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第7章 幼子は小さな暴君である

99.目覚めはいつも暗中模索

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 アスタロトは真っ暗な棺桶の中で目覚めた。いつも思うが、なぜ休眠期に棺桶にしまわれるのか。言い方は悪いが、安置されているわけで。まるで死者に対する態度ではないか。地下室のベッドで休んだはずが、狭い棺桶の中で目覚めるのは何度目か。

 どういうわけか、アデーレは棺桶に夫を片付けたがる。大きく溜息を吐いて手を当てるが、棺桶の蓋は開かない。幸いにして吸血種は闇夜での視力は抜群で、ほぼ光がなくとも物の形が見えた。さらに蝙蝠が持つソナーによる空間感知に優れているので、いきなり起きて頭を打つ無様は避けられたが。

「アデーレはいませんね」

 魔力を探るが、城内にもほぼ人がいない。これは自力で出るしかあるまい。破壊する方が早いか。自らの周りに結界を張ろうとして、魔力がうまく巡らないことに気づいた。ごそごそと身じろぎし、僅かな違和感を覚えた蓋を撫でる。

「封印までしたとなれば……どのくらい寝ていたのか」

 ぐっすり眠れるように。妻のアデーレにしたら気を使ったのかも知れない。だが、これでは周囲の魔力を感知できないし、当然ながら主君の危機も察知できない。魔力や気力が満ちるまで、外部と隔離された状態だった。

 何も起きていないといいのですが……とぼやきながら、内部で魔力を高める。一定の量を超えたところで、封印が解けた。なんとも念の入った仕組みだ。ようやく蓋をこじ開けて外へ出れば、さらに結界が張られていた。

「何が目的だ?」

 逆に心配になる。もしかしたら、魔王に何かあったのでは? 結界を粉砕し、慌てて魔力を探る。特に問題はなさそうだが、ベールやルキフェルが集まっていた。魔王城へ向けて転移する。中庭はいつもと変わらず、普段通りだった。

「アスタロト大公閣下、お久しぶりです」

 エルフの少女が、苗木を連れて擦れ違う。彼女達は数十年前に開発した新しい魔法陣で、苗木を運ばずに歩かせる方法を使う。挨拶して執務室へ急いだ。ノックして扉を開く。

「……これは?」

 老若男女関係なく、多くの魔族が集まっていた。リリスの教室用に広げられた執務室が狭く感じられるほどだ。魔獣から元侍女、ユニコーンなどの希少種に至るまで。彼らは一様に書類を手にしていた。近くにいた魔獣が咥えた書類を覗けば、何らかの申請書のようだ。

「おお! 起きたのか、アスタロト。ちょうどよかった、手が足りないから手伝ってくれ」

 いつも通りのルシファーに安心して近づいたアスタロトは、囲いの中に入れられた幼子達に目を見開いた。ルシファーの娘イヴを始めとして、様々な種族の子が犇めいている。小型ドラゴンまで混じっているが、魔力の質からしてアムドゥスキアスの子か。

「この子らの保育士を決める」

「いつも言っているでしょう。説明はきちんと一から理解できるように行うようにと」

 結論だけ突きつけるルシファーに文句を言いながらも、先ほどの書類の内容からおおよその状況は理解できた。育児の手が足りないのだ。

「保育園を作ったでしょう」

「保育園に入れるまでの年齢が大変なんだ」

 やけに実感のこもったルシファーの言葉に、ベールやルキフェルが大きく頷いた。何か起こったらしい。察するに、事件のあらましは教えてもらえないだろう。目を逸らす大公二人に肩を竦め、ルシファーの指示に従い、新たな保育士の就職希望の書類を受け取る。にしても、随分と多くの希望者が殺到しましたね。

 アスタロトの疑問は翌日、予算計上の書類が回ってきたことで解けるが……もちろん、あまりの高待遇に驚く。ルシファーやベールが問い詰められるのは、時間の問題だった。
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