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第13章 海は新たな楽園か

227.海を禁じたら二日酔いが多発

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 まずは魔王軍の中で未婚の若者を集め、彼女達との見合い計画を伝える。婚活と聞いて首を傾げた彼らも、すぐに状況を飲み込んだ。要は魔王城幹部主催による、結婚相手のあっせん事業である。過去に滅びかけた種族へ同様の見合いを行った経験があるため、抵抗は少なかった。

 それどころか魔王城主催となれば、結婚のお祝い金がふんだんに支給される。魔王軍の規定でも結婚して数ヵ月はハネムーン休暇が認められ、その間の給与は全額支給だった。結婚に対するイメージは上々だ。そこに加え、魔王を始めとした大公女達の結婚が相次いだことで憧れが高まっていた。

「結婚か……いい子がいればしてみたい」

「美女だらけらしいぞ」

「俺も候補に入れるだろうか」

 そわそわするのは「番」の概念を持たない種族が主だった。ドラゴンや魔獣系は番への憧れが勝り、やや距離を置いている。逆に吸血種や一部の幻獣は乗り気だった。番が存在する種族にとって、見合いはハードルが高いらしい。

 もしかしたら、もうすぐ番と会えるのではないか。そう期待するから、出会いに消極的になった。逆に素敵な女性と出会って、幸せに暮らしたいと考える種族は、前のめりで参加表明する。どちらにしろ、当人達の意思が大事なので自由参加制に決まった。

 魔王軍は給与も高いし安定した職業だ。多少の危険はあるが、腕自慢が多いので逆らう種族も少ない。災害時は最優先で派遣されるが、死亡が少ない職業と言うことも手伝い、人気だった。問題はどうしても男社会なので、女性と出会う機会が減ることだ。

 任務時間も不規則だし、内容によっては家族にも秘密で出動する。今回の集団見合いの提案が好意的に受け取られた理由の一端は、出会いに沸き立つ若い軍人だ。見目麗しい女性ばかりと聞き、期待も高まっていた。

 この時点で、軍人達はひとつ見落としている。海辺で笑顔を浮かべて誘う彼女達は、全員下半身が魚だということ。海で暮らせる種族でなければ、妻とラブラブいちゃつく生活は夢なのだ。重ねて、彼女らは繁殖期が終われば夫を必要としなかった。

 まあ、その辺は夫婦になってから判明する事実だろう。各家庭ごとに違いが出る可能性もあり、ベールはその懸念をあえて口にしなかった。

「宿泊所が出来ましたぜ!」

 ドワーフの親方が意気込んで報告に現れ、小型のコテージに似た小屋がいくつも建てられた現場を確認する。報告書に署名を行ったベールは、協力者や軍人を小屋に合わせて振り分けた。

「夜中に海へ行くことを禁じます」

 きっちり言い渡して、彼らに内緒で結界を張った。歌の正体が判明した以上、調査の続行は不要だ。勝手に人魚に接触しないよう、男達を統制するのは大公である自分の役割と考えた。ベルゼビュートは結界に気づくと肩を竦め「まあ、当然の処置よね」と同意する。

 過ちがあってからでは遅い、ベールはそう思う。その隣で腕を組んだベルゼビュートは、全く違う考えだった。積極的過ぎる繁殖期の人魚に、若者が食い散らかされてからでは遅いわ。危険度の認識が擦れ違う大公二人だが、表面上は同意し合っていた。

「人魚の歌は素晴らしかった。返礼の歌もそれはそれは喜んでくれてな」

 海で歌ったペガサスはその素晴らしさを称え、話を聞いた若者はうっとりと夢見心地に酒を煽る。と、そこでベールが異常に気付いた。

「なぜ酒が振舞われているのですか」

 尋ねるまでもなく、持ち込んだのはドワーフだ。仕事終わりの一杯ならぬ、一樽を楽しんでいるところだった。調査任務が終わったと聞いた若者が羽目を外すのは早く、すでに酔っ払いの群れと化している。彼らのどんちゃん騒ぎを隠す意味でも、ベールの遮音結界は効力を発揮した。

 翌朝、二日酔いの者から順次、魔王城の城門前に転移される。酒の匂いに興奮したピヨが前庭で火を吹き、アラエルが慌てて回収する騒動が起きたが、魔王城は今日も平和であった。
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