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第14章 それはオーパーツ?

238.どの世界のどの時代の船か

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 魔族は基本的に享楽主義である。楽しければ何でもいいのであって、集団での纏まりや他種族への思いやりに欠けるところがあった。それを補うのが魔王ルシファーという稀有な存在だ。すべての種族に気を配り、弱者を強者が守る考えを広めたのも彼だった。

 そうでなければ、魔族はとっくに争い合って消滅していただろう。ベルゼビュート、アスタロト、ベール。この3人の大公がいい例だった。自分達が一番大事で、己に従う種族は庇護する。しかしそれ以外となれば、まったく視界に入れなかった。

 彼らの考えを変えたのが魔王ルシファーであり、最強の名を冠して頂点に君臨したのがルシファーでなければ……現在の魔族の発展はなかった。弱者と言えど何らかの分野において秀でている。それが戦闘手段ではないだけで駆逐されれば、文明や様々な分野の研究は著しく減退しただろう。

 今回の船探索や研究に関しても、意外な才能を見せる一族があった。弱者に分類されるコボルトである。手先が器用なので、魔王城の侍従や侍女に多く採用される彼らは、魔犬の亜種であるため鼻が利く。海水の臭いに惑わされず、様々な品を探し出した。

 体が小柄で、普段から侍従など気遣いする仕事をしている影響か、隠された小物を探すのも得意だった。各船室をくまなく回り、あちこちの隙間から物や書類などを引っ張り出し、船長室らしき部屋で大きな金属製の箱も発見する。これはイザヤが「金庫だ」と発言したことで、金庫と命名された。

 日本人に馴染みがあり、こちらの魔族が知らない物……となれば、異世界から来たと考える方が筋が通るだろう。

「イザヤ、アベル。悪いがこの戦艦に関して分かる知識を、書き出してくれ」

「承知したっす」

 軽い口調で請け負うアベルの隣で、イザヤは渋い顔をした。何か考えながら、用心深く口を開く。

「この船、どのくらい海底にあったか分かりますか?」

「うん? 分からないが、かなり古いと思うぞ」

 考え込んだ後、イザヤは思わぬことを言い出した。この船の性能から判断すると、アベル達がいた時代より未来の船である可能性があると。隣で話を聞いたアベルも同意した。

「その可能性はあるかも。あの辺の機銃は自動っぽかったっす」

 アベルはあるゲームに嵌り、一時期軍事関係に詳しくなったらしい。その知識によれば、10年以内に実戦装備される予定の機銃が、すでに搭載されているとか。アベル達のいた世界の未来なのか、似たような世界の過去なのか。

 どちらにしろ異世界から落ちてきた船である可能性が高い。何らかのトラブルが起きてからでは遅いので、夜間は再び収納へしまうことになった。ルシファーが船をしまう前、ドワーフ達は入念に船底の計測を行う。

 似たような船の建造でもするのか? まあリゾート地になったミヒャール湖に浮いていたら、いい観光資源になるかも知れない。そう思い自由にさせたルシファーだったが、翌朝、芝の広場を見て驚いた。何かの背骨に似た木組みが並んでいる。

「この上に船を置いてみてくださらんか」

 ドワーフの親方に師事していた若者に促され、出した船を注意深く木組みへ下ろした。みしっと軋む音が響くが、きちんと収まる。その上、丸い底部分が固定されたことで船が安定した。魔法陣を使わずとも転がりそうにない。

「見事だな」

「ありがとうございやす」

 照れたように笑うドワーフ達に礼を言い、ルシファーは整列するコボルト達に防護用の結界をかけた。万が一事故が起きたら、渡した笛を吹くこと。仲間がケガをしたら自分達で助けようとせず、外に救助要請を出すこと。結界を過信せず、危険と判断したら下がること。様々な約束に頷いたコボルトが、一斉に船によじ登った。

「ルシファー、イヴの新しいおむつどこ?」

「ああ。こっちだ」

 現場の監督をルキフェルに任せ、そそくさとルシファーはおむつを届けに私室へ戻った。
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