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第6章 侵入者か難民か

89.世界樹は鳳凰が嫌い?

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 翌日、ヤンが思わぬ場所で発見される。護衛として連れて行ったルシファーは、世界樹に残る妻子と戻ったが……あの場にヤンはいなかった。そういえば、到着してからヤンと話した記憶がないのだ。

「ヤン、すまん」

「我が君、我だけ弾かれましたぞ!」

 世界樹の領域となる葉の下に入れず、外でうろうろしていたらしい。しかもピヨ付きだ。婚約者で番のピヨが消えたことで、アラエルが大騒ぎをして発覚した。ヤン捜索で世界樹へ魔王軍の数名が派遣されたが、精鋭のドラゴンがヤンを発見した。近くで火をつけて騒ぐピヨのお陰だ。

 何らかの理由で入場制限されたようだが、ピヨとヤンは無事に回収された。アラエルはぽろぽろ涙を流してピヨを抱き締める。その姿に、凄く悪いことをした気分になるルシファーだった……が、よく考えたらピヨは護衛として呼んでいない。

「ピヨはなぜ世界樹の側にいたんだ?」

「我の尻尾についてきたようですな」

 ピンときた。それが原因だ、たぶん。

「恐れながら、鳳凰は世界樹に嫌われておりますので……」

 魔王軍でドラゴンなど空軍を束ねる隊長が口を開いた。遠回しに、ヤンが弾かれた原因がピヨではないかと指摘する。考えられることだ。鳳凰は存在するだけで火の粉をまき散らす。樹木である世界樹との相性は最悪だった。

 結界を張って己の領域を作り出す世界樹にしたら、いくら魔王の連れでも鳳凰種の接近は拒みたかったのだろう。ピヨは悪気なく、行先も知らない。だから母と認識するヤンを見つけて駆け寄り、一緒について行こうとしただけ。問題は、行先が「鳳凰厳禁」の領域だったことだ。

 ピヨを弾いたら、しがみ付いた対象のヤンも飛ばされた。そこで、ルシファーはぽんとヤンの首筋に手を当てて、軽く叩いた。

「よかったな、ヤン。一歩間違えたら尻尾を切り落とされてたぞ」

「なんですと?」

「ああ、それはあり得ます。何しろ結界領域なので、すぱっと……」

 空の覇者ドラゴンは、地上の獣の王フェンリルに容赦なく言葉の攻撃を繰り出す。

「すぱっ……?」

 ぞっとしたのか、ヤンの尻尾がぶわっと膨らむ。まるで興奮した猫のようだ。本人に伝えれば「狼です」と全力で否定されるが。よく見たら全身の毛が逆立っていた。オレが肌を粟立たせるのと同じか。ルシファーはそんな感想を持ち、可哀想にと首筋を撫でてやった。

「大丈夫だ。尻尾が残っていれば、復元できるぞ。何しろアスタロトのツノも、オレがくっつけたからな」

 過去の恐ろしい失敗で慰めるルシファーへ、周囲から白い目が向けられた。アスタロト大公のツノを折るなんて、いくら陛下でも命知らず過ぎる。部下からのそんな視線を受け、失言した? と焦るルシファー。

「いや、たとえ話だぞ」

「もう、ルシファーったら何してるの? ヤンが膨らんでるけど」

 首を傾げるリリスは、ルシファーの腕にしがみ付く。イヴを連れていないことに慌てる夫へ指さした先は、アデーレがイヴを抱いていた。任せたらしい。魔王城内で魔王の愛娘に害を加える者はいないし、いたとしてもアデーレなら問題なく撃退すると考えた。

「ヤンの尻尾が危険だった話を少し」

 無言になったヤンの尻尾は股の間にしまわれ、耳はぺたんと垂れた。想像だけで痛くなったらしく、可哀想なほど震えている。

「ひとまず、世界樹が燃えなくて良かったな。ところでアラエルはどうした?」

「さあ……」

 発見された当初はピヨに張り付いていたアラエルの姿がない。脅かした詫びにヤンへ大量の肉の塊を渡して、ルシファーは城内に戻った。途中で我が子イヴを受け取り、ご機嫌で鼻歌を披露する。腕を絡めたリリスと並んで消える後ろ姿を見送り、ヤンは肉を咥えて城門へ走る。その後ろをピヨが走って追った。
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