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第11章 いい度胸じゃないか!
178.海王を兼任してもらいます
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「というわけで、賠償の土地は確保しました。ルシファー様が海王を兼任なさることで、海岸どころか海全域が支配下に入りますね。おめでとうございます。貝が取り放題ですよ」
「……え? あ、なんで?」
報告されたルシファーが驚きで固まる。執務室には、当事者二人しかいなかった。ツッコミもボケも不在の部屋に沈黙が落ちる。沈黙が重く積み重なって崩れる頃、ルシファーがぎこちなく動いた。
「海王? 兼任ってどうして……」
「海は最強の者が王を務める習慣がないそうです。今回の戦いで全面降伏を申し出て傘下に入るなら、陸のやり方を受け入れてもらうと宣言しました。その結果、我々の統治方法を踏襲すると決まりました。ならば我々のルールに従い、最強の魔王が海王になる――何か間違ってますか?」
用意されていた答えを淡々と叩きつけられ、ぱくぱくと口を動かしたものの反論できずにルシファーが撃沈した。全面降伏したからこちらのやり方を踏襲する。そこまでは問題ない。陸の経営や運営だけでなく、魔王の決め方まで踏襲してしまった。ここだけ違う方式を使うのもバランスが悪い。
ルシファー達の統治が上手に回っている理由のひとつが、最強の魔王というシステムにあるからだ。気に入らなければ意見できる上、下剋上も可能だった。強ければ己の意見を通せる。だが強者は弱者を守る義務があるので、弱者が無視されることもない。
強者が好き勝手して、弱者を踏み潰さないための仕組みだった。長い年月をかけて組み上げたシステムなので、当然ながら穴を発見するたびに塞いできた。8万年という長き月日を経て、ほぼ完成形なのだ。その方法を踏襲するなら、そっくり導入しなくては効果が出ないのも当然だろう。
「間違ってないが、オレは海王になりたくないと……」
「おや? あの場でそのような発言はありませんでしたよ。顔はしかめておられましたが、何か心配事があったのでしょうね」
心情を理解していて曲解したと明言する部下に、大きく息を吸って全力で吐きだした。内臓まで飛び出すかと思うほど盛大な溜め息に、諦めや己の未熟さへの呪いが滲んでいる。
「つまり、オレが悪かったと言いたいんだな?」
「いえいえ。ルシファー様に外交交渉をお任せするのは、少し不安になる程度ですよ」
悪くないが、甘い。言い切ったアスタロトに勝てる気がしなかった。だが海王まで兼任したら絶対に仕事が増えるだろう。これから可愛いイヴが話し始め、歩いて転び、目が離せない年齢に差し掛かる。見逃すわけに行かないのだ。通常、こういった成長イベントは一生一度なのだから。
「忙しくなるから無理だ」
はっきりきっぱり、聞き間違いがないよう断った。毅然としたルシファーの拒絶に、これまた予想していたアスタロトが優雅に一礼した。
「承知いたしました。では、名誉職として海王を兼任していただき、海のことは海の者に委任してはいかがでしょう」
何か裏がないか探るように返事をしないルシファーへ、次々と案を提示した。海の住人にテストを行い、優秀な者を選んで文官と武官を採用する。その上で代理人を海の住人から選べばいい。支配される反発も少なく、また有能な人材は利用できる方法だった。さらに責任を向こうに丸投げできる。
じっくり案を検討してから、ルシファーは頷いた。
「それでいい、任せる。が……くれぐれも余計なことはするなよ」
「分かっています。私はルシファー様の忠実な配下を自認しておりますので」
自認しているが、好き勝手に動くのは別らしい。やられたと思うが、これもまた一つの経験だった。諦めて受け入れるしかないだろう。唯一の救いは、名誉職扱いになり実務がないことか。
「オレは最高権力者のはずなんだが」
「権力には義務が生じるものですから」
仕方ありません。そう笑ったアスタロトに、肩を竦めるだけで賛否を避けた。
「……え? あ、なんで?」
報告されたルシファーが驚きで固まる。執務室には、当事者二人しかいなかった。ツッコミもボケも不在の部屋に沈黙が落ちる。沈黙が重く積み重なって崩れる頃、ルシファーがぎこちなく動いた。
「海王? 兼任ってどうして……」
「海は最強の者が王を務める習慣がないそうです。今回の戦いで全面降伏を申し出て傘下に入るなら、陸のやり方を受け入れてもらうと宣言しました。その結果、我々の統治方法を踏襲すると決まりました。ならば我々のルールに従い、最強の魔王が海王になる――何か間違ってますか?」
用意されていた答えを淡々と叩きつけられ、ぱくぱくと口を動かしたものの反論できずにルシファーが撃沈した。全面降伏したからこちらのやり方を踏襲する。そこまでは問題ない。陸の経営や運営だけでなく、魔王の決め方まで踏襲してしまった。ここだけ違う方式を使うのもバランスが悪い。
ルシファー達の統治が上手に回っている理由のひとつが、最強の魔王というシステムにあるからだ。気に入らなければ意見できる上、下剋上も可能だった。強ければ己の意見を通せる。だが強者は弱者を守る義務があるので、弱者が無視されることもない。
強者が好き勝手して、弱者を踏み潰さないための仕組みだった。長い年月をかけて組み上げたシステムなので、当然ながら穴を発見するたびに塞いできた。8万年という長き月日を経て、ほぼ完成形なのだ。その方法を踏襲するなら、そっくり導入しなくては効果が出ないのも当然だろう。
「間違ってないが、オレは海王になりたくないと……」
「おや? あの場でそのような発言はありませんでしたよ。顔はしかめておられましたが、何か心配事があったのでしょうね」
心情を理解していて曲解したと明言する部下に、大きく息を吸って全力で吐きだした。内臓まで飛び出すかと思うほど盛大な溜め息に、諦めや己の未熟さへの呪いが滲んでいる。
「つまり、オレが悪かったと言いたいんだな?」
「いえいえ。ルシファー様に外交交渉をお任せするのは、少し不安になる程度ですよ」
悪くないが、甘い。言い切ったアスタロトに勝てる気がしなかった。だが海王まで兼任したら絶対に仕事が増えるだろう。これから可愛いイヴが話し始め、歩いて転び、目が離せない年齢に差し掛かる。見逃すわけに行かないのだ。通常、こういった成長イベントは一生一度なのだから。
「忙しくなるから無理だ」
はっきりきっぱり、聞き間違いがないよう断った。毅然としたルシファーの拒絶に、これまた予想していたアスタロトが優雅に一礼した。
「承知いたしました。では、名誉職として海王を兼任していただき、海のことは海の者に委任してはいかがでしょう」
何か裏がないか探るように返事をしないルシファーへ、次々と案を提示した。海の住人にテストを行い、優秀な者を選んで文官と武官を採用する。その上で代理人を海の住人から選べばいい。支配される反発も少なく、また有能な人材は利用できる方法だった。さらに責任を向こうに丸投げできる。
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「それでいい、任せる。が……くれぐれも余計なことはするなよ」
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