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第7章 幼子は小さな暴君である

106.今後の対策と相談は大切です

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 半透明にされたリリスが元に戻れたのは、3日目の夜だった。朝から徐々に濃くなっていたのだが、昼過ぎにはほぼ違和感が無くなる。光が透けたりしていたのも夜には完全に消えた。

「よかった! リリス、本当によかった」

 全力で喜ぶ夫ルシファーを抱き締め返しながら、リリスもほっとした顔を見せる。彼女の説明によれば、触れた物の感触もあるらしい。温もりや重さも多少感じるが鈍い。それでもやはり不安だったと言われ、ルシファーはさらに強く抱き締めた。

「イヴの能力については、帰った時にお母さんに相談してみたの」

 すぐ送り返されたが、確かにタイムラグがあった。だからルシファーが混乱して、行方不明のリリスを探しまくったのだが。その時間、リリスは母である魔の森に相談していたようだ。親子の時間が取れたのはいいことなのに、相談内容が物騒だった。

「対策はあるのか?」

「なかったわ」

 そうだろうな、ルシファーもそう思う。なぜなら対策がある状況で戻ったら、リリスは半透明でも説明しただろう。会話は問題なく出来ていた。なのに重要な情報を隠す理由はない。単に忘れる可能性は否定できないが、さすがに今回はないだろう。

「やっぱり無理か」

 魔の森でもお手上げとなれば、魔王城側でも手の出しようがない。無効化されない種族がいることは幸いだった。イヴが能力を制御できないとき、片っ端から消されては魔族が絶滅しかねないからだ。止めることが出来る種族が残っていたのは幸いだった。

「緊急事態なので、日本人に住居を移してもらえるよう頼んだ」

 アンナとアベルが無効化の対象外なら、おそらくイザヤも同様だろう。テストをして問題なければ、イヴの能力暴走時の対応係として頑張ってもらうしかない。魔王城内に部屋を用意するので住んで欲しいと伝えたところ、アンナは「考えてみます」と答えを保留した。

 家の管理は魔王城から誰か派遣すればいいし、子どもも当然連れてきて一緒に住むのは歓迎だ。仕事場へ出勤する手間や時間も省ける。いいことづくめのようだが、夫に相談するつもりのアンナは即答しなかった。たぶん答えは同じなのだけど……相談することが大切なのだ。

 育児も夫婦生活も自分一人で身勝手に行うものではなく、相手がいる。配偶者や子どもの人権を蔑ろにするのでなければ、相談はごく当たり前だった。ましてやアンナにとって、イザヤは兄でもある。常に側にいた信頼できる人だった。

「いい返事だといいわね」

「ああ、それからイヴの護衛はヤンに頼もうと思って。彼に話したら、孫がこちらで暮らすので面倒を見なくてはならないと言われた。だからフェンリルの孫もイヴと一緒に育てたらいいさ」

「あら素敵! 幼い頃からフェンリルと育ったら、この子ずっと四つん這いで生活したりして」

 ふふっと冗談めかして笑うリリスだが、ルシファーは青褪めた。おろおろしながら、後ろのベビーベッドの柵を掴む我が子を見つめる。

「やっぱりヤンの孫は断ろうか」

「やだっ、冗談よ。私達が立って歩いてるのに、この子が四つん這いで生活するわけないでしょ」

 からりと笑うリリスに、それもそうかと胸を撫でおろした。父母と一緒にいる時間の方が長いのだ。真似て立ち上がるのが普通だろう。そもそも手足の長さや体の構造の問題で、人型は四つん這いの生活に向いていない。

「でも、ヤンが孫に夢中になったら大変ね。ピヨが黙ってないわよ」

「その辺はヤンが上手くやるだろう。何しろママだからな」

 ママ程頼りになる育児のプロはいない。そう言い放ったルシファーに抱き着いたリリスが、表情を和らげた。

「信じて支えてくれてありがとう、ルシファー」

「当然だ。でもこんなのはもう御免だぞ」

 抱き締め合う両親をじっくり眺める銀の瞳が大きく見開かれ、えいっと両手を振り回す。直後、折角戻ったリリスだけでなく魔王ルシファーまで透けた。今回は二人にまとめて無効化を繰り出したため、効果が薄くほとんど実体が残っていたのが幸いか。

「……何歳になれば話が通じるかな」

「そのうち、よ……たぶん」

 知らずに入室したアデーレが悲鳴を上げ、あっという間にこの状況が知れ渡ってしまった。
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