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第15章 神のいない神隠し
252.長寿だと発育ものんびり
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痛いことをしたら仕返しされ、悪いことをすれば報いがある。半泣きの我が子へ、リリスが諭す。噛まれた足は、じわじわと血が滲んでいた。自分で手を当てて「いたい、いたい」と訴えるイヴは、ちらちらとルシファーを見る。
治して欲しいが、まだ母の説教中である。こっそりお願い、とでも言うように視線を固定した。治したいのは山々のルシファーだが、手を出したらリリスと拗れる。娘の嘆願か、妻の怒りか。葛藤する魔王の前へ、レライエがクッションを並べた。
「ひとまず、落ち着きませんか」
促されて、ルシファーも敷き物に腰を下ろす。隣にリリスが座り、イヴを膝に乗せた。この時点で、イヴに逃げ場はない。隣のパパへ必死のアピールを行うものの、穏やかな笑みで首を横に振られた。今助けると、オレの身が危ない。そんな身も蓋もない返答を、イヴは感じ取った。
項垂れた彼女は、大人しく説教が終わるのを待った。幼子の5分は、大人の1時間に相当する。かなり我慢したが、リリスの話は終わらない。ついにイヴは切れた。
「やぁああああ゛!」
両手を振り回して抗議した結果、リリスは溜め息をついてルシファーへ引き渡す。結界を無効化しつつ暴れる我が子を、魔王は難なく抱き締めた。リリスもかなりお転婆だったな、そんな懐かしさが込み上げるが、イヴが振り回した手で顎を殴られた。
地味に痛い。普段から結界で痛みや暑さ寒さを排除するため、意外にも上位魔族は痛みに弱かった。頂点に立つ魔王ルシファーも例外ではない。
「もう消すぞ」
「いいわ、懲りたでしょうし」
リリスの許可を得て、治癒魔法を使った。じくじく痛むイヴの足、噛まれた尻尾を舐めるゴルティー、ついでに自分の顎も治す。舌を噛んだら危険だから、暴れる我が子を抱くときは、首元に腕を回させよう。どうでもいい教訓を得たルシファーは、ぽんぽんとイヴの背を叩いた。
ぐすぐすと鼻を啜るイヴを見ながら、ルシファーは愛娘の発育に関して呟いた。
「いつになったら、イヴと会話が出来るだろう」
不安が滲む声ではなく、ぽろりと溢れた本音のようだ。実際「パパ」や「ママ」「ヤン」などの単語は発するが、普段は鳴き声のような発声ばかりだった。複数の単語を連ねた「ママ、欲しい」「パパ、抱っこ」もまだである。
発育の遅い種族としては、神龍などの実例がある。空を飛べるようになるまで50年ほどかかるのが標準で、大蛇程度から龍と認識される太さまで育つのも80年前後かかる。それに比べたら、まだ2歳になる前のイヴは早い方だった。しかしリリスが割と早く話し始めたため、そろそろかな? と期待するのは仕方ない。
「イヴはゆっくりよね」
「あゔ!」
言葉の意味は理解しているようで、相槌を打つように返事は出来る。つまり発育が悪いわけではなさそうだった。
「まぁ、寿命も長いし……あと500年くらいは子供でもいいか」
「ロキちゃんは1万年以上、子どもだったんでしょ?」
「成長を止めてたから、1万5千年前後か……それは流石に長いな。出来たら100年くらいで歩いて欲しい」
気の長い話をする夫婦の脇で、レライエは我が子ゴルティーを撫でた。噛まれた尻尾の傷も癒してもらい、今は機嫌よく寝転がって腹を晒している。甘えるのが上手なところは、父親そっくりだった。
「お前は何年生きるかな」
「ん? アムドゥスキアスも大公候補だったし、明らかに父親似だから長生きしそうだな」
ルシファーの太鼓判をもらい、長生きが確定した琥珀竜は大きな欠伸をひとつ。長い付き合いになりそうだった。
治して欲しいが、まだ母の説教中である。こっそりお願い、とでも言うように視線を固定した。治したいのは山々のルシファーだが、手を出したらリリスと拗れる。娘の嘆願か、妻の怒りか。葛藤する魔王の前へ、レライエがクッションを並べた。
「ひとまず、落ち着きませんか」
促されて、ルシファーも敷き物に腰を下ろす。隣にリリスが座り、イヴを膝に乗せた。この時点で、イヴに逃げ場はない。隣のパパへ必死のアピールを行うものの、穏やかな笑みで首を横に振られた。今助けると、オレの身が危ない。そんな身も蓋もない返答を、イヴは感じ取った。
項垂れた彼女は、大人しく説教が終わるのを待った。幼子の5分は、大人の1時間に相当する。かなり我慢したが、リリスの話は終わらない。ついにイヴは切れた。
「やぁああああ゛!」
両手を振り回して抗議した結果、リリスは溜め息をついてルシファーへ引き渡す。結界を無効化しつつ暴れる我が子を、魔王は難なく抱き締めた。リリスもかなりお転婆だったな、そんな懐かしさが込み上げるが、イヴが振り回した手で顎を殴られた。
地味に痛い。普段から結界で痛みや暑さ寒さを排除するため、意外にも上位魔族は痛みに弱かった。頂点に立つ魔王ルシファーも例外ではない。
「もう消すぞ」
「いいわ、懲りたでしょうし」
リリスの許可を得て、治癒魔法を使った。じくじく痛むイヴの足、噛まれた尻尾を舐めるゴルティー、ついでに自分の顎も治す。舌を噛んだら危険だから、暴れる我が子を抱くときは、首元に腕を回させよう。どうでもいい教訓を得たルシファーは、ぽんぽんとイヴの背を叩いた。
ぐすぐすと鼻を啜るイヴを見ながら、ルシファーは愛娘の発育に関して呟いた。
「いつになったら、イヴと会話が出来るだろう」
不安が滲む声ではなく、ぽろりと溢れた本音のようだ。実際「パパ」や「ママ」「ヤン」などの単語は発するが、普段は鳴き声のような発声ばかりだった。複数の単語を連ねた「ママ、欲しい」「パパ、抱っこ」もまだである。
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「イヴはゆっくりよね」
「あゔ!」
言葉の意味は理解しているようで、相槌を打つように返事は出来る。つまり発育が悪いわけではなさそうだった。
「まぁ、寿命も長いし……あと500年くらいは子供でもいいか」
「ロキちゃんは1万年以上、子どもだったんでしょ?」
「成長を止めてたから、1万5千年前後か……それは流石に長いな。出来たら100年くらいで歩いて欲しい」
気の長い話をする夫婦の脇で、レライエは我が子ゴルティーを撫でた。噛まれた尻尾の傷も癒してもらい、今は機嫌よく寝転がって腹を晒している。甘えるのが上手なところは、父親そっくりだった。
「お前は何年生きるかな」
「ん? アムドゥスキアスも大公候補だったし、明らかに父親似だから長生きしそうだな」
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