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第5章 各家庭の教育方針
80.魔王は魔王妃の炎上を消火する
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分析を行う大公達を残し、ルシファーはイヴの授乳のため私室へ移動した。リリスが飲ませ始めたものの、イヴは何やら愚図り始めた。
「お腹空いてないのかしら」
哺乳瓶でもいいかとリリスが寝かせた隙に、ルシファーは愛娘を腕に抱く。胸が邪魔で、上からイヴの顔が見えない。巨乳は肩が凝るとぼやいていたベルゼビュートの言葉が、ようやく理解できた。
「はぁ……せっかく胸を作ったのに」
女体化したのに、母乳が出ない。成分分析は間違ってないし、魔法陣が正常なのだから体内で作られてもいいのに。しょんぼりしながら、それでも諦めきれずにイヴに乳を近づけた。素直に吸い付く吸引力抜群の愛娘は、ちゅっちゅと大人しく吸い始める。
ごくりと喉が動いた……?
リリスとルシファーが凝視する中、イヴはうっくうっくと飲み続ける。というか、本当に合成した母乳ならいいが、変な物が出ていたらどうしよう。不安になったルシファーが止めようとするが、イヴは両手を食い込ませて抵抗する。まだ小さな爪がぐいと突き立てられた。
「いててっ、リリス、どうやって外すんだ?」
「満足するまで飲ませれば、勝手に寝るわよ」
過去のルシファーに匹敵する大雑把さで、リリスは眉を寄せた。あのけしからん巨乳から出ているのは、本当に母乳かしら。イヴが飲み続ける左の乳房ではなく、右の胸を強く握った。少し滲んだものをぺろっと舐める。
「リ、リリリリリリリス?」
鈴虫のようなリの大合唱の後、ようやく妻の名を呼んだ魔王は吸い付いた彼女に慌てる。だがイヴもいるしあまり大きな動きは取れなかった。ごくりと飲んだリリスが口を離し、真剣な顔でぼそっと呟く。
「本物だわ」
「え?」
「私の母乳とほぼ同じ味みたい。なのに私の胸を押し戻して、ルシファーから飲むなんて……」
ぎりっと悔しそうに歯を食いしばったリリスは叫んだ。
「胸の大きさによる差別じゃない!!」
「しぃ……落ち着け、リリス」
隣の部屋では魔法陣分析中の部下がいるので、あまり胸、胸と騒がないで欲しい。結界を張って音を消しながら、部屋を別れた時に張らなかった自分を悔やんだ。まさに後悔先に立たずである。一番後悔すべきは、妙な魔法陣を自ら試す愚かさだが。
「すまん、小さくする」
胸を平らにすればいいんだよな? それなら魔法でなんとか……そう思ったが、口に出したのがまずかった。
「……それって、私が小さいって言いたいのね」
リリスと同じにすると言えばよかったのだが、最悪の単語を選んだらしい。睨みつけるリリスへ、真剣な顔でルシファーは距離を詰めた。怒って突き出た唇に啄むキスをして、ゆっくり重ねる。だが抱き締めないのは、まだ授乳中のイヴがいるからだ。
間に娘を挟んだままの百合……アンナがいたら鼻血を噴きながら大興奮しただろう。アベルも同様と思われるが、リリスの授乳である以上、見られる可能性はゼロだった。
「リリス、胸は夫が揉むと大きくなると聞いた。つまりオレの愛し方が足りないんだと思う。ごめんな」
問題をすり替えた上、自分が悪いと謝る。これはイザヤの小説から学んだ恋人の怒りを和らげる方法だ。同じ小説をリリスも読んでいるのだが、ころりと掛かった。
「そうよね、私の胸が小さいんじゃないわ。育て方が悪いのよ。それにルシファーの胸は偽物だから」
「そうだぞ、偽物に嫉妬するなんて可愛いな」
ちゅっと額にキスをしたら、満足そうに笑った。ここで「嫉妬するなんてリリスらしくない」とでも口にしたら、また大炎上だったかも知れない。
魔王が魔王妃の炎上を消火している頃、隣室でルキフェルが失敗の原因に気づいた。
「あああ! 一枚足りない?!」
「お腹空いてないのかしら」
哺乳瓶でもいいかとリリスが寝かせた隙に、ルシファーは愛娘を腕に抱く。胸が邪魔で、上からイヴの顔が見えない。巨乳は肩が凝るとぼやいていたベルゼビュートの言葉が、ようやく理解できた。
「はぁ……せっかく胸を作ったのに」
女体化したのに、母乳が出ない。成分分析は間違ってないし、魔法陣が正常なのだから体内で作られてもいいのに。しょんぼりしながら、それでも諦めきれずにイヴに乳を近づけた。素直に吸い付く吸引力抜群の愛娘は、ちゅっちゅと大人しく吸い始める。
ごくりと喉が動いた……?
