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第13章 海は新たな楽園か

209.ルシファー、大事な用があるの

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 海に関しては捕らえた海王から聴取が終わるまで、下手に関わらないこととなった。当然、途中までこなした視察も一時中止となる。尋問と言う名の拷問もどきが終わるのは、数ヵ月先らしい。危険なので詳細を聞かずに頷いたルシファーは、手元の二枚貝を差し出された皿に載せる。

「あーん」

 隣で一緒に焼くリリスが、焼いたばかりの貝をトングで摘まんで差し出した。トングごと咥えるわけに行かず、苦戦しながら下に回り込んで受け取る。じゅっと舌が熱かったが、その辺は結界で包んで事なきを得る。魔王がBBQや浜焼きで火傷しようものなら、大公達に今後の開催を止められる可能性があった。

 ここでのケガは、今後の統治に関わる重要な案件なのだ。まあ、火傷しても言わずに治癒すれば済むことなのだが。ルシファーは変なところで生真面目だった。

「美味しい?」

「最高だ」

 どんなゲテモノでも、妻リリスが差し出すなら美味しく食べる自信がある。もちろん言葉にはせず、短く感謝を伝えた。イザヤが伝えたタスキ掛けでイヴを背負い、隣の妻といちゃつきながら貝を焼く魔王を一目見ようと、大行列が出来る。

「さっすが魔王様だ」

「ああ言えば失敗がないのか」

 よく妻に余計な一言を足してしまい殴られるドワーフ達は、魔王城執務室の修理が終わったこともあり酒を呷る。それどころか樽に顔を突っ込む勢いで飲みまくった。その酔っ払いが千鳥足で会場に騒動を起こしていく。

 よろけて倒れた拍子に他人の妻の膝に手を突いてしまい、殴られて転がる者。酔った勢いで妻に説教しようとして、逆に言い負かされて撃沈した者。そんなドワーフの醜態は毎度のこと、他の魔族にとってお祭りのスパイスだった。

「楽しんでいるようでよかった」

「私達は死にかけたんだけどね」

「オレがリリスを守り切れないわけがないだろう」

 あんなひどい目に遭ったのに、周囲が浮かれてるのは納得できない。そんな表情でぼやく可愛い妻を、微笑んで口説く美形の夫。それを見て盛り上がる周囲の魔族たち。カオスな状況だが、ルシファーの手はくるりと貝をひっくり返していく。

 リリスも手慣れた様子で、味付け用の醤油もどきを垂らした。香ばしい焼き醤油が漂うたび、行列が長くなる。浜焼きの貝を担当する大公を増やすべきか。迷うルシファーの隣で、新たな鉄板焼きが始まった。

「ベール、こっちも醤油」

 なぜか張り合うルキフェルの指示で、器用に麺が炒められていく。焼きそばの作り方を聞いたルキフェルは、水色の髪に鉢巻きをしていた。これも日本人から伝えられた文化だ。汗が垂れないようにする意味もあるが、体温調整や結界で涼む魔族には関係ない。

 涼しい顔で焼きそばを作る竜王の隣で、幻獣霊王も慣れた所作で唐揚げを作り始めた。定期的に駆除されるコカトリスの唐揚げに、リリスの目が輝く。

「ルシファー、大事な用があるの。ここをお願い」

「ん? ああ」

 引き受けたルシファーが手元を見ず器用に貝を焼く間に、リリスは唐揚げの列に並ぶ。大事な用事って、唐揚げの確保か? 首を傾げるルシファーは、目の前で顔を赤らめる獣人の少女の皿に貝を載せた。よそ見していたことも手伝い、山盛りに重ねていく。

「ちょ……魔王様ったら」

「すごいわね」

「なんか特別扱いみたいで嬉しい」

 きゃっきゃとはしゃぐ彼女達が去ると、次の男性の分が足りなくなった。急いで新しい貝を並べながら、ルシファーの視線はまだリリスに釘付けだ。

「魔王様、焼けましたぜ」

「あ、おう。醤油をかけるから待て」

 きっちり仕事をこなしているため、周囲も呆れながら注意することはなく……唐揚げをGETしたリリスはスキップで戻り、夫の口に熱々唐揚げを詰め込んだ。ちなみにスキップ中に落ちた唐揚げは、通りがかったヤンの孫が拾い食いしたらしい。
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