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第5章 各家庭の教育方針
65.会議の連絡と笑いの発作
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会議の連絡をするために魔王と魔王妃の私室の扉をノックする。一度開いてバタンと閉じられた。ムッとしながらもう一度ノックするが、今度は居留守を使われる。窓から逃げる気ですね? 数部屋先のテラスへ駆け込み、逃げようとしていた魔王ご一家に声をかける。
「ルシファー様! まさか、逃げる気ではありませんよね?」
「と、当然だ。ちょっと噴水が見たくなっただけだ」
噴水が見たくて窓から飛び出す魔王がどこにいるのか。いや、ここにいると言われたらその通りだが。愛娘イヴを抱いた最愛の妻リリスを抱え、テラスの手摺りに立った状態で発見してしまった。何とも情けない。溜め息をついて部屋に戻るよう手で示した。
ぐるりと廊下を回り込み、今度はノックなしで開け放つ。
「おい、魔王の部屋だぞ。ノックくらい」
「そうですね。居留守を使う魔王がいるとは思わなかったものですから……ねえ、陛下」
公式の呼び方をするくらい怒らせたらしい。びくりと肩を揺らしたルシファーは目を逸らした。怒られて反省するくらいなら、最初からやらなければいいものを。アスタロトの苦笑いに、リリスは平然と手を振った。
「アシュタ、今日は何かあったの?」
叱られる立場にないこともあり、リリスはあっけらかんとしている。彼女にとって一番の仕事は、我が子イヴの面倒を見ることだ。その役目をしっかりこなしている自覚があるので、アスタロトが怒っていても気にしない。昔からメンタルは強い子だった。
「500年に一度の大祭が迫っております。急ぎ準備しなくてはなりませんので、会議の予定を御伝えに来たのですが」
「なんだ、そんな用件か」
なぜかほっとした様子を見せるルシファーは、隠し事が本当に下手だった。ある意味、可哀想なくらいですよ。もっと上手に隠せるくせに、いつも隙だらけなんですからね。アスタロトは気づかなかったフリをするか迷う。どうせ大した事件ではないのだろう。
「何か叱られるような心当たりがおありですか?」
「ない」
きっぱり答える。明らかに嘘だが、発覚するまで騙されてあげましょう。にこにこするリリスは事情を知っているようで、しぃと指を立てて唇を押さえた。小さく頷いて話を逸らす。
「大祭のために積み立てた預金を解約しなくてはなりません。それ以外にも決裁事項がありますから、明日の午前中に謁見の間で会議を行います。絶対にサボらないでくださいね」
「……サボったことはないぞ、忘れただけだ」
「故意に忘れるのは、サボったと言うのですよ」
ぴしゃりと過去の行いを咎められ、ルシファーは反論を諦めた。記憶力の良さはアスタロトの方が上だ。ルシファーは自分に都合の悪いことは、さらっと忘れる特技があった。その点でいつも揚げ足を取られてしまう。
「あぶぅ」
イヴが短い手を振り回す。何やら興奮した様子で、唾を飛ばしながら騒いでいた。覗き込んだ大人の顔へ手を伸ばし、次々と唾だらけの指で触れる。ルシファーは表情を緩め「可愛い」と親バカを発揮し、顔を引いて避けたのがアスタロト。実母であるリリスはその指をぱくりと咥えた。
「きゃぁ!」
大喜びのイヴがその指をルシファーの鼻に突っ込む。痛いと涙目の魔王をよそに、アスタロトは腹を押さえて笑いを堪えていた。鍛えた腹筋がひくひくと揺れ、やがて堪えきれずに膝を突いて笑い転げる。時折起きる発作だからと放置し、アスタロトは笑いが収まるまで十数分苦しんだ。
はしゃぎ疲れたイヴがうとうとし始めた頃、ようやくアスタロトが立ち上がる。乱れた息を整える側近をじろりと睨み、ルシファーは「さっさと帰れ」と追い払った。
