上 下
81 / 530
第5章 各家庭の教育方針

80.魔王は魔王妃の炎上を消火する

しおりを挟む
 分析を行う大公達を残し、ルシファーはイヴの授乳のため私室へ移動した。リリスが飲ませ始めたものの、イヴは何やら愚図り始めた。

「お腹空いてないのかしら」

 哺乳瓶でもいいかとリリスが寝かせた隙に、ルシファーは愛娘を腕に抱く。胸が邪魔で、上からイヴの顔が見えない。巨乳は肩が凝るとぼやいていたベルゼビュートの言葉が、ようやく理解できた。

「はぁ……せっかく胸を作ったのに」

 女体化したのに、母乳が出ない。成分分析は間違ってないし、魔法陣が正常なのだから体内で作られてもいいのに。しょんぼりしながら、それでも諦めきれずにイヴに乳を近づけた。素直に吸い付く吸引力抜群の愛娘は、ちゅっちゅと大人しく吸い始める。

 ごくりと喉が動いた……?

 リリスとルシファーが凝視する中、イヴはうっくうっくと飲み続ける。というか、本当に合成した母乳ならいいが、変な物が出ていたらどうしよう。不安になったルシファーが止めようとするが、イヴは両手を食い込ませて抵抗する。まだ小さな爪がぐいと突き立てられた。

「いててっ、リリス、どうやって外すんだ?」

「満足するまで飲ませれば、勝手に寝るわよ」

 過去のルシファーに匹敵する大雑把さで、リリスは眉を寄せた。あのけしからん巨乳から出ているのは、本当に母乳かしら。イヴが飲み続ける左の乳房ではなく、右の胸を強く握った。少し滲んだものをぺろっと舐める。

「リ、リリリリリリリス?」

 鈴虫のようなリの大合唱の後、ようやく妻の名を呼んだ魔王は吸い付いた彼女に慌てる。だがイヴもいるしあまり大きな動きは取れなかった。ごくりと飲んだリリスが口を離し、真剣な顔でぼそっと呟く。

「本物だわ」

「え?」

「私の母乳とほぼ同じ味みたい。なのに私の胸を押し戻して、ルシファーから飲むなんて……」

 ぎりっと悔しそうに歯を食いしばったリリスは叫んだ。

「胸の大きさによる差別じゃない!!」

「しぃ……落ち着け、リリス」

 隣の部屋では魔法陣分析中の部下がいるので、あまり胸、胸と騒がないで欲しい。結界を張って音を消しながら、部屋を別れた時に張らなかった自分を悔やんだ。まさに後悔先に立たずである。一番後悔すべきは、妙な魔法陣を自ら試す愚かさだが。

「すまん、小さくする」

 胸を平らにすればいいんだよな? それなら魔法でなんとか……そう思ったが、口に出したのがまずかった。

「……それって、私が小さいって言いたいのね」

 リリスと同じにすると言えばよかったのだが、最悪の単語を選んだらしい。睨みつけるリリスへ、真剣な顔でルシファーは距離を詰めた。怒って突き出た唇に啄むキスをして、ゆっくり重ねる。だが抱き締めないのは、まだ授乳中のイヴがいるからだ。

 間に娘を挟んだままの百合……アンナがいたら鼻血を噴きながら大興奮しただろう。アベルも同様と思われるが、リリスの授乳である以上、見られる可能性はゼロだった。

「リリス、胸は夫が揉むと大きくなると聞いた。つまりオレの愛し方が足りないんだと思う。ごめんな」

 問題をすり替えた上、自分が悪いと謝る。これはイザヤの小説から学んだ恋人の怒りを和らげる方法だ。同じ小説をリリスも読んでいるのだが、ころりと掛かった。

「そうよね、私の胸が小さいんじゃないわ。育て方が悪いのよ。それにルシファーの胸は偽物だから」

「そうだぞ、偽物に嫉妬するなんて可愛いな」

 ちゅっと額にキスをしたら、満足そうに笑った。ここで「嫉妬するなんてリリスらしくない」とでも口にしたら、また大炎上だったかも知れない。

 魔王が魔王妃の炎上を消火している頃、隣室でルキフェルが失敗の原因に気づいた。

「あああ! 一枚足りない?!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

クソガキ、暴れます。

サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。 ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...