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第15章 神のいない神隠し
257.小型化は無理ですぞぉ
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泥の中に落ちたはずが、いきなり空中に放り出された。落下する体を魔力で支えようとして……そのまま落ちる。
「え? 嘘だ、なぜ……」
混乱して風の魔法を放つが無視され、仕方なく魔法陣を描く。こちらはかろうじて反応した。だが威力が弱い。明らかに通常の半分程度だった。
落下が止まって一安心したところへ、巨大な狼が降ってくる。
「我が君ぃ!!」
「ヤン、小型化しろ」
「無理ですぞぉ」
魔法が使えない状況なのだから、ヤンの小型化も難しかった。彼が普段から魔法陣で小型化するフェンリルなら、おそらく成功しただろう。効果半減で半分だったとしても……落下する物体の質量が減れば、威力とスピードも半減する。
巨大なヤンを受け止めるため、ルシファーはひとまず翼を出して魔力を補充しつつ、魔法陣を強化した。足下は遥か彼方に地面がある。このまま落下したら、二人とも大ケガ確実だった。
「ヤン、丸まれ」
「承知っ!」
くるっと丸まった毛玉を、魔法陣の中央で受け止める。が、べりっと音がして破けた。さらに落ちるヤンだが、その先にも3枚の魔法陣が待ち受けている。次々と破るヤンの落下は、最後の魔法陣で食い止められた。
「……我は死んだのですかな?」
「生きてる。というか、ここは何だ?」
首を傾げるルシファーに、ヤンが頭上を見ろと促した。
「我が君、上っ! 上です」
「ん?」
顔を上げたルシファーは、続いて落下した翡翠竜付きの豊満ボディーを受け止める羽目になった。翼を広げていたとはいえ、かなり衝撃がある。小さく見えていた地上の岩が、倍以上の大きさまで近づいていた。
「っ、危なかった」
「ありがとうございます、陛下。ところで、風の魔法が働かないですわね」
「魔法ではなく、魔法陣で対応しろ。威力は半分になるが、発動する」
「嫌だわ、在庫が少ないのに」
ぼやくベルゼビュートは、精霊女王だ。考えながら魔法陣を構築するルシファーやルキフェルと真逆で、本能で魔力を変換する。咄嗟に使うのはいつも魔法で、魔術の類は苦手だった。
「羽を広げて、飛べるか?」
「やってみますわ」
「僕は嫌だって言ったのに」
無理やり連れて来られた。涙目でそう訴える翡翠竜アムドゥスキアスは、ぽかりと後ろ頭を殴られた。
「いつまでも煩いわよ。そんなんだと、レライエに愛想尽かされちゃうわ」
がーん! 顔にショックだと表明する翡翠竜は、ふわふわと浮いている。だが魔法陣は使用していなかった。
「アドキス、どうやって飛んでるんだ?」
「え、いつも通りです。ただ体が重くて不安定ですけど」
いつも通り飛べる? 言われて、ルシファーも試すが、もちろん落下した。途中で翼をもう2枚追加し、魔法陣でふわりと浮き上がる。合計4枚に増えた白い翼を動かしながら、魔法陣で浮遊をかけ続けた。
「いつも通りだと落ちるぞ」
「僕は浮いていますね。なぜでしょう」
真剣な顔で問われても、同じことを問い返したいのはオレの方だ。ルシファーはそう切り返し、地上へ視線を向けた。それから上空を確認するように見上げる。
「落ちた穴はもう見えないな」
「陛下、あたくしの羽も飛べますわ」
ほらと両手を広げて示す通り、ベルゼビュートも浮いている。だが飛ぶ表現するには、不安定だった。魔法陣での魔術発動の威力が落ちたのと、同じ原理か。理由は不明だが、持っている能力が半減したのは事実らしい。
「ここはオレの知る世界じゃなさそうだ」
見た目は似ている。遠くまで広がる森と、点在する湖。向こうに火山があり、川も流れていた。反対側を振り返れば、海らしき光の反射も見える。しかし……気配と表現するべきか。森に魔力が感じられなかった。
「降りてみます?」
「そうだな。この世界にラミアや子どもが来たとしたら、落下したはずだ」
