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第10章 因果は巡る黒真珠騒動

152.推しに迫られて爆発したようです

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 黒真珠は名前がない。性別もないので便宜上「彼女」と称されることになった。言葉遣いから受けた印象らしい。その彼女が語った内容は、数万年前に行方不明になった霊亀が、海の生き物の住処を荒らす厄介者として認識されていた。

 その化け物が帰ってきて、実際に海を荒らした。そこでパニックになった数人が助けを求めに海から出たらしい。ちなみに前回のカルンは事故で海の外へ出たが、その経験から魔王を頼ろうと決まったとか。そこまでは問題なかった。

 実際のところ、海に霊亀を放逐してしまった手前、多少の協力要請は交換条件なく飲もうと思ったほどだ。魔の森を破壊しながら海へ向かった亀の残した爪痕はもうないが、あの当時は大騒ぎだった。少し前の事件を懐かしむ余裕はアスタロト達にない。

「それで、爆発した理由は何ですか」

『白い真珠達は未熟でして……後学のために連れてきたのです』

 前置きから始まる黒真珠ののんびりした口調に、緊張感はなかった。基本的に変化の少ない海の底で、母体の貝に包まれて暮らす真珠類にとって、大急ぎで動き回ることは少ないのだろう。イライラしながらアスタロトが先を促す。

『爆発した理由は、魔王陛下に触れたからでしょう』

「はい?」

 意味を捉え損ねたアスタロトが間抜けな返答をする。考え込んだベールが言葉を選びながら応じた。

「陛下の魔力を吸収したため、ですか」

 疑問と言うより、確信に近い物言いだった。大量の魔力を急激に受け取れば、死に至ることがある。元の器に合わぬ大量の魔力を吸収することで、器が堪えきれず弾ける。その現象が真珠に起きたとしたら、理由が納得できた。

『違います』

「え? 違うの?」

 ルキフェルが間抜けな声を上げる。研究者であるルキフェルが拾い集めた真珠の破片は、内部からの爆発を示唆していた。それを否定されたら、また考え込んでしまう。

『いえ、魔王陛下の魔力は吸収しましたし、それによる破裂なのは確かですが……なんと言いましょうか。その、魔王陛下のお姿が』

「お姿が?」

 繰り返したルキフェルはメモを取りながら、緊張した面持ちで黒真珠に顔を近づける。

『やめてくださいっ! 私まで爆発します!!』

 咄嗟にルキフェルに結界を張ったベールが、彼の襟を掴んだ。後ろに引き倒すように離したことに、ルキフェルが小さく礼を言う。ルシファーやアスタロトの結界を通過して危害を加える威力なら、物理的に離れるのは安全対策として正解だった。

 心配で養い子ルキフェルを背に庇うベールの姿に、黒真珠は小さく震えた。

『尊い……』

 ぼそっと呟かれた単語に、意味を理解しようとするルキフェルと聞きたくないベールが相反する反応を見せた。顔を寄せようとしたルキフェルを庇うベールが、誰にも見せないよう抱き込む。黒真珠の振動が激しくなり、少しして停止した。

「黒真珠が気絶したようですね」

 冷静に判断するアスタロトが「たぶん、死んではいません」と肩を竦める。死んでいるかどうか、心音もないのに判断しようがないと思うのだが。そこを指摘する強者はいなかった。さっさと退散したベルゼビュートは、再び辺境へ転移している。危機に対する感応力に定評がある精霊女王らしい。

「結局、なぜ爆発したのさ」

 むっとした口調でルキフェルが唇を尖らせた。そこで披露されたのが、アスタロトの予測だった。

「おそらく、白真珠がルシファー様に惚れた話のような気がします。何度も手に取って顔の近くに寄せていましたし、過去にもよく魔族の娘が話しかけられたら惚れて騒動を起こしましたからね。交流の手段がない真珠だったから、思いを溜めこんで爆発したのではありませんか?」

「そんなバカな」

 笑ったルキフェルだったが、目が覚めた黒真珠にあっさり肯定される。さらに『付き合ってください』と黒真珠に告白され、顔を引き攣らせる羽目に陥った。
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