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第11章 いい度胸じゃないか!

164.圧倒的火力で焼き払え!

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 炎を操る赤いドラゴンだけでなく、水や風を操るドラゴンも巻き込まれた。その様子にルキフェルの表情が強張り、直後にたりと笑う。普段は好青年として振舞う姿が、一気に黒い印象を帯びた。

「僕の部下に何するのさ!」

 前に突き出した手のひらから飛ばした棘が、海中にいる生物を傷つける。ぶわっと海面を汚した血は赤ではなかった。紫に近い青が入った血が海面を汚す。

「ぷはっ、助かった」

「あ、ルキフェル様、ありがとうございます」

 自分達でも抵抗したのだろう。無理やり吸盤を引き剥がし、傷ついた鱗を気にするドラゴンが浮かぶ。周囲に他のドラゴンも顔を見せた。誰も欠けはない。ドラゴンには刺さらない強度の棘を飛ばしたルキフェルのおかげで、新しく増えた傷もなかった。

 ドラゴンの鱗を貫く強度は知っている。海洋生物は貝や亀でなければ柔らかいことが多く、魚の鱗もドラゴンよりはるかに脆かった。そのため強度を調整した攻撃なら、敵だけを傷つけることが可能だ。

「早く上がって。また来るよ」

 まだ完全に制圧していない。そう告げたルキフェルに、慌ててドラゴン達が空に舞い上がった。伸びてきた触手を、ベールが放つ魔法で弾く。すぱんと触手を切った後、綺麗に焼き払った。

「ルキフェル、焼き払うなら協力しますが」

 海という巨大な水たまりであっても、一部だけなら突破できる。周囲を囲って水を蒸発させればいいのだ。その作戦でいこうと決めた二人は頷きあい、すぐに役割分担した。鳳凰の能力を持つ幻獣霊王ベールの姿が高温の陽炎で揺らぐ。

「炎が使える者は援護して」

 ベルゼビュートがふわりと空中を駆けた。蠢く触手に愛剣の刃を滑らせ、海洋生物の攻撃力を削ぎ落す。炎の精霊は通常、海岸にあまり近づかない。だが精霊女王の命令とあれば、すぐに動いた。ベールに魔力を流して温度を高める手伝いを始める。

 ルキフェルが巨大な魔法陣を作り出し、海を分割した。円形の魔法陣の下に向かい、円筒状の結界が発生する。中に入った海水と敵を隔離した。

「……出番がなくなる」

 ぼそっと呟いたルシファーが、ルキフェルの結界周辺の水を別の結界で抑えた。これにより円筒が綺麗に浮き上がる。背に羽を出したベールが円筒の内側へ転移した。溜めた魔力と温度を一気に開放する。火の粉が舞い散り、美しい鳥の姿が浮かび上がった。

 鳳凰より黄金に輝く鳥の幻影が、ベールを包む。

「本当に出番がありませんね」

 苦笑いしたアスタロトは、リリスに声をかけた。

「このまま片付きそうです。私は魔王城の守りに戻りますので、あとはよろしくお願いしますね。くれぐれも暴走させないでください」

 遠回しに、海の生物全滅とかやめてくださいねと匂わせて、アスタロトは消えた。リリスはばいばいと手を振って見送り、可愛い愛娘の頬を突きながら肩を竦める。

「私に言ったって無理よね。もう暴走気味だもの」

 別に止める気はないわ。そんな口調で微笑む。大公女達は全員置いて来ちゃったけど、心配してるかしら。目の前で派手に攻撃して鬱憤を晴らす魔王や大公を横目に、リリスは違うことを考え始めた。それだけ安全な戦いと認識している。実際、彼女まで攻撃が届くことはないだろう。

「ママ」

「うん、そうよ」

 咥えて涎だらけの手で頬に触れる我が子を、可愛いと頬ずりしてリリスは気づく。そういえば、私も同じようなことをルシファーにしたけど、彼は嫌がらなかったわね。私の涎だらけのお菓子も食べてたし……思わぬ発見に顔が赤くなった。

 なんだか恥ずかしいわ。場に似合わぬ思い出に照れるリリスの足元に、じりじりと敵が迫っていた。
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