同じ穴から落ちたか判断できないが、無事でいればいい。そう考えながら森に近づく。ゆっくり下降するルシファーは、全員を個々に包む結界を張った。
「え? 嘘だ、なぜ……」
混乱して風の魔法を放つが無視され、仕方なく魔法陣を描く。こちらはかろうじて反応した。だが威力が弱い。明らかに通常の半分程度だった。
落下が止まって一安心したところへ、巨大な狼が降ってくる。
「我が君ぃ!!」
「ヤン、小型化しろ」
「無理ですぞぉ」
魔法が使えない状況なのだから、ヤンの小型化も難しかった。彼が普段から魔法陣で小型化するフェンリルなら、おそらく成功しただろう。効果半減で半分だったとしても……落下する物体の質量が減れば、威力とスピードも半減する。
巨大なヤンを受け止めるため、ルシファーはひとまず翼を出して魔力を補充しつつ、魔法陣を強化した。足下は遥か彼方に地面がある。このまま落下したら、二人とも大ケガ確実だった。
「ヤン、丸まれ」
「承知っ!」
くるっと丸まった毛玉を、魔法陣の中央で受け止める。が、べりっと音がして破けた。さらに落ちるヤンだが、その先にも3枚の魔法陣が待ち受けている。次々と破るヤンの落下は、最後の魔法陣で食い止められた。
「……我は死んだのですかな?」
「生きてる。というか、ここは何だ?」
首を傾げるルシファーに、ヤンが頭上を見ろと促した。
「我が君、上っ! 上です」
「ん?」
顔を上げたルシファーは、続いて落下した翡翠竜付きの豊満ボディーを受け止める羽目になった。翼を広げていたとはいえ、かなり衝撃がある。小さく見えていた地上の岩が、倍以上の大きさまで近づいていた。
「っ、危なかった」
「ありがとうございます、陛下。ところで、風の魔法が働かないですわね」
「魔法ではなく、魔法陣で対応しろ。威力は半分になるが、発動する」
「嫌だわ、在庫が少ないのに」
ぼやくベルゼビュートは、精霊女王だ。考えながら魔法陣を構築するルシファーやルキフェルと真逆で、本能で魔力を変換する。咄嗟に使うのはいつも魔法で、魔術の類は苦手だった。
「羽を広げて、飛べるか?」
「やってみますわ」
「僕は嫌だって言ったのに」
無理やり連れて来られた。涙目でそう訴える翡翠竜アムドゥスキアスは、ぽかりと後ろ頭を殴られた。
「いつまでも煩いわよ。そんなんだと、レライエに愛想尽かされちゃうわ」
がーん! 顔にショックだと表明する翡翠竜は、ふわふわと浮いている。だが魔法陣は使用していなかった。
「アドキス、どうやって飛んでるんだ?」
「え、いつも通りです。ただ体が重くて不安定ですけど」
いつも通り飛べる? 言われて、ルシファーも試すが、もちろん落下した。途中で翼をもう2枚追加し、魔法陣でふわりと浮き上がる。合計4枚に増えた白い翼を動かしながら、魔法陣で浮遊をかけ続けた。
「いつも通りだと落ちるぞ」
「僕は浮いていますね。なぜでしょう」
真剣な顔で問われても、同じことを問い返したいのはオレの方だ。ルシファーはそう切り返し、地上へ視線を向けた。それから上空を確認するように見上げる。
「落ちた穴はもう見えないな」
「陛下、あたくしの羽も飛べますわ」
ほらと両手を広げて示す通り、ベルゼビュートも浮いている。だが飛ぶ表現するには、不安定だった。魔法陣での魔術発動の威力が落ちたのと、同じ原理か。理由は不明だが、持っている能力が半減したのは事実らしい。
「ここはオレの知る世界じゃなさそうだ」
見た目は似ている。遠くまで広がる森と、点在する湖。向こうに火山があり、川も流れていた。反対側を振り返れば、海らしき光の反射も見える。しかし……気配と表現するべきか。森に魔力が感じられなかった。
「降りてみます?」
「そうだな。この世界にラミアや子どもが来たとしたら、落下したはずだ」
同じ穴から落ちたか判断できないが、無事でいればいい。そう考えながら森に近づく。ゆっくり下降するルシファーは、全員を個々に包む結界を張った。
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