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第10章 因果は巡る黒真珠騒動

147.魔法陣改変の謎は謎を生む

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 魔法陣の解析は多くの手を借り、目を使い……ようやく一段落した。最終的な結論として、改変された魔法陣は3つある。ひとつは自動展開型の防御魔法陣、同じく自動で発動する修復魔法陣。もうひとつが問題だった。

「なんでこの魔法陣なんだ?」

「さあ、僕が知る筈ないよね」

 報告書を持ち込んだルキフェル相手に呟き、当たり前の返答に頷く。ルシファーも首を傾げる魔法陣だった。というのも、室内の温度や湿度を管理する魔法陣だ。以前は石造りの床がそのままだったので、底冷えが酷かった。冬の温度管理用に作られ、後日夏の湿度にも対応するよう改良されている。

 冬暖かく、夏涼しく過ごすための生活魔法だった。何度も改良や変更を行ってきた魔法陣だが、特に攻撃や防御に関する効果はもたらさない。強いて指摘するなら、真冬の寒い日に作動させなければ……遠回しの攻撃と言えなくもないが。

「真珠って温度に拘るのかしら」

 隣でリリスが首を傾げた。イヴを抱いた魔王妃の後ろで、護衛のヤンが大きな尻尾を振る。巻き起こった風が数人の獣人を吹き飛ばした。あれは注意してやめさせよう、危険だ。

「湿度は関係ないと思うぞ、海に住んでるんだし」

 住んでるわけではないと思うが、確かに湿度は高い地域で発見される。そもそも無機質な物体のはずなので、快適さを求めての変更ではないだろう。

「一番困ってるのは、改変した方法が分からないことかな」

 防御魔法陣と修復魔法陣に関しては、改変を禁ずる文字を書き加える対応となる。だが生活関連の魔法陣は、日々不具合に合わせて改良されるのだ。改変禁止にしたら、毎回新規作成が必要だった。それも面倒だし、魔法陣を複写して書き換えるとなれば専門の職員が必要になる。

 失敗して爆発や誤作動を起こさないよう、確認する人員もセットで雇うことになるが……魔法陣の専門家は意外と少ないのが現実だった。雇おうにも人材育成から入らなくてはならない。魔王城の敷地内に作られた高等学院の生徒が最前線で使えるようになるまで、あと十数年は必要だった。

「また弄られる可能性はあるか?」

「うーん。真珠や珊瑚を外へ出したからしばらくはいいけど……方法が分からないと同じ現象が起きないと断言できないね」

 辺境地区へ持ち去ったベルゼビュートがどこへ隠すか分からないが、外からの干渉を撥ね退けることは可能だ。だが転移魔法陣も誤魔化せるとしたら、内側に入り込んで干渉するかも知れない。いっそ砕いてしまおうか。

 物騒な考えを読んだように、リリスがぽんと手を叩いた。イヴが滑り落ちそうになり、慌ててルシファーが受け止める。

「ねえ、ロキちゃん。収納魔法で亜空間にしまったら、悪戯されないと思うわ」

「うーん、問題は誰の収納にしまうか……なんだよね。だって生き物の可能性もあるわけだし」

 生きていたら収納に入れることで殺してしまう。魔族は魔力を持つ種族の集合体であり、様々な特性を持つ者の団体だ。その多様性故に広がる繁栄を、大公や魔王が否定することは許されない。ルキフェルはそう考えた。

「でもカルンは平気だったわ」

「……まあ、そういわれるとなぁ」

「海に住む者は収納しても関係ないのか?」

「カルンだけ特別な可能性もあるし。何よりあの時は知らずにしまった事故だよね」

 ルキフェルはまだ難色を示す。書類処理をずっと無言で続けていたアスタロトが手を止めて、会議に参加した。

「でしたら、試してみてはいかがでしょうか」

 ぱちくりと目を瞬いたルシファーが、慌ててベルゼビュートを呼び出した。

「ベルゼ、珊瑚と真珠を持って戻れ」

 その声が届いたと同時に、中庭でひと騒動起きる。魔法陣解析に徹夜で尽力した者達が寛ぐ中庭は、ベルゼビュートの出現にざわついた。
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