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第9章 入れ替わりはお約束
121.ひとつ解決するとまた事件が……
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突然の花火大会を開催した男性陣と、うっかり通りかかりに巻き込まれたベルゼビュート。どちらもしっかり始末書を仕上げてきた。ベルゼビュートの書類は相変わらず字が汚い。ところどころ首を傾げて解読しながら読み終えた。
「アスタロト、あまり叱ってやるな。可哀想だろう」
「ルシファー様が甘いので、私が厳しくするしかないのですよ」
苦笑いして指摘され、他者に甘い自覚があるので口を噤む。本当に口には禍の元だ。いつも余計な一言が騒動を招き寄せる気がした。それでも余計な発言が減らないのは、なんとか解決してきた証拠でもある。
「リリスとお茶会の約束があるんだ」
最後の書類に押印し、ルシファーは処理済み箱へ積んだ。未処理の書類が片付いたのを確認し、アスタロトは大きく頷く。
「お疲れさまでした。リリス様ならさきほど……」
「大変! リリスが攫われた!」
駆け込んだルキフェルを、魔王と吸血鬼王が凝視する。今の言葉をかみ砕いて理解し、念のためにもう一度確認して口を開いた。
「リリ、ス……が?」
「ルシファー様、落ち着いてください」
ここ最近子どもばかりが拉致られていたが、ついに魔王妃殿下が攫われる。まとめるとこうなるが、ルシファーの頭の中は混乱していた。
「……ひとつ解決すると、また事件が起きるのはなぜだ?」
オレの行いが悪いのか。思わずそう自虐してしまうほど、最近は事件が多発している。だが俯いている時間は惜しいので、すぐに顔を上げた。
「状況説明を」
「あ、うん。ヤンが休暇だから、庭に出るのに護衛して欲しいと言われたんだ。イポスも休憩中だし、僕がいれば平気だと思って。庭に出てすぐ、リリスが踵を返して走り出した。何かから逃げるみたいで、僕も慌てて後を追ったら、突然消えたんだ……あんなの、あり得ない。僕の結界があったのに、どうやって連れ去ったのさ」
途中からルキフェルはぶつぶつと独り言になった。アスタロトはしばらく考え込み、いくつか指示を出す。この魔王城の敷地内は、建物の外であっても魔法陣の影響下にある。その防御魔法陣が作動すれば、何らかの記録が残るはず。もし記録なしで発動したなら、原因を探る必要があった。
「リリスの魔力が、移動してる……海の方角か?」
眉を寄せて考え込んでいたルシファーは、リリスの魔力の位置を特定していたらしい。見つけた魔力を追いかけて転移した。魔王城の建物内で転移が可能なのは、リリスとルシファーのみ。その特権を利用して飛んだ彼を追いかけるため、アスタロトは廊下に走り出た。
「ルキフェル、ベールに軍を招集させて下さい。ベルゼビュートは城の守りを固めなさい」
空中へ指示を出す。後ろの部屋から「わかった」とルキフェルの返答があった。我に返って動き出すルキフェルが、ベールの名を呼びながら走っていく。魔力を乗せた声に反応したベルゼビュートが中庭に現れ、ちょうど駆け出してきたアスタロトと擦れ違う。
「狡いわ、いつも私は留守番なんだもの」
「今は母親でしょう。我が子をしっかり守りなさい」
言い置いて、アスタロトが転移する。思わぬ反論に目を見開き、胸に抱いたジルの灰色の髪を撫でた。魔族にとって子どもは宝、奪われぬよう守り抜くのは親の役目だった。言われるまでもないと気合を入れたベルゼビュートが城に入ったことで、ベールが自由に動ける。
留守番なんて退屈だけど、おかえりを言える立場も悪くないわ。そう呟いた彼女は、お気に入りの巻き毛を揺らして笑った。魔王妃殿下が攫われたですって? 愚かなこと。犯人は肉の一片も残さず消される運命だわ。勝利を確信した精霊女王の予言が世界に刻まれた。
「アスタロト、あまり叱ってやるな。可哀想だろう」
「ルシファー様が甘いので、私が厳しくするしかないのですよ」
苦笑いして指摘され、他者に甘い自覚があるので口を噤む。本当に口には禍の元だ。いつも余計な一言が騒動を招き寄せる気がした。それでも余計な発言が減らないのは、なんとか解決してきた証拠でもある。
「リリスとお茶会の約束があるんだ」
最後の書類に押印し、ルシファーは処理済み箱へ積んだ。未処理の書類が片付いたのを確認し、アスタロトは大きく頷く。
「お疲れさまでした。リリス様ならさきほど……」
「大変! リリスが攫われた!」
駆け込んだルキフェルを、魔王と吸血鬼王が凝視する。今の言葉をかみ砕いて理解し、念のためにもう一度確認して口を開いた。
「リリ、ス……が?」
「ルシファー様、落ち着いてください」
ここ最近子どもばかりが拉致られていたが、ついに魔王妃殿下が攫われる。まとめるとこうなるが、ルシファーの頭の中は混乱していた。
「……ひとつ解決すると、また事件が起きるのはなぜだ?」
オレの行いが悪いのか。思わずそう自虐してしまうほど、最近は事件が多発している。だが俯いている時間は惜しいので、すぐに顔を上げた。
「状況説明を」
「あ、うん。ヤンが休暇だから、庭に出るのに護衛して欲しいと言われたんだ。イポスも休憩中だし、僕がいれば平気だと思って。庭に出てすぐ、リリスが踵を返して走り出した。何かから逃げるみたいで、僕も慌てて後を追ったら、突然消えたんだ……あんなの、あり得ない。僕の結界があったのに、どうやって連れ去ったのさ」
途中からルキフェルはぶつぶつと独り言になった。アスタロトはしばらく考え込み、いくつか指示を出す。この魔王城の敷地内は、建物の外であっても魔法陣の影響下にある。その防御魔法陣が作動すれば、何らかの記録が残るはず。もし記録なしで発動したなら、原因を探る必要があった。
「リリスの魔力が、移動してる……海の方角か?」
眉を寄せて考え込んでいたルシファーは、リリスの魔力の位置を特定していたらしい。見つけた魔力を追いかけて転移した。魔王城の建物内で転移が可能なのは、リリスとルシファーのみ。その特権を利用して飛んだ彼を追いかけるため、アスタロトは廊下に走り出た。
「ルキフェル、ベールに軍を招集させて下さい。ベルゼビュートは城の守りを固めなさい」
空中へ指示を出す。後ろの部屋から「わかった」とルキフェルの返答があった。我に返って動き出すルキフェルが、ベールの名を呼びながら走っていく。魔力を乗せた声に反応したベルゼビュートが中庭に現れ、ちょうど駆け出してきたアスタロトと擦れ違う。
「狡いわ、いつも私は留守番なんだもの」
「今は母親でしょう。我が子をしっかり守りなさい」
言い置いて、アスタロトが転移する。思わぬ反論に目を見開き、胸に抱いたジルの灰色の髪を撫でた。魔族にとって子どもは宝、奪われぬよう守り抜くのは親の役目だった。言われるまでもないと気合を入れたベルゼビュートが城に入ったことで、ベールが自由に動ける。
留守番なんて退屈だけど、おかえりを言える立場も悪くないわ。そう呟いた彼女は、お気に入りの巻き毛を揺らして笑った。魔王妃殿下が攫われたですって? 愚かなこと。犯人は肉の一片も残さず消される運命だわ。勝利を確信した精霊女王の予言が世界に刻まれた。
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