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第7章 幼子は小さな暴君である

100.ベビーラッシュの弊害?

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 保育所は思ったより希望者が殺到した。それは職員はもちろん、入所希望者も溢れんばかりだ。魔王城で働く親を持つ子が優先となるが、それでも入所希望の書類は山積みとなった。

「これは行政の怠慢ですね」

「ここ最近のベビーラッシュの所為だろう。いきなり子どもが増えて、対応しきれない集落が出た」

 以前の少子化状態なら問題なかった。近所の育児経験者や年寄りが預かってくれるし、それで手が足りる程度の子どもしかいない。リリスとの結婚直前にベビーラッシュが来て、魔獣以外の様々な種族にも子どもが増えた。

 対応できる限度を超えたのは、ここ最近の話だ。それも減った人族の数を補うように、様々な種族で子が生まれ続けた。一時期は滅びが近いとされた神龍族さえ、1年に1つの勢いで卵が産まれている。魔族は出産を大歓迎する傾向が強いが、それでも限度があった。

 育てきれない数になれば、選別が始まってしまう。生かすべき子と諦める子――残酷なその線引きが始まる前に、育児の受け皿が必要だ。大きな話に発展した魔王城の重鎮達は、真剣だった。実際、過去に子どもが増え過ぎて選別された魔獣の事例があるのだ。

「育児の負担を減らすため、昼夜問わず預かりましょう」

「そうだな、夜行性の種族もいるし……ああ、夜行性な職員の面接も予定しないと」

 ベールやルシファーが話を進める中、気づけば母親不在の会議になっていた。そこへリリスが大公女達と共に乱入する。

「ただいま、ルシファー」

「リリス! おかえり、保育所の準備は進んでるぞ」

「女性不在なのに?」

 ぐるりと見回せば、魔王、大公、侍従や文官を含めてすべて男性だった。これは意見が偏ってしまう。慌てて大公女やリリスも含めて、会議のやり直しとなった。といっても、彼女らは決まった事項に付け足していくだけである。

「昼夜問わずは絶対条件ね」

「保育所の安全も完璧じゃないと」

「種族によって食料が違うから、収納魔法を駆使するしかないわ」

 寝床やおむつはある程度同じでもいけるが、食事はそうはいかない。母乳の母は事前に搾って持ちこむ。代替品でも構わない種族も、食べられない物リストの提出を義務付ける。条件が次々と足されていった。この辺は、我が子の育児に携わる母親の独壇場だ。

「これでいいと思うわ。足りない部分は運営し始めてからでも変更できるし」

 種族問わず、一緒くたに預かるべき。その主張は強く大きな文字で書かれていた。噛みつかれても治癒魔法があるし、即死でなければ間に合う。そのため治癒魔法が使える常駐者が必要と明記された。

「イヴは私達が二人で見てるからいいけど、他の家は大変だと思うわ。双子の家もあるし……魔獣は一度にまとめて産むもの」

 ルーシアの指摘に、全員が頷く。男性陣は口出しを許されない雰囲気に飲まれ、ただ同意するだけだった。胎内で我が子を育み、腹を痛めて産むのも、その後生まれた赤子を育てるのも母親主体だ。夫や親兄弟は手伝いが中心となる。どうしても母親の負担が大きかった。

 彼女達が望むなら、その通りに。ルシファーはアスタロト達と頷き合い、こそこそと予算の作成に入る。条件に合わせた予算案を作り、承認し始めた。この場に重鎮が揃っているので、すぐ決まるのは便利だ。

 外部からの攻撃は考えられない現状、内政に力を割くのは当然である。しかも魔族の未来を支える新生児問題となれば、最優先事項だった。

「そういえば、私が眠っている間に災害はありましたか?」

「いや。まったく普通だった」

 アスタロトの疑問に、ルシファーは首を傾げ動きを止めた。そうだ。ここ最近、災害がない。災害復旧担当のアムドゥスキアスが給料泥棒呼ばわりされる程に、災害らしき事件はなかった。

「当たり前じゃない。魔の森が眠ってるんだもの。皆静かにしてくれるわよ」

 何でもないことのようにリリスが口を挟み、ルシファーは納得してしまう。それもそうだ。世界の主の眠りを妨げる愚か者はいない。不思議と全員が「それもそうだ」と受け入れてしまった。
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