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第14章 それはオーパーツ?

247.海のものとも陸のものとも

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 牙が鋭い種族なら、魔族にもたくさんいる。ただ、彼らは羽やツノ、鱗、毛皮などの特徴があった。

 ルーシアが拾い上げた赤子を受け取り、じっくり確認する。人族によく似た特徴のない外見、まだ生え揃っていない髪の中にツノはない。つるんとした尻に尻尾はなく、男の子だった。この時点で人魚の子が間違えて渡された説が消える。人魚は女性ばかりの種族なのだ。

 羽付きならドラゴン系やハルピュイアなどの可能性もあるが、どちらも否定された。背中はこれまた皮膚に覆われ、羽のカケラもない。吸血鬼系も想定されたが、牙の生え方が全く違った。

「どうだ?」

「我が一族の可能性は皆無ですね」

 言い切れる理由が牙の形状だった。吸血種の牙は、突き刺すための牙以外に、吸い上げるのに使う牙がある。吸い上げやすいよう、裏側に筋が付いていた。その筋に沿って、血を吸う。その特徴がなかったのだ。

「っ、随分鋭いですね」

 生まれたばかりで、こんなに鋭い歯を持つなら肉食系だろう。噛み付いて食い千切る類の牙だった。

「触るなよ、ルーシア。噛まれるぞ」

 うっかり手を近付けた大公女に注意する。彼女らは母であるため、赤子に対して無防備になりやすい。手を噛まれたら、かなり痛いだろう。そう告げたルシファーが、がぶりと噛まれた。

「陛下?!」

「ああ、オレは結界があるから」

 問題ないと言い切る。実際、牙は結界に阻まれて届かなかった。あぐあぐと噛むのは、歯が痒いのか。丸くて大きな目を輝かせながら、嬉しそうに噛み付いた。

「腹が減ったなら、哺乳瓶で乳を与えてみるか」

「用意させます」

 備蓄された倉庫から、哺乳瓶を選んで取り出したルシファーは、駆け出すルーシアを見送った。残ったレライエは、不思議そうに赤子を覗き込む。笑う男児の頬を指で突いて、口の中を確認した。

「鱗もないし、鰓もない。どこの子だろうか」

 考え込みながら、素で疑問を口にする彼女は、何かを思い出したらしい。顔を上げて呟いた。

「あの! 今回のお見合いは、参加者リストがありました」

「ああ、記憶している通りなら……該当する種族がいない。というか、それ以前にオレの知る種族に、こんな赤子はいないんだ」

 都合の悪いことは忘れたフリをするが、ルシファーの記憶力は並はずれている。その意味で言えば、アスタロトも同様だった。彼らが分類できない時点で、陸の魔族に該当種族がいないのだ。

 しかし、男児なので人魚ではない。海に棲む他の種族と子を成したなら、その子はエラや皮膚で呼吸する可能性が高く、こうして陸で元気なのも妙だった。

「陸か、海か。厄介だな」

 ルキフェルの「今後は交わらない方がいい」のアドバイスが過ぎった。あの時は想定しなかったが、確かにこういったトラブルが起きる。その度に仕事が増えると思えば、ある程度規制するのも仕方ないか。

「その子、誰の子?」

「分からない……が、オレの子じゃないぞ」

 乳を持って戻った大公女ルーシアの後ろから、リリスが顔を見せた。見知らぬ赤子を抱くルシファーに疑惑の目を向ける。すぐに気付いて、きっぱり否定した。レライエ達も頷くので、それ以上疑われずに済んだが……。

「あう゛!」

 イヴは元気に手を伸ばしかけ、慌ててレライエに阻止された。きゅっと握られた手をぶんぶん振って、イヴはご機嫌だ。噛みつかれたら大騒ぎになるところだった。安堵しながら礼を言い、リリスに説明する。

「この子は人魚が生んだんだが、種族不明らしい。牙が鋭いから、噛みつかれないよう注意してくれ」

「ふーん。ねえ、人魚じゃないのは男だから? 絶対に生まれないって言い切れるの?」

 思わぬ指摘に、全員が黙り込む。ルーシアが哺乳瓶に詰めたミルクを、ぐいぐい飲む音だけが響いていた。







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