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第12章 次世代は逞しい
190. 執務室&アスタロト消失事件
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跡形も無くなった執務室の前で、空中を踏み締めながらルシファーは首を傾げた。さきほど同じ階の私室で最愛の妻子と寛いでいたところ、魔力が暴発したような衝撃を受ける。慌てて駆けつけてみたら、廊下の先が無くなっていた。
ぱっくり空いた穴を覗くと、階下の部屋は天井まで持って行かれたらしい。やや斜めになった切り口に気づき、上昇して確認したところ……執務室を中心に球体状に消失した模様だ。というか、意味がわからない。
「陛下、何があったのですか」
「ルシファー。めちゃくちゃ衝撃きた」
離れた研究棟にいたベールとルキフェルが駆けつけ、少しすると中庭も騒がしくなった。異変を察知したベルゼビュートが戻ったようだ。羽を広げて飛んだ彼女は、手を口に当てて「あらぁ」と声を上げた。
「何があったか、知っている者は?」
ひとまず情報収集から始めよう。そんなルシファーの呼びかけに、意外な人物が手を上げた。
「見ていました」
人狼のゲーテだ。息子のアミーと手を繋いでいるが、よく見れば彼らは震えていた。
最上階の階段付近にいた二人は、一部始終を目撃したらしい。改めて話を聞くと、予想通りの展開から予想外の事件に発展した様子が判明した。
ゲーテは爪を提供する際、透明の壁を作る過程を見せて欲しいと口にしている。そのため呼びに来たドワーフの親方について、素直にこの階まで上がった。そこでアスタロトと遭遇する。
書類を手にしたアスタロトが「夜間の工事は禁じられています」とルールを盾に入室を拒否。親方は「急がねえと仕事にならねぇだろ。それに仕事が終わらねえと母ちゃんに怒られちまう」と反撃。ドワーフの妻の恐ろしさはよく知っているが、ルールは曲げられないと抵抗した。
揉めている間に、他のドワーフ達が準備を始め、材料を混ぜてしまう。これを理由に、壁作りを強行する予定だった。ところが、興味を持って覗き込んだアミーの毛が、ぼそっと抜けて落ちる。生え変わりの時期なので故意ではなかった。
その直後、混ざった材料から強烈な光と魔力を感じ、ドワーフ数人が飛び退る。だが光に飲まれた数人が行方不明になった。
「断じて爆発じゃねえだ!」
「そうだ、おら達は失敗してねえ!」
ドワーフ達の言い分によれば、爆発する材料はひとつもない。混ぜた後の変化を待って、透明の壁を作り上げる予定だった。危険な作業じゃないし、2時間もあれば終わる簡単な作業と主張する。だが、実際のところ……爆発はしていないが、丸く消失したのは現実だった。
「ルキフェル、追えそうか?」
「うーん。嫌な感じがする。どこへ飛んだんだろう」
先ほどから話を聞きながら分析していたルキフェルは、首をかしげた。この場から離れろと警告する本能、同時に転移らしき形跡も残っている。どこかへ飛ばされただけなら、すぐに戻ってくるはず。
「あのアスタロトが一緒で、帰ってこれない場所なんてある?」
「この世界で、心当たりはありません」
ベールは慎重に返した。その意味は、異世界に飛ばされたなら戻れないかも知れないと匂わせている。この世界なら、たとえ火口の底でも、海溝の奥深くだろうが戻って来ると疑わなかった。
「また異世界か? 最近繋がりすぎ……ん? どうした、リリス」
「アシュタなら、そこにいるじゃない」
ぱちくりと瞬きしたリリスは空中を指差す。消えてしまった透明の球体の中央付近を指差した。
「他に誰かいるか」
「えっと、ドワーフの親方は分かるわ。それ以外に3人くらい巻き込まれてる」
初めて見る人の魔力の色は誰か分からない。リリスはそう締めくくった。どうやら、異世界より厄介な状況らしい。ルシファーは困惑した表情で、空白になった元執務室跡を眺めた。
ぱっくり空いた穴を覗くと、階下の部屋は天井まで持って行かれたらしい。やや斜めになった切り口に気づき、上昇して確認したところ……執務室を中心に球体状に消失した模様だ。というか、意味がわからない。
「陛下、何があったのですか」
「ルシファー。めちゃくちゃ衝撃きた」
離れた研究棟にいたベールとルキフェルが駆けつけ、少しすると中庭も騒がしくなった。異変を察知したベルゼビュートが戻ったようだ。羽を広げて飛んだ彼女は、手を口に当てて「あらぁ」と声を上げた。
「何があったか、知っている者は?」
ひとまず情報収集から始めよう。そんなルシファーの呼びかけに、意外な人物が手を上げた。
「見ていました」
人狼のゲーテだ。息子のアミーと手を繋いでいるが、よく見れば彼らは震えていた。
最上階の階段付近にいた二人は、一部始終を目撃したらしい。改めて話を聞くと、予想通りの展開から予想外の事件に発展した様子が判明した。
ゲーテは爪を提供する際、透明の壁を作る過程を見せて欲しいと口にしている。そのため呼びに来たドワーフの親方について、素直にこの階まで上がった。そこでアスタロトと遭遇する。
書類を手にしたアスタロトが「夜間の工事は禁じられています」とルールを盾に入室を拒否。親方は「急がねえと仕事にならねぇだろ。それに仕事が終わらねえと母ちゃんに怒られちまう」と反撃。ドワーフの妻の恐ろしさはよく知っているが、ルールは曲げられないと抵抗した。
揉めている間に、他のドワーフ達が準備を始め、材料を混ぜてしまう。これを理由に、壁作りを強行する予定だった。ところが、興味を持って覗き込んだアミーの毛が、ぼそっと抜けて落ちる。生え変わりの時期なので故意ではなかった。
その直後、混ざった材料から強烈な光と魔力を感じ、ドワーフ数人が飛び退る。だが光に飲まれた数人が行方不明になった。
「断じて爆発じゃねえだ!」
「そうだ、おら達は失敗してねえ!」
ドワーフ達の言い分によれば、爆発する材料はひとつもない。混ぜた後の変化を待って、透明の壁を作り上げる予定だった。危険な作業じゃないし、2時間もあれば終わる簡単な作業と主張する。だが、実際のところ……爆発はしていないが、丸く消失したのは現実だった。
「ルキフェル、追えそうか?」
「うーん。嫌な感じがする。どこへ飛んだんだろう」
先ほどから話を聞きながら分析していたルキフェルは、首をかしげた。この場から離れろと警告する本能、同時に転移らしき形跡も残っている。どこかへ飛ばされただけなら、すぐに戻ってくるはず。
「あのアスタロトが一緒で、帰ってこれない場所なんてある?」
「この世界で、心当たりはありません」
ベールは慎重に返した。その意味は、異世界に飛ばされたなら戻れないかも知れないと匂わせている。この世界なら、たとえ火口の底でも、海溝の奥深くだろうが戻って来ると疑わなかった。
「また異世界か? 最近繋がりすぎ……ん? どうした、リリス」
「アシュタなら、そこにいるじゃない」
ぱちくりと瞬きしたリリスは空中を指差す。消えてしまった透明の球体の中央付近を指差した。
「他に誰かいるか」
「えっと、ドワーフの親方は分かるわ。それ以外に3人くらい巻き込まれてる」
初めて見る人の魔力の色は誰か分からない。リリスはそう締めくくった。どうやら、異世界より厄介な状況らしい。ルシファーは困惑した表情で、空白になった元執務室跡を眺めた。
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