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第14章 それはオーパーツ?

243.お見合いと呼ぶには問題あり

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 人魚のお見合いパーティー、参加者募集が公示されて2週間。驚くほど集まった独身者の半数が、魔王軍に属していたのは、ある意味必然だろう。職場で異性と知り合う機会が少なすぎるのだ。

「これは改善点だな」

「今後の課題としましょう」

 ルシファーとアスタロトは、溜め息混じりに頷き合う。定期的にお見合いパーティーを開くよう、申請書も作成した。

「人魚の生態だが、発情期以外は一緒に暮らせないと説明すべきだよな」

「当然でしょう。子を宿したら海へ帰って、数年は顔を見せないのですよ? 一般的な魔族の生活習慣と違いすぎて、後で問題になります」

 人魚への聞き取り調査は、魅了耐性が人一倍強い既婚者という括りで、アスタロトが選ばれた。ルシファーに関しては、リリスが盛大に反対したのでお預けだ。

 アスタロトの調査結果から浮かび上がったのは、人魚の欲しい伴侶は「種だけ提供して無干渉」だった。一緒に暮らしたり、愛を確かめながら育む関係を求めていない。子種だけ搾ったら、後は放置だった。逆に養育費の請求や、夫や父としての役割は求められない。

「これは見合いではなく、乱交パーティーじゃないか」

「ルシファー様、言葉が汚いですよ。事実上、中身はそんな感じですね」

 だったら、なぜオレは叱られたんだ? そんな疑問を浮かべるルシファーだが、集まった若者を前に言葉を飲み込んだ。彼らにどう説明したものか。

「事実を隠せば後で責められる。今話せば……まだ救われる、よな?」

「話さないという選択肢がありません。騙す形での見合いは禍根を残しますからね」

「……説明を頼む」

 むっとした顔で振り返ったものの、ルシファーに任せるわけにいかない。それはアスタロトも同感だった。泥を被るのは、王ではなく配下でなければマズイ。

「安易な受け入れも考えものですね」

 溜め息を吐くアスタロトに「ほんっとうにごめん」と両手を合わせ、ルシファーは見送った。しょんぼりと肩を落とし、反省する。

「ルシファーってさ、何とかなってきたと思ってるんだよね、結局のところ……いつも誰かが尻拭いをしてきた。ベールやアスタロトは甘やかし過ぎだと思う」

「自覚はあるが、もっと甘やかされたルキフェルに言われるのは、納得がいかない」

 ルキフェルが「やれやれ」と言った口調で呟いたところへ、当事者がぴしゃりと返した。睨み合うが、どちらも甘やかされた坊ちゃん同士である。決着はつかず、平行線だった。

「もう、二人とも! 甘えすぎなのよ」

「リリスが言うな」

「リリスも同じだぞ」

 異口同音にハモり、リリスがむっと唇を尖らせる。抱っこされたイヴが仰け反って「あ゛ああぁう゛!」
と叫んだ。咎めるような響きに、3人は笑い出す。ここは幼いイヴの一人勝ちだった。

「見合い会場を見にいくか」

「いいわね。条件を聞いても手を上げる人はいると思うわ」

「人魚の生態に興味はあるんだよね。1万年振りの新しい幻獣種だし!」

 ルキフェルは浮かれて声を弾ませる。そのセリフの中で、ひとつ引っ掛かりを覚えたルシファーが尋ねる。

「ん? 幻獣種に分類されたのか」

「魅了を使うし、幻獣でいいかな、って話みたいだよ」

 話しながらも簡単そうに魔法陣を使い、転移する。先に移動したアスタロトの説明が終わったところだった。

「今の条件に、納得できる者だけ残りなさい。それ以外は魅了されないよう、こちらへ移動すること」

 示された位置は、緑の木々が茂る魔の森だった。その手前、砂浜との間に結界を張るらしい。ルシファー達もぴたりとその位置で止まった。

「では移動開始!」

 アスタロトの号令で、わさわさと見合いを諦めた者が登ってくる。砂浜に残ったのは、4割ほどだろうか。幻獣種なども混じっており、幅広い種族が残った。巨人族や妖精に近い種族まで。彼らは期待の眼差しを人魚へ注ぐ。

 岩場の人魚達は、笑顔を浮かべて男の物色を始めた。後ろへ下がったアスタロトが結界を張り、音を遮断する。号令をかけずとも、彼女らは雄を魅了する歌を口遊み始めた。
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