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第13章 海は新たな楽園か
217.騒動はさらに別の展開を見せる
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サタナキア将軍は娘イポスや婿ストラスを伴い、軍の指揮に入っている。非常招集を掛けられた貴族の中には、軍に籍を残している者も少なくなかった。今回のように招集があれば、駆け付ける非常勤魔王軍はサタナキア将軍の前に整列している。
子どもの試験は中止になったシトリーは、同じように試験に参加した親子を纏めて領地に帰る手筈を整えていた。中には両親が迎えに来るまで、預かる子もいる。魔王城の客間を利用し、一時的に子どもの保護施設を作るらしい。海水から逃げた魔獣の子や迷子になった子も集められた。
レライエは夫アムドゥスキアスを袋に詰め込み、婚約者時代のようにバッグごと集合した。今はシトリーを手伝っている。よく見ればバッグが大きく膨らんでおり、ゴルティーの金色の鱗も覗いた。どうやら一緒に詰め込まれたらしい。母は強かった。
温泉に出掛けた日本人達は遅れているが、シトリーの夫グシオンが迎えに行ったようだ。ルーサルカも同行するので、これで大公女は全員揃うことになる。久しぶりの祭り、その後の休暇が台無しだった。
「ルーシアの具合は?」
「現在安定しています。大量の魔力放出による頭痛と吐き気、体温の低下が見られたため補いました」
きびきびと答えるのは、吸血種の侍女だ。アデーレの部下にあたる彼女らは動き回り、集まった人々の誘導や対応に当たっていた。精霊族が集まる一角では、ルーシアが柔らかなクッションを抱いて横たわる。精霊の属性に関係なく、馴染のある魔力を変換して送り続けた。
輪になった彼らは手を繋ぎ、目を閉じて祈りの言葉を紡ぐ。精霊族は儚い雰囲気の外見を持つことが多く、幻想的な光景に他の魔族も足を止めて見入った。夫ジンを通して流れ込む魔力を受け取るルーシアの頬は赤く染まり始め、体温もだいぶ回復したようだ。
近づいて、膝を突いたルシファーは「助かった、我が民を守ってくれたルーシアに感謝を捧げる」と声をかけた。うっすら目を開けた彼女だが、まだ本調子には遠い。嬉しそうに頬を緩めたが、また眠ってしまった。
「大公女ルーシアの功績は後日表彰する。同時にベルゼビュート、並びに魔の森への魔力供給に駆け付けた魔王軍と神龍族を称える。皆の協力で、被害は最小限に食い止められた」
事態が一段落したと宣言する魔王の言葉に、わっと場が沸き立つ。このままでは再び「戦勝祝い」と称して宴会にもつれ込みそうだった。ルシファーはさらに言葉を続ける。風の魔法を使い、声を響かせた。
「別件になるが、海から歌声が聞こえた者がいれば名乗り出て欲しい」
きょとんとした顔の者も多いが、数人ははっとした表情を浮かべる。心当たりがあるなら早い。複数の魔族から聴取すれば早いだろう。情報集めの算段が立ったと喜んだルシファーの後ろから、のそりと牛サイズの狼が近づいた。
「魔王様、大変なのです」
フェンリルだが、当代のセーレより明らかに小さい。灰色魔狼と呼ばれるだけあり、綺麗なライトグレーの毛並みは艶があった。ヤンの小型版だが、右の耳の先が少し欠けている。
「ヤンの孫か」
「はい! あの、祖父が……妙なことを言っていたので」
恐る恐る切り出す彼は、まだ無名の狼だ。この後セーレを継承するので、勝手に名付けるわけにもいかず、ひとまず「フェン」と呼ぶことになった。フェンリルを省略した名称で、あくまでも名前ではない。本人はそれでも嬉しそうだった。
「ヤンが何を言った?」
「柔らかな雌の歌声がする、でも狼ではない。別の種族だと……その声を確かめると走って行ったんです」
「方角は?」
「あっちです」
フェンが鼻で示す先、それは彼らの領地である魔の森がある方角だ。しかしそこを抜けるとミヒャール湖の脇を抜けて海へ到達する。ぼんやりした様子のルキフェルを思い出し、ルシファーは娘を抱くリリスを振り返った。
