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第11章 いい度胸じゃないか!

175.尋問の師弟関係

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 ルキフェルの強者探検は後日に回された。というより、ルシファーの必死の説得に折れる形だ。代わりに、アスタロトと共同で海王の尋問に勤しむこととなった。本人達が「尋問」と表現するなら、きっと尋問で正しいはず。「拷問」だったりしなければいいが。

 心配はするものの、我が身可愛さに敵を見捨てる魔王である。陸にケンカを売ったし、魔王城を爆破されたり、愛娘を攫われたりと踏んだり蹴ったりだった。庇い立てする義理は感じない。

「リリス、今帰るからな」

 副音声で「浜焼きの材料を連れて」が重なって聞こえるが、気のせい。なぜなら、この場に集まる魔王軍の大半がポケットをぱんぱんに膨らませていた。中にはドラゴンになって、口いっぱいに詰めて運ぼうと画策する者までいる始末だ。

「先に戻るぞ」

「はい、ルシファー様は浜焼きが終わったら書類処理をお願いしますね」

 珍しく上機嫌で譲歩するアスタロト。戻り次第の書類処理を言いつけられなかったことで、ルシファーも鷹揚に頷いた。

「任せろ」

 巨大な転移魔法陣を作り始めるルシファーに便乗するため、サタナキア将軍率いる魔王軍の半数が慌てて駆け寄った。残るメンバーは辺境勤務がまだ残っているらしい。今後、彼らが持ち帰る浜焼きが人気となれば、潮干狩りも始まるだろう。海岸ののどかで平和な光景は目の前だった。

 ルシファー達が消えるのを見送り、吸血鬼王はにやりと笑った。震えあがるようなアスタロトの表情を見て、ルキフェルもにこにこと笑顔を振り撒く。こちらは天真爛漫に思えるが、人畜無害ではない。瑠璃竜王の名を冠する最強ドラゴンは、尋問に張り切っていた。

 可愛い妹分のリリスを泣かせ、大切な主君の娘であるイヴを奪った。それもアスタロトによく似た何かを使って。アスタロトを偽装した方法も調べたいし、目の前の巨大イカも解体してみたかった。ついでに、イヴ姫を脅かした理由を聞き出して制裁を加えたい。

「ルキフェル、いいですか? 一度に殺ってはいけませんよ。こういう輩はぺろりと喋ります。情報を小出しにさせる技術を教えておきましょう」

 一度にすべて話されたら、その後の尋問が出来ない。もちろん表面上「尋問」と言う言葉を使うが、実際は拷問であり処刑でもあった。最後まできっちり処断するために、情報を小出しに吐かせるのも技術なのだ。こういった面はアスタロト一強だった。

 ルシファーは苦しめる手法を好まず、ベールも割とあっさりしている。ここでルキフェルは己の性癖を理解する、最高にして最悪の教師を手に入れた。今後の敵を含め、非常に迷惑な師弟関係が生まれた瞬間だ。

「生き物は何でもそうですが、末端が一番敏感に出来ています。そのため指先などを痛めつける者がいますが……正直、素人の域を出ません。効果が出る場所を責めたら、すぐに落ちてしまうではないですか」

「なるほど。僕はその点がダメなんだね」

「飲み込みが早いと助かります」

 海の生き物が震えあがる中、巨大イカ海王は気絶を装いながら後退を試みた。海の中に逃げ込めば、あとは泳いで海底へ。そんな思惑をアスタロトが見逃すはずもない。

「まず、逃げ道を奪います。逃走手段でもいいですね」

 指先に魔法陣をひとつ呼び出し、海王を包んだ。空中に浮かせた形で固定される。いわゆる磔の状態だった。

「このまま日干しにするのも一つですが、もう少し迅速に行うとしましょう。ルシファー様の書類処理が心配ですので」

 書類処理が明日に回るのも心配だが、浜焼きを許した手前、彼がリリスに振舞う時間も必要だ。いろいろと試算した結果、吊るした状態での処置となった。海の住人達は海水柱が解けた時点で逃げ出し、魔王軍の精鋭達も仕事に行くと言い残して消える。

 残された二人は、海王相手に楽しんだ……らしい。
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