リリスとルシファーが凝視する中、イヴはうっくうっくと飲み続ける。というか、本当に合成した母乳ならいいが、変な物が出ていたらどうしよう。不安になったルシファーが止めようとするが、イヴは両手を食い込ませて抵抗する。まだ小さな爪がぐいと突き立てられた。
「いててっ、リリス、どうやって外すんだ?」
「満足するまで飲ませれば、勝手に寝るわよ」
過去のルシファーに匹敵する大雑把さで、リリスは眉を寄せた。あのけしからん巨乳から出ているのは、本当に母乳かしら。イヴが飲み続ける左の乳房ではなく、右の胸を強く握った。少し滲んだものをぺろっと舐める。
「リ、リリリリリリリス?」
鈴虫のようなリの大合唱の後、ようやく妻の名を呼んだ魔王は吸い付いた彼女に慌てる。だがイヴもいるしあまり大きな動きは取れなかった。ごくりと飲んだリリスが口を離し、真剣な顔でぼそっと呟く。
「本物だわ」
「え?」
「私の母乳とほぼ同じ味みたい。なのに私の胸を押し戻して、ルシファーから飲むなんて……」
ぎりっと悔しそうに歯を食いしばったリリスは叫んだ。
「胸の大きさによる差別じゃない!!」
「しぃ……落ち着け、リリス」
隣の部屋では魔法陣分析中の部下がいるので、あまり胸、胸と騒がないで欲しい。結界を張って音を消しながら、部屋を別れた時に張らなかった自分を悔やんだ。まさに後悔先に立たずである。一番後悔すべきは、妙な魔法陣を自ら試す愚かさだが。
「すまん、小さくする」
胸を平らにすればいいんだよな? それなら魔法でなんとか……そう思ったが、口に出したのがまずかった。
「……それって、私が小さいって言いたいのね」
リリスと同じにすると言えばよかったのだが、最悪の単語を選んだらしい。睨みつけるリリスへ、真剣な顔でルシファーは距離を詰めた。怒って突き出た唇に啄むキスをして、ゆっくり重ねる。だが抱き締めないのは、まだ授乳中のイヴがいるからだ。
間に娘を挟んだままの百合……アンナがいたら鼻血を噴きながら大興奮しただろう。アベルも同様と思われるが、リリスの授乳である以上、見られる可能性はゼロだった。
「リリス、胸は夫が揉むと大きくなると聞いた。つまりオレの愛し方が足りないんだと思う。ごめんな」
問題をすり替えた上、自分が悪いと謝る。これはイザヤの小説から学んだ恋人の怒りを和らげる方法だ。同じ小説をリリスも読んでいるのだが、ころりと掛かった。
「そうよね、私の胸が小さいんじゃないわ。育て方が悪いのよ。それにルシファーの胸は偽物だから」
「そうだぞ、偽物に嫉妬するなんて可愛いな」
ちゅっと額にキスをしたら、満足そうに笑った。ここで「嫉妬するなんてリリスらしくない」とでも口にしたら、また大炎上だったかも知れない。
魔王が魔王妃の炎上を消火している頃、隣室でルキフェルが失敗の原因に気づいた。
「あああ! 一枚足りない?!」
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