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第14章 それはオーパーツ?

231.そういえば海で拾ったんだが

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「海への警戒レベルを上げます」

 帰ってくるなりベールに切り出された国防関係の報告に頷き、魔王軍の権限を強めた。緊急時は、嫌がる民がいても問答無用で転移させる許可を含む。またルキフェルが新しい魔法陣を構築したらしく、特定した生き物を片っ端から拾い上げて転移させる装置も完成した。

 万が一、前回のように海の波が押し寄せても民を生き残らせるための措置だ。発動はルシファーの魔力が鍵となっており、普段は使えないよう封印された。強権を発動させるなら、その発動条件を厳しくするのは当然だ。誰かの権利や願いを踏みにじる可能性を秘めているのだから。

 ルシファー以外が発動できなくすることで、本当の緊急時に大公達の嘆願をもって魔法陣が効果を発揮する形が整った。誰かが余計な詮索を入れたり、何らかの攻撃手段として利用することが不可能になる。手続きが終わったところで、ルシファーは魔法陣の書かれた羊皮紙を収納へ放り込んだ。

「緊急時に波を防ぐ結界は作れないかな」

「発動条件が難しいですね」

 何をもって危険と判断するか。波の高さか、浸食された距離か。はたまた悪意の有無か。どれをトリガーにしても危険対応の取りこぼしが出る。いろいろ検討した結果、大公や大公女の誰かが現場から報告した内容で対応する方針に落ち着いた。

 ある意味、何も決まらなかったとも言える。だが大公4人と大公女4人がいて、誰も確認や報告が出来ない状況は考えられなかった。安全は担保されたと言える。

「ところで、海なんだが……こないだ妙な物を拾った」

 ルシファーが切り出すと、アスタロトは額を押さえた。部屋にいるベールやルキフェルも同様だ。不安そうに両手を組んだのはルーサルカで、隣のレライエも眉を寄せた。

「言っておくが、いつもオレが問題を起こすばかりだと思うなよ?」

「逆に問題を起こさなかった事例を挙げて欲しいものです」

 ぴしゃりと叱られ、ルシファーはむっとした顔でそっぽを向いた。子どものような所作に、くすくす笑うリリスが手を伸ばす。尖った唇を指先で押し戻し、自分の方を向かせた。

「ねえ、何を拾ったの? カルン?」

 以前に拾った紫珊瑚を口に出す魔王妃に、魔王はゆっくり首を横に振った。

「沈んでいた船だ。それが、どうも魔族の技術ではなさそうで……なんというか、大きかった」

 推進装置らしき物もあったし、明らかに技術力は高い。だが魔法が原動力とは思えない装置で……説明を始めたルシファーに、ルキフェルが目を輝かせた。

「なにそれ、バラしたい」

「そうだな。研究棟に連絡して参加者を募ってくれ。それ以外も興味のある人は参加させていいぞ」

 そわそわと「アベルが好きそう」と呟いたルーサルカを始めとして、アスタロトも「ストラスは参加するでしょうね」と苦笑いする。

「船の大きさはどのくらいですか」

「ざっとスッポンくらいだ」

 過去に空から降ってきて退治され、挙句に女性達に食べ尽くされたスッポン事件は記憶に新しい。あの大きさ程度とすれば、保育園くらいはあるはず。中庭は転移魔法陣が大量に設置されているので、広げる場所として却下された。転移した誰かがぶつかると危険だ。

 あれこれ検討した結果、城門外の広場に決まった。

「ここ数十年、城門前が大活躍だな」

「エルフは芝を諦めたようですね」

 雑草に近い背の低いハーブが生い茂る広場は、芝を植えては戦闘で削られた。丈夫な芝を開発したら、今度は焼き払われたり、アンデッドが穢したり……芝は不吉と言う結論に達したとか。一生懸命なのに気の毒なことだ。当事者のくせに、ルシファーはけろりと他人事として処理した。

「船を出す時間が決まったら連絡してくれ。会議は終わりにしよう」

 そそくさと立ち上がり、リリスの腕で眠るイヴに頬ずりする。彼女から抱き上げようとして、眠っていたイヴを起こしてしまった。ぐっすり寝ていたのに無理やり起こされ、ご機嫌斜めのイヴは「めっ!」と騒ぎながらルシファーの髪を引っ張る。

 慣れた痛みに頬を緩めながら「可愛いなぁ」と頬ずりする父に、諦めて折れたのはイヴの方だった。こうやって女性は、男性が子どもだと学んでいくのかも知れない。
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