61 / 530
第4章 魔王なら出来て当たり前
60.敵は完膚なきまでに潰すべき
しおりを挟む
数千年かけて統一し、数万年かけて邪魔な異物を排除した。魔王妃リリスを拾った頃から急展開が続いたが、魔の森との意思疎通も図れるようになった今日この頃……ようやく安定してきたのに。こんな場所で、我々の大切な子ども達の魔力を奪おうなど。
くつりと喉を震わせて笑う。アスタロトの残虐さが口元に滲んでいた。義娘や孫には到底見せられない顔だ。半透明の結界を展開してくれたことに礼を言わなくては。人影程度しか見えないのを確かめて、アスタロトは愛剣を抜いた。
鞘を収納へ放り込む。この場を破壊するのに必要な魔力量は、全体量のおよそ3割。その程度使っても支障はない。まだ眠りの時期は遠いので、しばらく大きな魔法を使わずにいれば回復する程度の量だった。このまま帰還する道も開けたが、報復しないのは性に合わない。
敵は完膚なきまでに潰すべきだ。二度と歯向かおうと考えないところまで、徹底的に潰すのがアスタロトの流儀だった。魔力を固めて作った虹色の刃を振りかぶる。大量の魔力を流して、剣の密度を高めた。虹色の輝きが眩しいほど増したところで、一気に叩きつけた。
パリン……鏡が割れるような音がして、世界にヒビが入っていく。色のない白の世界は、我々の世界と法則が違う。純白の魔王が最強と称されるように、色の淡い者ほど強い法則が適用されていなかった。このこと自体、ここが異世界だと示す材料だ。飽和するほど大量の魔力を注がれ、破裂した。
「異世界に繋がる必要も意味も感じませんね……ああ、でも日本人の知識はとても役立っていますが」
思い出したように付け足し、満足げに笑う。書類の分類や文官に責任を持たせて役職に応じた分業を命じる方法は、今の魔王城上層部の負担を半減させた。こういった繋がりならば大切にするが、一方的に魔力を搾取する相手は不要だ。
「二度と手出しはさせません」
繋がった世界にすぐ飛び込んだため、今回は追跡が可能だった。だが一度繋がった異世界が、子どもを内包したまま繋がりを切った場合……二度と追えなくなる。数えきれない無数の世界の中から、子ども達の幼い自我や不安定な魔力を手掛かりに探すのは難しかった。
今回は運が良かった。だが二度目を防ぐ手立ては必要かもしれませんね。考えながら、再度剣を振るう。ぎりぎりで持ち堪える世界のバランスが崩れた。何かの悲鳴に似た甲高い音がキーンと響き渡る。無意識に音を遮ったアスタロトが、溜め息を吐いた。
「足掻くくらいなら、手を出さなければよいものを」
何らかの攻撃と判断し、音を完全に遮断する。と同時に、同じ結界をルシファーの結界に重ね掛けした。どうせ音も光も遮っているでしょうが、安全装置はいくつあっても困りませんから。あの結界の中には、命より大切な主君がいる。可愛い娘と孫も……毛筋ほども傷つけさせる気はなかった。
大きくヒビが広がって剥がれる世界の核を貫くように、アスタロトの剣が突き立てられる。さらに大きな悲鳴が響いたが、誰の耳にも届かなかった。やがて声が掠れて消えて、静けさが戻る。淡く発光する白い世界は、ぼんやりした灰色の世界へ変わった。
「ルシファー様、終わりました」
こんこんと結界をノックすると、内側から念話が届いた。このまま転移するから、ついて来いと。自分勝手ですね。私を結界に回収してから飛べばいいものを、横着するあたりがルシファー様です。ぶつぶつと文句を並べながらも、眉間に皺はない。
振り返った後ろは荒涼とした灰色の世界、きっとここはまだ構築中の世界だったのでしょう。新しく何かを作り上げるために、必要なエネルギーを近接する世界から奪った。そこに善悪の判断はなく、ただ魔力を保有する生き物を無差別に選別したはず。
動物どころか植物すらまだの世界が、我が主君の治める世界に手を出すなど、身分不相応です。そう吐き捨てて、転移する結界に魔力を繋いで飛んだ。消える直前、伸ばされる手に気づく。ローブに触れた手を払うのではなく、肩の留め金を外して脱ぎ捨てた。
道連れはご免ですからね。
くつりと喉を震わせて笑う。アスタロトの残虐さが口元に滲んでいた。義娘や孫には到底見せられない顔だ。半透明の結界を展開してくれたことに礼を言わなくては。人影程度しか見えないのを確かめて、アスタロトは愛剣を抜いた。
鞘を収納へ放り込む。この場を破壊するのに必要な魔力量は、全体量のおよそ3割。その程度使っても支障はない。まだ眠りの時期は遠いので、しばらく大きな魔法を使わずにいれば回復する程度の量だった。このまま帰還する道も開けたが、報復しないのは性に合わない。
敵は完膚なきまでに潰すべきだ。二度と歯向かおうと考えないところまで、徹底的に潰すのがアスタロトの流儀だった。魔力を固めて作った虹色の刃を振りかぶる。大量の魔力を流して、剣の密度を高めた。虹色の輝きが眩しいほど増したところで、一気に叩きつけた。
パリン……鏡が割れるような音がして、世界にヒビが入っていく。色のない白の世界は、我々の世界と法則が違う。純白の魔王が最強と称されるように、色の淡い者ほど強い法則が適用されていなかった。このこと自体、ここが異世界だと示す材料だ。飽和するほど大量の魔力を注がれ、破裂した。
「異世界に繋がる必要も意味も感じませんね……ああ、でも日本人の知識はとても役立っていますが」
思い出したように付け足し、満足げに笑う。書類の分類や文官に責任を持たせて役職に応じた分業を命じる方法は、今の魔王城上層部の負担を半減させた。こういった繋がりならば大切にするが、一方的に魔力を搾取する相手は不要だ。
