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第6章 侵入者か難民か

88.ほかに仲間がいたようです

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 さわさわと葉擦れの音が心地よい空間を、無粋なノックが遮った。目を開いた先で、危険な光景が広がっており目を逸らす。露出度の高い服で平然とルシファーを見下ろすベルゼビュートは、その立ち位置が危険である認識はなかった。

 かなり際どい位置まで入ったスリッドを見ないよう、隣で休むリリスへ視線を向けて起き上がる。うっかり見てしまっても、当事者同士は何も問題がない。リリスやエリゴスにバレなければ、だ。ルシファーは余計なケンカをする気はなかった。

「呼んでおいて寝てるって、どうなの」

「お前がいつ来るか分からないのに、ずっと起きてるのもおかしいだろ」

 気やすい口調で文句を言う。ルシファーは欠伸をしてから大きく上に腕を伸ばした。完全に目が覚めた状態で、ベルゼビュートに数歩下がるよう命じる。それから結界内で休憩中の精霊を手の上に載せた。

「いろいろ調べた結果、異世界の金属系精霊と判明した」

「……あたくしが言った通りじゃない」

「いや、知らない味と言われただけだぞ?」

 互いに言ったつもり、聞いたはず。これはリリスと同じなので、不毛な問答になる前に話を切り替えた。リリスはまだ眠っている。

「イヴちゃんはどうしたのよ」

「世界樹に預けた」

 話が端的過ぎて、ベルゼビュートはきょとんとした顔をする。だが元から深く考えない性質なので、別にいいようだ。ルシファーが納得してるなら問題ないと、奇妙な信頼を見せた。

「それでいいならいいけど。貸してみて」

 精霊を受け取り、じっくり眺める。羽の感じや手足を摘まんで確認した後、肩を竦めた。

「問題ないならこのまま住めばいいわ。ところで、通訳って何を伝えればいいのかしら?」

「意思の疎通が取れるのか? それなら魔族の精霊分類で預けるが」

「ああ、そういうことね」

 会話を含めた意思疎通が出来ないと、魔物扱いになってしまう。精霊なので魔力は確認済みだった。ベルゼビュートは数人の精霊を呼び出し、それぞれと対面させていく。一通り終わると、にっこり笑った。

「土の精霊と交流できてますわね。ところで、この子の仲間はどこ?」

「仲間……??」

「友達が一緒に飛ばされたみたい。えっと、5人? 多いのね」

 無言になったルシファーが大きな溜め息を吐いた。最初にそれを教えて欲しかった。イヴが捕まえたのは1人だけ、残りはどこへ消えた? そもそも部屋に他の精霊はいなかった気がする。

 魔法陣を調べに行ったルキフェルに依頼すると危険だし。ベールもルキフェルに甘いからな。うっかり捕獲を任せたら、ついでに分解されてしまいそうで怖い。唸りながら考えたあと、目の前を飛ぶ精霊に気づいてぽんと手を叩いた。

「ベルゼ、他の仕事を後回しにしていいから、残る4人の精霊を保護してくれ」

「はぁ、構いませんけど」

 精霊女王の肩書きを持つのに、他人事のような言い方をする。異世界の精霊なら管轄外かも知れないが、今後は彼女の配下になる旨を説明した。途端に保護に前向きになる。単純に理解してなかっただけらしい。

「すぐに見つけてきますわ!」

 すっと消えた彼女を待っていたように、リリスが身を起こす。大きく伸びをしてから、ひょいっと木の根に手を突っ込んだ。ごそごそと何かを探す仕草をした後、当たり前のように我が子を取りだす。ぬるりと出てきたイヴは、きゃっきゃとはしゃいだ声を立てた。

「え?」

「そろそろ帰りましょうよ、寒くなってきたわ」

「あ、うん」

 反応に困ったルシファーだが、灰色の精霊と仲間達はベルゼビュートに任せた。イヴも無事に帰ってきて、昼寝中のリリスも起きた。この場に残る理由はなかった。見上げた世界樹は何もなかったように葉を揺らす。抱えきれない巨大な幹と根を軽く撫でて、ルシファーは愛する妻と我が子を連れて飛んだ。

 誰もいなくなった世界樹は、ざわりと葉を揺らし枝を数本落とした。
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