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第6章 侵入者か難民か
87.言葉は通じるが話せなかった
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世界樹に放り込む方法は、想像していたより力技だった。結界ごと内部へ転送するらしい。そのあと結界を消せば、精霊は世界樹の懐に抱かれる――表現を聞こえ良くしているが、それは放置と大差ないのでは?
疑問を口にできないルシファーは、言われた通りの手順で試した。転送した先で結界を消したら、潰されたりしないだろうか。一抹の不安を押し切り、魔の森の娘の言葉に従う。
精霊のかすかな気配は、結界消失後も残っていた。ほっとする。安心したルシファーは、久しぶりに訪れた大樹の根本に腰掛けた。その隣に座るリリスは、イヴを世界樹の根に乗せる。うねる様に地上を這う根は、それ自体が1本の木のような太さがあった。
「大きいな」
「ええ、このくらいあれば大丈夫ね」
「なにが……っ!?」
大丈夫の意味を問う前に、目の前で根がイヴを吸い込んだ。おかしな表現の様だが、そうとしか表現できない。包んだのではなく、溶け込んだ形だった。慌てて伸ばした手は遅く、イヴは眠ったまま消えてしまう。
「リリスっ! すぐに助けに行こう」
「ここは魔の森のお母さんと繋がる場所よ。孫に会いたいでしょうから、送ってあげたの」
「……そういう話は先に頼む」
今ので絶対に寿命が縮んだ。軽く涙目になりながら、苦情だけは口にする。心が折れそうだったぞ。
「ごめんなさい、言ってなかったかしら」
ぱくぱくと口を開け閉めして、結局ルシファーは口を噤んだ。リリスは言ったつもりで、オレは聞いてない。これは良くあることで責めたら可哀想だ。次から言ってくれとお願いするだけにしよう。リリスを育てた経験から、甘い判断を下す魔王だった。
「精霊はそろそろ回復するわ」
「そんなに早いのか」
話す二人の真ん中に、ぽんっと精霊が吐き出された。木の幹からぷっと吹いた息のようだ。灰色の精霊はくるりと回って己の羽でバランスをとった。
「こんにちは、言葉が通じるかしら?」
こくんと頷く精霊は、世界樹を見上げてから頭をさげた。自分を回復させるために移動したお礼だろう。
「話せるか?」
精霊は困ったように一回転する。声は出せないらしい。他の精霊にも話せない種類がいた。ここで、やっぱり精霊女王の出番だろう。だがまた裸だと困る。
「ベルゼ、精霊の通訳を頼みたいから手が空いたら来てくれ」
言葉に魔力を乗せて飛ばし、精霊を手の上に載せて笑うリリスを振り返る。美しい輪と羽を出したリリスに、親近感を持った精霊が頬擦りする。むっとしてその羽を摘んだ。ルシファーの背に白い翼が2枚広がると、精霊はその翼に興味を示した。目を輝かせて、手を伸ばす。離せば翼にしがみ付いて、両手で撫で始めた。
「羽フェチ?」
「リリス、そういう言葉をどこで覚えてくるんだ」
注意するつもりが、彼女は得意げに入手先を披露した。
「大公女と侍女や文官女性達のお茶会よ」
メンバーが物騒で注意しづらい。アデーレやアンナも混じっているはずだ。危険を察知したルシファーは、賢明にも余計な発言は避けた。
「ベルゼ姉さんが来るまで横になるわ。ここは回復に最適なの」
あふっと欠伸をしたリリスが横になり、ルシファーの膝を枕に寝息を立てる。すぐに眠ったところを見ると、よほど疲れていたのか。子育て初心者だった頃の苦労を思い出し、ルシファーはリリスの眠りを守る結界を張った。音や物理的な衝撃を弾くものだ。魔力を遮断しないので、ベルゼビュートの呼び出しの妨げにならないだろう。
頭上は大きな枝が木漏れ日を遮り、ほとんど空は見えなかった。幹のような太さの根に背中を預け、大地に座ったまま、ルシファーも目を閉じる。しばしの休憩だった。
疑問を口にできないルシファーは、言われた通りの手順で試した。転送した先で結界を消したら、潰されたりしないだろうか。一抹の不安を押し切り、魔の森の娘の言葉に従う。
精霊のかすかな気配は、結界消失後も残っていた。ほっとする。安心したルシファーは、久しぶりに訪れた大樹の根本に腰掛けた。その隣に座るリリスは、イヴを世界樹の根に乗せる。うねる様に地上を這う根は、それ自体が1本の木のような太さがあった。
「大きいな」
「ええ、このくらいあれば大丈夫ね」
「なにが……っ!?」
大丈夫の意味を問う前に、目の前で根がイヴを吸い込んだ。おかしな表現の様だが、そうとしか表現できない。包んだのではなく、溶け込んだ形だった。慌てて伸ばした手は遅く、イヴは眠ったまま消えてしまう。
「リリスっ! すぐに助けに行こう」
「ここは魔の森のお母さんと繋がる場所よ。孫に会いたいでしょうから、送ってあげたの」
「……そういう話は先に頼む」
今ので絶対に寿命が縮んだ。軽く涙目になりながら、苦情だけは口にする。心が折れそうだったぞ。
「ごめんなさい、言ってなかったかしら」
ぱくぱくと口を開け閉めして、結局ルシファーは口を噤んだ。リリスは言ったつもりで、オレは聞いてない。これは良くあることで責めたら可哀想だ。次から言ってくれとお願いするだけにしよう。リリスを育てた経験から、甘い判断を下す魔王だった。
「精霊はそろそろ回復するわ」
「そんなに早いのか」
話す二人の真ん中に、ぽんっと精霊が吐き出された。木の幹からぷっと吹いた息のようだ。灰色の精霊はくるりと回って己の羽でバランスをとった。
「こんにちは、言葉が通じるかしら?」
こくんと頷く精霊は、世界樹を見上げてから頭をさげた。自分を回復させるために移動したお礼だろう。
「話せるか?」
精霊は困ったように一回転する。声は出せないらしい。他の精霊にも話せない種類がいた。ここで、やっぱり精霊女王の出番だろう。だがまた裸だと困る。
「ベルゼ、精霊の通訳を頼みたいから手が空いたら来てくれ」
言葉に魔力を乗せて飛ばし、精霊を手の上に載せて笑うリリスを振り返る。美しい輪と羽を出したリリスに、親近感を持った精霊が頬擦りする。むっとしてその羽を摘んだ。ルシファーの背に白い翼が2枚広がると、精霊はその翼に興味を示した。目を輝かせて、手を伸ばす。離せば翼にしがみ付いて、両手で撫で始めた。
「羽フェチ?」
「リリス、そういう言葉をどこで覚えてくるんだ」
注意するつもりが、彼女は得意げに入手先を披露した。
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「ベルゼ姉さんが来るまで横になるわ。ここは回復に最適なの」
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頭上は大きな枝が木漏れ日を遮り、ほとんど空は見えなかった。幹のような太さの根に背中を預け、大地に座ったまま、ルシファーも目を閉じる。しばしの休憩だった。
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