上 下
254 / 530
第15章 神のいない神隠し

252.長寿だと発育ものんびり

しおりを挟む
 痛いことをしたら仕返しされ、悪いことをすれば報いがある。半泣きの我が子へ、リリスが諭す。噛まれた足は、じわじわと血が滲んでいた。自分で手を当てて「いたい、いたい」と訴えるイヴは、ちらちらとルシファーを見る。

 治して欲しいが、まだ母の説教中である。こっそりお願い、とでも言うように視線を固定した。治したいのは山々のルシファーだが、手を出したらリリスと拗れる。娘の嘆願か、妻の怒りか。葛藤する魔王の前へ、レライエがクッションを並べた。

「ひとまず、落ち着きませんか」

 促されて、ルシファーも敷き物に腰を下ろす。隣にリリスが座り、イヴを膝に乗せた。この時点で、イヴに逃げ場はない。隣のパパへ必死のアピールを行うものの、穏やかな笑みで首を横に振られた。今助けると、オレの身が危ない。そんな身も蓋もない返答を、イヴは感じ取った。

 項垂れた彼女は、大人しく説教が終わるのを待った。幼子の5分は、大人の1時間に相当する。かなり我慢したが、リリスの話は終わらない。ついにイヴは切れた。

「やぁああああ゛!」

 両手を振り回して抗議した結果、リリスは溜め息をついてルシファーへ引き渡す。結界を無効化しつつ暴れる我が子を、魔王は難なく抱き締めた。リリスもかなりお転婆だったな、そんな懐かしさが込み上げるが、イヴが振り回した手で顎を殴られた。

 地味に痛い。普段から結界で痛みや暑さ寒さを排除するため、意外にも上位魔族は痛みに弱かった。頂点に立つ魔王ルシファーも例外ではない。

「もう消すぞ」

「いいわ、懲りたでしょうし」

 リリスの許可を得て、治癒魔法を使った。じくじく痛むイヴの足、噛まれた尻尾を舐めるゴルティー、ついでに自分の顎も治す。舌を噛んだら危険だから、暴れる我が子を抱くときは、首元に腕を回させよう。どうでもいい教訓を得たルシファーは、ぽんぽんとイヴの背を叩いた。

 ぐすぐすと鼻を啜るイヴを見ながら、ルシファーは愛娘の発育に関して呟いた。

「いつになったら、イヴと会話が出来るだろう」

 不安が滲む声ではなく、ぽろりと溢れた本音のようだ。実際「パパ」や「ママ」「ヤン」などの単語は発するが、普段は鳴き声のような発声ばかりだった。複数の単語を連ねた「ママ、欲しい」「パパ、抱っこ」もまだである。

 発育の遅い種族としては、神龍などの実例がある。空を飛べるようになるまで50年ほどかかるのが標準で、大蛇程度から龍と認識される太さまで育つのも80年前後かかる。それに比べたら、まだ2歳になる前のイヴは早い方だった。しかしリリスが割と早く話し始めたため、そろそろかな? と期待するのは仕方ない。

「イヴはゆっくりよね」

「あゔ!」

 言葉の意味は理解しているようで、相槌を打つように返事は出来る。つまり発育が悪いわけではなさそうだった。

「まぁ、寿命も長いし……あと500年くらいは子供でもいいか」

「ロキちゃんは1万年以上、子どもだったんでしょ?」

「成長を止めてたから、1万5千年前後か……それは流石に長いな。出来たら100年くらいで歩いて欲しい」

 気の長い話をする夫婦の脇で、レライエは我が子ゴルティーを撫でた。噛まれた尻尾の傷も癒してもらい、今は機嫌よく寝転がって腹を晒している。甘えるのが上手なところは、父親そっくりだった。

「お前は何年生きるかな」

「ん? アムドゥスキアスも大公候補だったし、明らかに父親似だから長生きしそうだな」

 ルシファーの太鼓判をもらい、長生きが確定した琥珀竜は大きな欠伸をひとつ。長い付き合いになりそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!  コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定! ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。 魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。 そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。 一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった! これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ
ファンタジー
その短い生涯を無価値と魔神に断じられた男、中島涼。 そんな男が転生したのは、剣と魔法の世界レムフィリア。 新しい職種は魔王。 業務内容は、勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事? 【アルファポリス様より書籍版1巻~10巻発売中です!】 新連載ウィルザード・サーガもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/novel/375139834/149126713

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...