと人だかりで観光もできない。視察で街を巡る時も、魔族は必要以上に魔王や大公を取り囲むことはなかった。
のんびり食べ終えたイヴの手と口を拭いて、ひょいっと抱き上げる。空いた左腕にリリスが手を絡め、にっこり笑った。お天気がよく、観光地も問題なく、民も平和に遊んでいる。何もかも順調だ。ご機嫌で休憩所の方へ足を向けた彼らに、思わぬ悲鳴が届いた。
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ぱちんと指を鳴らし、湖の上空へ飛んだ。振り返ると、気づいたヤンがリリスに寄り添っている。安心して、泡立つ水面と対峙した。
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