上 下
178 / 530
第11章 いい度胸じゃないか!

176.騒動の補償に海岸が欲しい

しおりを挟む
 リリスと大公女達に浜焼きを提供し、ヤンも含めた城の住人にも振る舞う。当然途中で貝が足りなくなった。ここで魔王ルシファーの能力が役立つ。

 転移魔法を海へ放り込み、海水から貝を特定して回収した。魔法による遠距離投網作戦である。ベールは苦笑いしながら目を瞑ってくれた。見なかったことにされた作戦により、大量の貝が浜焼き用に並ぶ。いつの間にか乱入した城下町の住人数名により、浜焼き大会の企画要望書が提出されるのは、数日後のことだった。

「美味しいわ、ルシファー」

「本当です。塩味だけなのに……新鮮だからかしら」

 リリスの褒め言葉に浮かれるルシファーの脇で、ベルゼビュートもちゃっかり利益を享受した。息子ジルを抱えて、ひょいぱくと口に放り込んでいく。

「ああ、ベルゼ。ちょうど良かった! 頼みがあるんだが」

「はへへほへんは」

 食べてませんわ、と言い訳する間に詰め寄られた。

「別に食べたことを咎めたりしないぞ。アスタロト達が帰ってくる前に書類処理をするから、この場を任せたいんだ」

 よく見れば幼子も走り回り、浜焼きは大盛況だった。ケガ人が出ないよう見張り、危険があれば遠ざける。ついでにケガした子が出たら、治療してやってくれ。そこまで言いつけると、ルシファーは一人で執務室へ戻った。

「あの陛下が? 珍しいことです」

 驚いたベールが追いかけると、何やら書類の作成を始めていた。手伝おうと近づけば、海岸周辺の土地を海から取り上げる申請書類を書いている。今回の戦いに巻き込まれた海からの賠償金という名目だった。

「陛下、これを提出なさる気ですか?」

「そうだ。いい案だと思わないか?」

 作ったばかりの書類を、いい笑顔で突きつける主君に……ベールは静かに頷いた。この主君にして、この部下あり。浜焼きも好評な上、砂浜遊びも可能になる。民の娯楽が増えるとあれば、魔王の求心力も上がるだろう。頭の中で酷い計算を行うベールに、海の住人への配慮はなかった。

 魔王城の破壊行為はもちろん、さまざまな被害を被った。魔王と大公の入れ替わりから、イヴ姫の拉致、挙句に戦力差を見誤っての先制攻撃。宣戦布告という最低限の礼儀すら怠った輩に、同情の余地はない。ここはルシファーもベールも一致した意見だった。

「よしっ、じゃあ次の会議で決議しよう」

 にこにこと機嫌が良くなったルシファーは、目の前に積まれた書類に手を伸ばす。補佐役のアスタロトが不在なので、代わりにベールが書類の大まかな内容を読み上げた。頷きながら意見をいくつか足して署名押印する。繰り返される作業は日が暮れるまで続き、あっさりと終わった。

「これで終わり? 今日は少なかったな」

 普段の6割ほど積まれていた書類を、さっさと分類する。魔法が使えず手作業なのだが、慣れた作業はすぐ片付いた。

「ルシファー、イヴがぐずるの」

 リリスが困り顔で入ってくる。当然ノックなどない。後ろでルーサルカが苦笑いした。止める間もなく駆け込んだリリスは、のけぞって泣く我が子をルシファーに抱かせる。執務机から立ち上がったルシファーは、左腕に抱いてあやし始めた。

「リリス、イヴは預かるから浜焼きしていていいぞ」

「いいわ。私はもう食べたもの」

 ルーサルカに戻ってもいいと伝えたリリスは、応接用のソファに腰掛けた。徐々に重くなる娘を抱く腕を解しながら、一礼して出ていくベールを見送った。

「イヴを連れ去ったアシュタっぽい人、わかった?」

「今、アスタロトが調べてる」

「それなら安心ね」

 必ず成果を持ち帰ってくれるわ。リリスの微笑みに、ルシファーも同意した。問題は、聞き出される相手が無事かどうか。今回はそこを無視した二人は、泣き止んだイヴを連れて自室へと戻った。

 翌朝、報告に出向いたアスタロトがやや照れた様子で、ルシファーの私室の前に立っていた。彼の姿を見た侍女達の噂では、魔王夫妻がいちゃついていたので入り損ねたのではないか……と。当然ながら、真偽のほどは定かではない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生してスローライフ?そんなもの絶対にしたくありません!

シンさん
ファンタジー
婚約を破棄して、自由気ままにスローライフをしたいなんて絶対にあり得ない。 悪役令嬢に転生した超貧乏な前世をおくっいた泰子は、贅沢三昧でくらせるならバッドエンドも受け入れると誓う。 だって、何にも出来ない侯爵令嬢が、スローライフとか普通に無理でしょ。 ちょっと人生なめてるよね。 田舎暮らしが簡単で幸せだとでもおもっているのかしら。 そのおめでたい考えが、破滅を生むのよ! 虐げられてきた女の子が、小説の残虐非道な侯爵令嬢に転生して始まるズッコケライフ。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!  コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定! ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。 魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。 そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。 一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった! これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...