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第13章 海は新たな楽園か
228.徹夜回避の底力
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婚活パーティーの準備を整えるため、作業中のドワーフと既婚の軍人を数名残して引き上げた。調査する必要がないなら、 協力者である一般人は家に帰す。全員を引き連れて転移したベールは、報告をベルゼビュートへ任せた。
鼻歌を歌いながら執務室へ向かう同僚に、一抹の不安を覚える。早めに顔を出すとしましょう。そう決めてベールは事後処理に入った。協力者にお礼の日当を支給し、それぞれを見送る。
一段落ついたところで階段を上がり、見慣れた執務室の扉をノックした。
「はい」
「ベールだ!」
アスタロトの返答に扉を開けば、大切な養い子ルキフェルが飛びついた。青年姿に成長しても、幼かった頃の言動がそのままだ。それが可愛くて仕方ない。受け止めたベールは未処理書類に苦笑いした。
「やはり無理でしたか」
「多過ぎる」
むすっとした顔でルシファーがぼやく。抱き締めたルキフェルも唇を尖らせた。
「こんなの不備ばっかじゃん。突っ返して僕と一緒にいたらいいのに」
母性本能に似た庇護欲を擽るルキフェルに頷き、魔王へ帰還の挨拶を済ませる。すでにベルゼビュートからあらましを聞いたかと確認すれば、ルシファーは首を傾げた。
「いや、ベルゼなら来てないぞ」
「見ていませんね」
アスタロトも念押ししたことで、表情を強ばらせたベールが「仕事の放棄」と呟く。ぼそっと声に出したことで、恐怖感が増した。青ざめるルシファーが取りなしに入る。
「い、いや……きっと用事があるんだろう」
「なるほど。陛下の仰る通りです。私が協力者の日当を計算して支払い、全員を見送るほどの時間があっても終わらない用事があるのでしょう」
時間がかかり過ぎと指摘するベールの指先が、小さな魔法を飛ばす。ベルゼビュートの居場所を特定し、すぐに光った。
「書類があるから、手伝ってくれ」
なんとかベールの気を逸らそうと努力するルシファーをよそに、ルキフェルは爆弾発言を連発した。
「あ、バラ園にいるね」
「旦那のエリゴスもいるみたい」
一家団欒を優先した。そう取れる無邪気な発言に、ベールの表情が固まる。笑顔を作りかけて引き攣った顔が、ぎぎぎぎっと軋んだ動きで魔王へ向けられた。
「この後、お休みをいただいても?」
「……お、おう。休め。いいか、休むんだぞ」
報復とかしなくていい。危険だからな。さまざまな意味を込めて二度口にした魔王に一礼し、養い子と並んで出ていった。珍しく無言だったアスタロトは、大きく溜め息を吐く。
「ルシファー様、この後が大変です」
「本当だ! ベルゼに連絡をして逃げるように……あ、でも逃したと分かればオレが危ない」
あたふたする上司に、肘を突いて顎を載せたアスタロトは「違いますよ」と否定を口にした。
「ベルゼビュートは自業自得です。この書類、ベールに処理してもらおうと思っていたのですが……あの様子では無理ですね」
指摘されて、ルシファーも状況に気付いた。机の高さの倍近くまで積み上げた書類が二列。物理的に危険なので、箱に入れて保管されていた。魔法で固定できないのが不便だが、この部屋で魔法を使えば大惨事になる。
「徹夜の覚悟を決めてください。私も付き合いますので」
文官として処理すべき書類を終わらせながら、アスタロトが示した山を切り崩すべく、ルシファーも大人しく席についた。昨夜も徹夜だったが、今夜も眠れそうにない。元は3人だったのに、ルキフェルも抜けてしまった。
執務室の透明の壁の向こうでは、イヴを抱いたリリスがお昼寝をしていた。羨ましい。彼女達を抱き締めて眠りたい。その一心で、ルシファーの処理能力は驚くべき進化を見せ……夜遅くではあったが、見事処理を終え徹夜を回避したとか。
鼻歌を歌いながら執務室へ向かう同僚に、一抹の不安を覚える。早めに顔を出すとしましょう。そう決めてベールは事後処理に入った。協力者にお礼の日当を支給し、それぞれを見送る。
一段落ついたところで階段を上がり、見慣れた執務室の扉をノックした。
「はい」
「ベールだ!」
アスタロトの返答に扉を開けば、大切な養い子ルキフェルが飛びついた。青年姿に成長しても、幼かった頃の言動がそのままだ。それが可愛くて仕方ない。受け止めたベールは未処理書類に苦笑いした。
「やはり無理でしたか」
「多過ぎる」
むすっとした顔でルシファーがぼやく。抱き締めたルキフェルも唇を尖らせた。
「こんなの不備ばっかじゃん。突っ返して僕と一緒にいたらいいのに」
母性本能に似た庇護欲を擽るルキフェルに頷き、魔王へ帰還の挨拶を済ませる。すでにベルゼビュートからあらましを聞いたかと確認すれば、ルシファーは首を傾げた。
「いや、ベルゼなら来てないぞ」
「見ていませんね」
アスタロトも念押ししたことで、表情を強ばらせたベールが「仕事の放棄」と呟く。ぼそっと声に出したことで、恐怖感が増した。青ざめるルシファーが取りなしに入る。
「い、いや……きっと用事があるんだろう」
「なるほど。陛下の仰る通りです。私が協力者の日当を計算して支払い、全員を見送るほどの時間があっても終わらない用事があるのでしょう」
時間がかかり過ぎと指摘するベールの指先が、小さな魔法を飛ばす。ベルゼビュートの居場所を特定し、すぐに光った。
「書類があるから、手伝ってくれ」
なんとかベールの気を逸らそうと努力するルシファーをよそに、ルキフェルは爆弾発言を連発した。
「あ、バラ園にいるね」
「旦那のエリゴスもいるみたい」
一家団欒を優先した。そう取れる無邪気な発言に、ベールの表情が固まる。笑顔を作りかけて引き攣った顔が、ぎぎぎぎっと軋んだ動きで魔王へ向けられた。
「この後、お休みをいただいても?」
「……お、おう。休め。いいか、休むんだぞ」
報復とかしなくていい。危険だからな。さまざまな意味を込めて二度口にした魔王に一礼し、養い子と並んで出ていった。珍しく無言だったアスタロトは、大きく溜め息を吐く。
「ルシファー様、この後が大変です」
「本当だ! ベルゼに連絡をして逃げるように……あ、でも逃したと分かればオレが危ない」
あたふたする上司に、肘を突いて顎を載せたアスタロトは「違いますよ」と否定を口にした。
「ベルゼビュートは自業自得です。この書類、ベールに処理してもらおうと思っていたのですが……あの様子では無理ですね」
指摘されて、ルシファーも状況に気付いた。机の高さの倍近くまで積み上げた書類が二列。物理的に危険なので、箱に入れて保管されていた。魔法で固定できないのが不便だが、この部屋で魔法を使えば大惨事になる。
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