「では明日、リリス妃もぜひご参加ください」
「わかったわ」
リリスの黒髪を握って眠るイヴを前に、また思い出し笑いしそうなアスタロトは表情を引き締めて退室した。
「ルシファー様! まさか、逃げる気ではありませんよね?」
「と、当然だ。ちょっと噴水が見たくなっただけだ」
噴水が見たくて窓から飛び出す魔王がどこにいるのか。いや、ここにいると言われたらその通りだが。愛娘イヴを抱いた最愛の妻リリスを抱え、テラスの手摺りに立った状態で発見してしまった。何とも情けない。溜め息をついて部屋に戻るよう手で示した。
ぐるりと廊下を回り込み、今度はノックなしで開け放つ。
「おい、魔王の部屋だぞ。ノックくらい」
「そうですね。居留守を使う魔王がいるとは思わなかったものですから……ねえ、陛下」
公式の呼び方をするくらい怒らせたらしい。びくりと肩を揺らしたルシファーは目を逸らした。怒られて反省するくらいなら、最初からやらなければいいものを。アスタロトの苦笑いに、リリスは平然と手を振った。
「アシュタ、今日は何かあったの?」
叱られる立場にないこともあり、リリスはあっけらかんとしている。彼女にとって一番の仕事は、我が子イヴの面倒を見ることだ。その役目をしっかりこなしている自覚があるので、アスタロトが怒っていても気にしない。昔からメンタルは強い子だった。
「500年に一度の大祭が迫っております。急ぎ準備しなくてはなりませんので、会議の予定を御伝えに来たのですが」
「なんだ、そんな用件か」
なぜかほっとした様子を見せるルシファーは、隠し事が本当に下手だった。ある意味、可哀想なくらいですよ。もっと上手に隠せるくせに、いつも隙だらけなんですからね。アスタロトは気づかなかったフリをするか迷う。どうせ大した事件ではないのだろう。
「何か叱られるような心当たりがおありですか?」
「ない」
きっぱり答える。明らかに嘘だが、発覚するまで騙されてあげましょう。にこにこするリリスは事情を知っているようで、しぃと指を立てて唇を押さえた。小さく頷いて話を逸らす。
「大祭のために積み立てた預金を解約しなくてはなりません。それ以外にも決裁事項がありますから、明日の午前中に謁見の間で会議を行います。絶対にサボらないでくださいね」
「……サボったことはないぞ、忘れただけだ」
「故意に忘れるのは、サボったと言うのですよ」
ぴしゃりと過去の行いを咎められ、ルシファーは反論を諦めた。記憶力の良さはアスタロトの方が上だ。ルシファーは自分に都合の悪いことは、さらっと忘れる特技があった。その点でいつも揚げ足を取られてしまう。
「あぶぅ」
イヴが短い手を振り回す。何やら興奮した様子で、唾を飛ばしながら騒いでいた。覗き込んだ大人の顔へ手を伸ばし、次々と唾だらけの指で触れる。ルシファーは表情を緩め「可愛い」と親バカを発揮し、顔を引いて避けたのがアスタロト。実母であるリリスはその指をぱくりと咥えた。
「きゃぁ!」
大喜びのイヴがその指をルシファーの鼻に突っ込む。痛いと涙目の魔王をよそに、アスタロトは腹を押さえて笑いを堪えていた。鍛えた腹筋がひくひくと揺れ、やがて堪えきれずに膝を突いて笑い転げる。時折起きる発作だからと放置し、アスタロトは笑いが収まるまで十数分苦しんだ。
はしゃぎ疲れたイヴがうとうとし始めた頃、ようやくアスタロトが立ち上がる。乱れた息を整える側近をじろりと睨み、ルシファーは「さっさと帰れ」と追い払った。
「では明日、リリス妃もぜひご参加ください」
「わかったわ」
リリスの黒髪を握って眠るイヴを前に、また思い出し笑いしそうなアスタロトは表情を引き締めて退室した。
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