「ヤンを連れて戻って」
「分かっている。少しの間、頼むぞ」
牛サイズのフェンリルごと転移魔法陣で包み、中庭から転移した。
子どもの試験は中止になったシトリーは、同じように試験に参加した親子を纏めて領地に帰る手筈を整えていた。中には両親が迎えに来るまで、預かる子もいる。魔王城の客間を利用し、一時的に子どもの保護施設を作るらしい。海水から逃げた魔獣の子や迷子になった子も集められた。
レライエは夫アムドゥスキアスを袋に詰め込み、婚約者時代のようにバッグごと集合した。今はシトリーを手伝っている。よく見ればバッグが大きく膨らんでおり、ゴルティーの金色の鱗も覗いた。どうやら一緒に詰め込まれたらしい。母は強かった。
温泉に出掛けた日本人達は遅れているが、シトリーの夫グシオンが迎えに行ったようだ。ルーサルカも同行するので、これで大公女は全員揃うことになる。久しぶりの祭り、その後の休暇が台無しだった。
「ルーシアの具合は?」
「現在安定しています。大量の魔力放出による頭痛と吐き気、体温の低下が見られたため補いました」
きびきびと答えるのは、吸血種の侍女だ。アデーレの部下にあたる彼女らは動き回り、集まった人々の誘導や対応に当たっていた。精霊族が集まる一角では、ルーシアが柔らかなクッションを抱いて横たわる。精霊の属性に関係なく、馴染のある魔力を変換して送り続けた。
輪になった彼らは手を繋ぎ、目を閉じて祈りの言葉を紡ぐ。精霊族は儚い雰囲気の外見を持つことが多く、幻想的な光景に他の魔族も足を止めて見入った。夫ジンを通して流れ込む魔力を受け取るルーシアの頬は赤く染まり始め、体温もだいぶ回復したようだ。
近づいて、膝を突いたルシファーは「助かった、我が民を守ってくれたルーシアに感謝を捧げる」と声をかけた。うっすら目を開けた彼女だが、まだ本調子には遠い。嬉しそうに頬を緩めたが、また眠ってしまった。
「大公女ルーシアの功績は後日表彰する。同時にベルゼビュート、並びに魔の森への魔力供給に駆け付けた魔王軍と神龍族を称える。皆の協力で、被害は最小限に食い止められた」
事態が一段落したと宣言する魔王の言葉に、わっと場が沸き立つ。このままでは再び「戦勝祝い」と称して宴会にもつれ込みそうだった。ルシファーはさらに言葉を続ける。風の魔法を使い、声を響かせた。
「別件になるが、海から歌声が聞こえた者がいれば名乗り出て欲しい」
きょとんとした顔の者も多いが、数人ははっとした表情を浮かべる。心当たりがあるなら早い。複数の魔族から聴取すれば早いだろう。情報集めの算段が立ったと喜んだルシファーの後ろから、のそりと牛サイズの狼が近づいた。
「魔王様、大変なのです」
フェンリルだが、当代のセーレより明らかに小さい。灰色魔狼と呼ばれるだけあり、綺麗なライトグレーの毛並みは艶があった。ヤンの小型版だが、右の耳の先が少し欠けている。
「ヤンの孫か」
「はい! あの、祖父が……妙なことを言っていたので」
恐る恐る切り出す彼は、まだ無名の狼だ。この後セーレを継承するので、勝手に名付けるわけにもいかず、ひとまず「フェン」と呼ぶことになった。フェンリルを省略した名称で、あくまでも名前ではない。本人はそれでも嬉しそうだった。
「ヤンが何を言った?」
「柔らかな雌の歌声がする、でも狼ではない。別の種族だと……その声を確かめると走って行ったんです」
「方角は?」
「あっちです」
フェンが鼻で示す先、それは彼らの領地である魔の森がある方角だ。しかしそこを抜けるとミヒャール湖の脇を抜けて海へ到達する。ぼんやりした様子のルキフェルを思い出し、ルシファーは娘を抱くリリスを振り返った。
「ヤンを連れて戻って」
「分かっている。少しの間、頼むぞ」
牛サイズのフェンリルごと転移魔法陣で包み、中庭から転移した。
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