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第13章 海は新たな楽園か

218.今後もあれだと困る

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 塩抜きもあらかた終わり、ベルゼビュートは腰に手を当てて周囲を見回した。呼び出した大地の精霊に手伝ってもらい吐きださせた塩を、風の精霊に収納へ投げ込ませる。最後に水の精霊が確認して終わり。流れ作業が一段落した今、彼女は役に立てなかったと泣き叫ぶ火の精霊に対峙していた。

「あのね、適材適所なの。もし戦闘なら、いつも手伝ってもらってるじゃない?」

 今回も役に立ちたかったのだと泣く精霊に絆され、何か仕事はないかと周囲を見回す。と、見覚えのある巨狼が駆け抜けるのを見つけた。高速で森を走る彼の後ろで、魔力を注いで再生させた森の木々が揺れる。中には枝の折れた木もあった。

「ヤンにしては珍しいわね」

 緊急事態でもなければ、森を傷つけることはしない。魔狼は森と共に生き、森で死ぬ一族だった。生まれてから死ぬまで森に寄り添うフェンリルが、森の木々が傷つくことを厭わず全力で走り抜ける。何かあったんだわ!

「あのフェンリルを監視して欲しいの」

 このまま追いかけたいが、報告をしておかないとアスタロトが怖い。それに連絡を途絶えさせると、青い目を吊り上げたベールが説教を始める可能性があった。どちらも怒らせたくないので、魔王軍に報告を代行してもらうつもりだ。

 仕事をもらった火の精霊は大喜びだった。別に魔力を使う仕事でなくてもいいのだ。精霊族と違い、実体を持たない彼らは尾行に最適だった。あちこち燃やさないようお願いして送り出す。

「あたくしって頭いいわ」

 役に立ちたいと泣く精霊に仕事を与え、報告もきちんと行う。後で精霊のいる場所を目印に転移すれば、完璧じゃない! くるくると回りステップを踏みながら、魔王軍の精鋭達に近づく。空軍の指揮官であるドラゴンに歩み寄ると、にっこりと笑った。

 なぜか数歩下がられる。別にとって食べたりしないわよ。夫がいるのに若い男にうつつを抜かす浮気性でもないのに、失礼ね。少し気分を害しながらも、手早く要点を報告していく。それから最後に付け加えた。

「ヤンを追うわ。魔王城への報告は最優先でお願いね」

 ひらひらとスカートの裾を揺らしながら、魅惑の生足披露の大公ベルゼビュートを見送り、若いドラゴンのオス達は前かがみになった。うっかり近づいて誘われでもしたら、間違いなく死が待っている。あの魔獣が人化した夫は嫉妬深いし、女大公ベルゼビュート閣下も苛烈な性格だった。

 だが魅力的なメスが際どい恰好でうろうろしていれば、魔力を使った後で高ぶる彼らにとって垂涎のご馳走だ。手を出せば死ぬ。分かっていても食らいつきたくなる。たゆんたゆんと弾む胸元は際どく悩ましい。晒された太腿はもちろん、背中や縊れた腰のラインが揺れるたびに反応した。

 ドラゴンもそうだが、生き物は極度の緊張や生命の危機に瀕すると性的欲求が高まる。そのため、戦いなどで大量の魔力を消費すると、子孫を残そうとする本能が暴走することがあった。今回の任務に危険はほぼないが、魔力を大量に消費している。前かがみになった理由はそこにあった。

 やがて立ち直ったのは、彼らの中でも既婚者で愛妻家として有名なドラゴンだ。まだ若いが、妻への愛で何とか危険を脱した濃灰色ドラゴンは転移魔法陣へ飛び込んだ。報告ならば迅速さが要求される。以前と違い、魔法陣がある場所では活用するのが新ルールだった。

「ふぅ、危なかったな」

「大公様の気分を害したかもしれんが、襲うよりマシだろ」

「魔王陛下から注意してもらわないと……」

「「「今後もあれだと困る」」」

 現場作業員としての本音がハモり、溜め息に押しつぶされた。その後、報告に飛んだ濃灰色のドラゴンはしばらくの間、ドラゴン達の間で「英雄」扱いになったのは余談である。
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