「二度と手出しはさせません」
繋がった世界にすぐ飛び込んだため、今回は追跡が可能だった。だが一度繋がった異世界が、子どもを内包したまま繋がりを切った場合……二度と追えなくなる。数えきれない無数の世界の中から、子ども達の幼い自我や不安定な魔力を手掛かりに探すのは難しかった。
今回は運が良かった。だが二度目を防ぐ手立ては必要かもしれませんね。考えながら、再度剣を振るう。ぎりぎりで持ち堪える世界のバランスが崩れた。何かの悲鳴に似た甲高い音がキーンと響き渡る。無意識に音を遮ったアスタロトが、溜め息を吐いた。
「足掻くくらいなら、手を出さなければよいものを」
何らかの攻撃と判断し、音を完全に遮断する。と同時に、同じ結界をルシファーの結界に重ね掛けした。どうせ音も光も遮っているでしょうが、安全装置はいくつあっても困りませんから。あの結界の中には、命より大切な主君がいる。可愛い娘と孫も……毛筋ほども傷つけさせる気はなかった。
大きくヒビが広がって剥がれる世界の核を貫くように、アスタロトの剣が突き立てられる。さらに大きな悲鳴が響いたが、誰の耳にも届かなかった。やがて声が掠れて消えて、静けさが戻る。淡く発光する白い世界は、ぼんやりした灰色の世界へ変わった。
「ルシファー様、終わりました」
こんこんと結界をノックすると、内側から念話が届いた。このまま転移するから、ついて来いと。自分勝手ですね。私を結界に回収してから飛べばいいものを、横着するあたりがルシファー様です。ぶつぶつと文句を並べながらも、眉間に皺はない。
振り返った後ろは荒涼とした灰色の世界、きっとここはまだ構築中の世界だったのでしょう。新しく何かを作り上げるために、必要なエネルギーを近接する世界から奪った。そこに善悪の判断はなく、ただ魔力を保有する生き物を無差別に選別したはず。
動物どころか植物すらまだの世界が、我が主君の治める世界に手を出すなど、身分不相応です。そう吐き捨てて、転移する結界に魔力を繋いで飛んだ。消える直前、伸ばされる手に気づく。ローブに触れた手を払うのではなく、肩の留め金を外して脱ぎ捨てた。
道連れはご免ですからね。
20
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です
天野ハザマ
ファンタジー
その短い生涯を無価値と魔神に断じられた男、中島涼。
そんな男が転生したのは、剣と魔法の世界レムフィリア。
新しい職種は魔王。
業務内容は、勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事?
【アルファポリス様より書籍版1巻~10巻発売中です!】
新連載ウィルザード・サーガもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/375139834/149126713
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝
饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。
話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。
混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。
そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変!
どうなっちゃうの?!
異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。
★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。
★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。
★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。
スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした
メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました!
1巻 2020年9月20日〜
2巻 2021年10月20日〜
3巻 2022年6月22日〜
これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます!
発売日に関しましては9月下旬頃になります。
題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。
旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~
なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。
────────────────────────────
主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。
とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。
これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる