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第6章 侵入者か難民か
92.8年越しの出産? やっとヒビが
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アラエルはすぐに発見されて捕まり、がっつり叱られた。牢に繋がれた期間はピヨが添い寝をしてくれたと、逆に喜ぶ始末だ。ピヨは暗い部屋で昼寝をしたかったらしい。鉄格子を挟んで廊下と牢内で添い寝する二人の姿に、結局上層部は絆されてしまった。
「いいか、アラエル。二度とあんな事をするでないぞ。次があれば、ピヨは嫁に出さぬ」
ヤンがきっちり言い聞かせる。その隣でママに寄り添うピヨが頷いた。たぶんピヨは意味を理解していないが、アラエルにはもっとも効果的なお仕置きとなった。がっくり項垂れたアラエルは、様々な罪を重ねている。
門番の仕事を放棄したこと、まだ保護下にあるピヨを攫ったこと。それから世界樹に火をつけたことだ。理由は本人が頑なに黙秘したが、一部の者は察していた。
「バカよねぇ」
「鳳凰全体じゃなくて、アラエル単体だと思うが……愛情表現が捩れてるな」
リリスとルシファーは、午後のお茶を楽しみながら苦笑いする。呼ばれて同席したのはルーシア、レライエ、ルキフェルだった。ベルゼビュートはまだ世界樹の治療に専念している。
「あれって、世界樹がピヨを弾いたことが面白くなかった、で合ってる?」
クッキーを口に放り込むルキフェルが首を傾げる。それもあるが、ルシファーの見解は少し違った。
「無関係じゃないぞ。だがヤンが落ち込んだだろう? そこが決定打だ」
「アラエルは何だかんだ言って、ピヨに愛情を注いで育てるヤンも大事なの。最初はあんなに警戒してたのに」
ふふっと笑うリリスが付け足す。ルキフェルは「へぇ」と呟きながら、紅茶を口に運んだ。リリスはルーシアに、魔法のイメージを借りたら消火がうまくいった話を始め、レライエが微笑ましそうに頷く。
ミルクをたらふく飲んでゲップを終えたイヴは、ルシファーの腕ですやすやと眠る。この幼い体に宿る魔力は半分近くも消費されていた。だが母であるリリスを連れて強制転移を行った上、世界樹の消火まで手伝ったと考えれば、半分も残っているのは上等だ。
「イヴも頑張りまちたねぇ」
幼児言葉で話しかけ、唇に残ったミルクを拭き取る。親バカな魔王を、周囲はぬるい目で見守った。
「ところで、アドキスはどうした?」
仕事で手が離せない時以外は、妻のレライエにべったりの翡翠竜がお茶会にいないことをルシファーが不思議がる。仕事中でも無駄に転移を多用して顔を見に帰って来るアムドゥスキアスが、お茶会が始まってから一度も現れないのだ。
「昨夜うちの卵にヒビが入ったんです」
産んでから8年近く温め続けた卵にヒビ? それは母親がついていなくていいのか。身を乗り出して心配するルシファーへ、豪傑なレライエはひらひら手を振って笑った。
「大丈夫です。8年も卵だったんだし、ヒビが入ってからも長いでしょう。殻を破るまでに、また数年かかりますよ」
そう言われると、そんな気がする。長寿種族は生まれるまでに時間がかかったり、成長が遅かったりする傾向があった。事実、イヴもかなりのんびり成長している。というか、変化があまり見られない。その意味で、レライエの予測が正しい気がした。
「ただアドキスは浮かれちゃって、ずっと卵のヒビを覗いて話しかけています。だから置いてきました」
からりと笑うレライエに、夫への愛情がないよう見えるが。実際は互いにかなりの信頼と愛情を抱いているのは、皆が知っていた。だから言葉を額面通りに受け取り、お茶やお菓子へ手を伸ばす。
「産まれ! 産まれるぅ」
――思わぬ叫び声で、お茶会が中断されるまでは。誰もがのんびりと構えていたのだ。
「いいか、アラエル。二度とあんな事をするでないぞ。次があれば、ピヨは嫁に出さぬ」
ヤンがきっちり言い聞かせる。その隣でママに寄り添うピヨが頷いた。たぶんピヨは意味を理解していないが、アラエルにはもっとも効果的なお仕置きとなった。がっくり項垂れたアラエルは、様々な罪を重ねている。
門番の仕事を放棄したこと、まだ保護下にあるピヨを攫ったこと。それから世界樹に火をつけたことだ。理由は本人が頑なに黙秘したが、一部の者は察していた。
「バカよねぇ」
「鳳凰全体じゃなくて、アラエル単体だと思うが……愛情表現が捩れてるな」
リリスとルシファーは、午後のお茶を楽しみながら苦笑いする。呼ばれて同席したのはルーシア、レライエ、ルキフェルだった。ベルゼビュートはまだ世界樹の治療に専念している。
「あれって、世界樹がピヨを弾いたことが面白くなかった、で合ってる?」
クッキーを口に放り込むルキフェルが首を傾げる。それもあるが、ルシファーの見解は少し違った。
「無関係じゃないぞ。だがヤンが落ち込んだだろう? そこが決定打だ」
「アラエルは何だかんだ言って、ピヨに愛情を注いで育てるヤンも大事なの。最初はあんなに警戒してたのに」
ふふっと笑うリリスが付け足す。ルキフェルは「へぇ」と呟きながら、紅茶を口に運んだ。リリスはルーシアに、魔法のイメージを借りたら消火がうまくいった話を始め、レライエが微笑ましそうに頷く。
ミルクをたらふく飲んでゲップを終えたイヴは、ルシファーの腕ですやすやと眠る。この幼い体に宿る魔力は半分近くも消費されていた。だが母であるリリスを連れて強制転移を行った上、世界樹の消火まで手伝ったと考えれば、半分も残っているのは上等だ。
「イヴも頑張りまちたねぇ」
幼児言葉で話しかけ、唇に残ったミルクを拭き取る。親バカな魔王を、周囲はぬるい目で見守った。
「ところで、アドキスはどうした?」
仕事で手が離せない時以外は、妻のレライエにべったりの翡翠竜がお茶会にいないことをルシファーが不思議がる。仕事中でも無駄に転移を多用して顔を見に帰って来るアムドゥスキアスが、お茶会が始まってから一度も現れないのだ。
「昨夜うちの卵にヒビが入ったんです」
産んでから8年近く温め続けた卵にヒビ? それは母親がついていなくていいのか。身を乗り出して心配するルシファーへ、豪傑なレライエはひらひら手を振って笑った。
「大丈夫です。8年も卵だったんだし、ヒビが入ってからも長いでしょう。殻を破るまでに、また数年かかりますよ」
そう言われると、そんな気がする。長寿種族は生まれるまでに時間がかかったり、成長が遅かったりする傾向があった。事実、イヴもかなりのんびり成長している。というか、変化があまり見られない。その意味で、レライエの予測が正しい気がした。
「ただアドキスは浮かれちゃって、ずっと卵のヒビを覗いて話しかけています。だから置いてきました」
からりと笑うレライエに、夫への愛情がないよう見えるが。実際は互いにかなりの信頼と愛情を抱いているのは、皆が知っていた。だから言葉を額面通りに受け取り、お茶やお菓子へ手を伸ばす。
「産まれ! 産まれるぅ」
――思わぬ叫び声で、お茶会が中断されるまでは。誰もがのんびりと構えていたのだ。
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